煙の正体:汚染水を薄めるポンプのためだった
今年2月の空撮動画に、福島第1原発5号機の海岸端でモクモク立ち昇る煙が写っていた。「東京電力福島第一原発既設の何かの「溶断」で無許可の煙上がる」(5月10日)の続き。
汚染水を薄めて海洋放出するための準備
煙の源は、事故前に5号機原子炉のための冷却水を組み上げていた「循環水ポンプ」3台の溶断だとわかった。その3台があった場所に、ALPS処理水を薄めるための海水を汲み上げる「海水移送ポンプ」3台を新たに設置しようとして、除却する「循環水ポンプ」を溶断したのだという。そのまま捨てると場所を取るという理由だ。
つまりこの溶断作業は、約1000基のタンクに貯水した汚染水(7割以上がトリチウム以外の核種も含め、基準の2万倍近い汚染水。ALPS(多核種除去設備)による再処理、再々処理をしなければ「ALPS処理水」とさえ言えない純然たる汚染水)をALPSにかけた後に海水で薄めて海に捨てるために必要な準備作業だ。
場所は、東電資料で示せば(下図)「ここ」と加筆したあたり。「海水移送ポンプ(3台)」とある位置だ。
この溶断作業のあり方について、5月10日の記者会見で山中委員長に聞いた。
「恐らく通常の日常作業の中の一つ」
「見えない化」されている下請け作業員たち
なぜ私が「よろしくお願いします」と言いうかといえば、1Fの下請け作業員の健康を守る体制を信用してはいけないと、思っているからだ。
東京電力本社の担当者は、煙を出す作業(溶断)が「特定原子力施設の実施計画」(原子炉等規制法第64条の3)に位置付けられた作業でないことは即答したが、そこで煙の出る作業が行われていることは知らなかった(動画改ざんを疑うほど)。
山中委員長はこの件でも無気力であることはわかったので、心残りのないように、もう一度、東京電力の担当者に聞いた。
同担当者が最初に回答をくれた時に「一般的な考え方では表面線量率を確認して、汚染自体がそんなに高いと確認して溶断作業を行なったと思われる」と述べていた。本当に測ったなら、その線量を教えてと頼んだ。その結果、ポンプは海抜2.5メートルのところにあったもので、電動機の下部にポンプ(水を汲み上げる羽根がついたケーシング)がついており、大きさは縦10メートル、横2.6メートル。汚染は4Bq/cm2以下だったのだという。5月15日に返事をもらった。
また、作業した人は下請けだが、「毎日APD(警報器付きの個人線量計)と退域モニターで管理しているし、毎日ではないがホールボディ・カウンターの検査も行っている」。そうした防護策で、万が一被ばくが起きればお知らせしている、というのだ。しかし、溶断作業を行ったのが何次請の下請けなのかは、いつもの通り教えてくれない。「見えない化」されている。誰からも見えないところで、下請けさんが廃炉作業を続けている。
もう一度繰り返しておく
特定原子力施設は「核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物若しくは原子炉による災害を防止するため、又は特定核燃料物質を防護するため、当該設置した施設の状況に応じた適切な方法により当該施設の管理を行うことが特に必要であると認めるとき」(原子炉等規制法第64条の2)に指定される。1Fは普通の発電所ではない。
トリチウム水を薄めて海洋放出することを容認するわけではない。しかし、国内外からも注目され、賛否のある大掛かりな作業をしている場所で、東電本社も原子力規制委員会も知らない煙が立ち上った。やるならちゃんとしないと、全てがズサンに、下請け任せで進むのではないかと、悪い予感しかしないのである。
【タイトル画像】
2023年4月14日 原子力規制委員会特定原子力施設監視・評価検討会 資料7-1-1:多核種除去設備等処理水希釈放出設備および関連施設等の設置工事の進捗状況について[東京電力] より。この資料を見ても、新たな設備の設置工事ついては書かれていても、既存施設にどのようなものがあり、どう除却していくのかは、書かれておらず、<監視・評価・検討>されていない。
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