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柏崎刈羽原発2020年の不正ID事件(4)「暫定評価」という言質

柏崎刈羽原発2020年の不正ID事件(1)(2)(3)の続き。


<しつこいが、あらすじ。そして感想>

東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)で不正ID事件(2020年9月20日)が4か月後(2021年1月23日)に発覚。4日後の1月27日に今度は外部からの侵入を検知する設備が損傷する事件(規制庁は「核物質防護設備の機能の一部喪失事案」と呼んでいる)も発覚した。
【感想】まるで事件を別の事件で薄めるようなタイミングだったと今にして思う(経緯はこちらP63〜64)。

それから3年。規制庁はこの2事案について「追加検査」を4268人・時間かけて行い、2023年12月6日原子力規制委員会で事態は改善され、再発しても東電が自律的に改善できると報告(P18~19)した。
【感想】3年も「追試」をし続けなければ合格できない劣等生に原発を運転させ続けるのは異常ではないかと改めて思う。

「正確な情報発信」確認対象から除外?

東電に、柏崎刈羽原発を運転するに足る技術的能力があるかどうかの「適格性判断の再確認」については、理解し難い記述があった。

柏崎刈羽原発の保安規定第2条に東電自身が盛り込んだ7つの「原子力事業者としての基本姿勢」のうち基本姿勢1の「課題への対応について地元をはじめ関係者の関心や疑問に真摯に応え正確な情報発信を通じてご理解を得ながら取り組み、廃炉と復興を実現する」については、福島第一原子力発電所に対する規制に直接的に関連するものではないことから、今回の確認対象から外した」というのだ。

東京電力ホールディングス株式会社に対する
平成29年の適格性判断の再確認に係る原子力規制庁による確認結果
(令和5年12月6日原子力規制庁)

しかし、最近起きた下請け作業員の被ばく事件で、東電の情報が後出し、小出しで二転三転し(*)、東電の情報発信の不正確性に辟易していた。なぜあえて、それをここに来て、「確認対象外」とするのか理解できなかった。そこで尋ねた。

○記者 適格性の再確認についてなのですけれども、再確認の進め方は今年の7月12日に規制委員会のほうで、これでよしということで進めた。その一つが保安規定第二条の原子力事業者としての基本姿勢だと思うのですけれども、今日聞いていて、びっくりしたのが、基本姿勢1について正確な情報発信を通じて理解を得ながら廃炉をするということについては、これは規制に直接関係するものではないことから今回の確認対象から外したということで、これに対して科学者5人がそろっているにもかかわらず、何の異論も出なかったのですが、これはどういうことでしょうか。要するに、検査項目が決まっているのに、後で検査項目を変えるというのは、例えば研究デザインにしてもそうですけれども、あり得ない変更だと思うのですが、これはなぜ、誰も異議を唱えなかったのか、お願いします。

○山中委員長 情報発信については直接安全に関わるものではございませんので、そういう観点から検査官はその項目については、もちろんその第一項目は見ているわけでございますけれども、その項目については検査の対象から外した。当然のことながら安全に直接関係する問題ではございませんので、委員からも異論が出なかったというふうに思っております。私自身もそのように考えています。

○記者 ただですね、安全に関係なければという項目は、基本姿勢1にはなくて、東京電力、柏崎刈羽を運転する事業者の責任として、廃炉を主体的に取り組み、正確な情報発信を行うとなっているわけで。
 しかも今回、例の洗浄作業で被ばくしてしまったことに対しての正確な情報発信がされなかったのは委員長も御存じのとおりです。この同じ基本姿勢1のところにですね、それについてはまだ現在検査中であるというのにもかかわらず、あえてこの情報に関しては関係ないから、確認対象から外したというのは、まるで都合の悪い結果が出てきたから、これから外しますというふうにしか読めないのですがいかがでしょうか。

2023年12月6日原子力規制委員長会見録

被ばく事件は検査中なのに「実施計画への軽微な違反事案」?

「この同じ基本姿勢1」に書いてあったのは、「協力企業作業員の身体汚染については、現在検査中である」という以下の箇所だ。そこには「実施計画への軽微な違反事案は見られるものの、東京電力は基本姿勢1に則って、廃炉に取り組組んでいる状況が確認された」とも書いてある。

東京電力ホールディングス株式会社に対する平成29年の適格性判断の再確認に係る原子力規制庁による確認結果(令和5年12月6日原子力規制庁)

これに対し、山中委員長は以下のように回答した。

○山中委員長 そのようには考えておりません。情報発信というのはあくまでも安全に直接関係することではないので、検査対象から外したということでございます。それはもう7月にどういう項目を検査するのかということについてお話をさせていただいたときに、恐らく検査官はそのつもりで検査をしたんだろうというふうに思っております。

○記者 そうであれば、あらかじめちょっと正確な情報発信については検査の確認項目から外しますと最初から言っておくべきだと思うのですが、後出しでは、規制委員会としての沽券に関わると思うのですが、どうでしょうか。

○山中委員長 私自身ある沽券に関わるとは思っておりませんし、規制委員それぞれ御判断になって、今日特に異論はなかったということでございますので、私自身も安全に直接関わることではないので、検査をしなくていいという検査官の判断は特段問題があるというふうには思っておりません。当然、委員会としての判断はこれからですので、最終的に委員それぞれが問題であれば、意見を述べられるというふうに思っております。

2023年12月6日原子力規制委員長会見録

確認の仕方を後で変えるのは、どうしても納得がいかない。一旦、切ろうとしたが、後悔はしたくない。爪一枚でいい、引っかかりが欲しい。粘った。

「暫定評価」という言質はとった

○記者 一旦終わります。取りあえず、まだ現在も検査中ということでありますので、結論は変わり得ると思いますが、その理解でよろしいですか。

○山中委員長 適格性の再確認の検査については、一応終了したというふうに思っております。委員会としての判断は、まだこれからというところでございます。

○記者すみません。これに関してもう一点だけ。ここに実施計画への軽微な違反事案は見られたもののということで整理してありますが、軽微かどうかも現在検査中であるにもかかわらず、もう結論が先に出ているように見えますが、これは不適切な書きぶりではないでしょうか。

○山中委員長 これは暫定評価ということとして考えていただいたらいいかなと、今の事案でございますけれども。この6年間にいわゆる軽微な違反以上のものは見いだせなかったというのが福島第一の実情だと思いますし、今回の事案も重大な事案になるかどうかということについては最終的な決定、議論については今月半ばの検討会(特定原子力施設監視・評価検討会)に図る必要がございますけれども、現時点で何か重大な状況であるというような報告は受けておりません。

○記者 
本当に最後です。安全に関わらないとか何とかということもですね、実際には被ばくされた方がいらっしゃって、下腹部に(洗浄廃液が)かったので、除染のために陰毛も剃ったという、そういう事件なわけなので、これ本当に規制庁、規制委員会、大丈夫ですかと疑われる事案だと思うのですね、これは安全に関わってないという整理をしては。ですので、これは暫定ということで、この暫定の結果によっては、今回の検査結果というのも変わり、再確認も変わり得るというふうに思いますが。
○山中委員長委員会 として、まだ最終決断をしたわけではございませんので。
○記者 ありがとうございました。

2023年12月6日原子力規制委員長会見録

この日の真剣勝負は終わった。

最終評価に至らない限り

廃炉作業の一環で行っているALPSの中で起きた下請け作業員の被ばく事件については、「今月半ばの検討会(特定原子力施設監視・評価検討会)に図る」と山中委員長は繰り返し述べており、この日も述べた。

少なくとも、この被ばく事件への「暫定評価」が最終的な評価に至らない限りは、柏崎刈羽原発を運転する東電の技術的能力もまた再確認できたとは言うべきではないだろう。

(*)例
3週間して初登場の東芝作業員4人と被ばく事故の発端:福島第一
被ばく事故:東電は元請4人を認識していた

【タイトル写真】

2023年12月6日、山中伸介原子力規制委員長会見にて筆者撮影

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