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バー・レイザー〜アマゾン中途採用の舞台裏#11 「分析力・問題解決力」のある人を見極める by もと中の人

外から見ていると問題なく日々運営されているように見えるアマゾンでも常に何か問題が生じていました。もちろん、お買い物に支障をきたすような重篤な問題はすぐに修正・修復されますが、簡単には解決できない問題、解決には長期間を要する問題もありました。

例えば「商品の在庫切れを防ぐ」という問題一つとってもその解決策はいくつものアプローチがあり、正しいアプローチに対してどのような打ち手を取るのか、という選択肢も多数あります。在庫切れを防ぐために商品在庫を無尽蔵に持つことはできませんし、在庫過多のあまりにP/Lを棄損したり、キャッシュフローが悪化してしまいます。一方、在庫を絞れば「在庫切れ」表示が増加し、購買率(CVR コンバージョンレイト)が下がり、売上が下がります。

私が書籍事業を担当していた時に重要視していたMetrics(数値、データ)のひとつはIn-stock %でした。アマゾンの顧客が閲覧する一つ一つの書籍の商品詳細ページ(Detail Page)の閲覧数を分母とし、実際にアクセスされた際に「在庫あり、すぐに出荷」という状態で閲覧できた場合の回数を分子としていました。例えば、閲覧数合計が100、「在庫あり」状態であった回数が95だとするとin-stock%は95%というわけです。毎週月曜に必ずその数値の変動を追いかけ、前週との乖離、過去13週間のトレンドの把握を行い、その変動要因を必ず明確にしていました。

アマゾンでは"Dive Deep"というリーダーシッププリンシプルがあり、これを元に今回のテーマである「分析力・問題解決力」について考えてみます。アマゾンのサイトからDive Deepの定義をみてみることにしましょう。

Dive Deep
リーダーは常にすべての階層の業務に気を配り、詳細な点についても把握します。頻繁に現状を検証し、指標と個別の事例が合致していないときには疑問を呈します。リーダーが関わるに値しない業務はありません。

Dive Deepはアマゾン社内での会話に頻出する言葉でもあります。例えば「先週のIn-stock %が10bps (ベーシスポイント、10bpsは0.1%)悪化しているけど、Dive Deepしてもらえませんか?」あるいは「お客様から問題を指摘されている点についてRoot Causeを確認したいのでDive Deepしてみよう」などなど。

目の前に横たわる問題を解決するには、問題の根本であるRoot Causeを探し出す必要があります。そのRoot Causeを探し出すには深く物事を掘り下げて分析し、調査する必要があります。そして、問題解決のアプローチと打ち手が決まったら、それが本当に有効であるのかMetricsを常に追いかけ、変化が生じているかをAudit=定期監査する必要もあります。

上記のin-stock %の改善のためのアプローチはもちろんたくさんありましたが、例えば一つ挙げると「納品までのリードタイムが長い」というRoot Causeが見えてきました。今度はどのVendorからのリードタイムが長いのか、特定の出版社のリードタイムが長いのか、あるいは特定の書籍の場合にリードタイムが長いのか、などを掘り下げ、実際にリードタイム短縮のための打ち手を講じていました。その打ち手が実際に有効なのかどうかをリードタイムというMetricsとしてチェックし、In-stock %の改善に繋がっているかを毎週、毎月、四半期ごとにチェックする、というわけです。

これはアマゾンのみのユニークな文化ではなく、多くの企業でもこうした問題解決のアプローチが求められていると思います。中途採用面接において、こうした「問題解決に長けた人・分析力に優れた人」を見極めるには、Dive Deepを探る質問が有効です。

質問:
あなたが携わった仕事で最も複雑な問題は何でしたか?
具体的な例を挙げて教えてください。

この質問で見るべきポイントをはじめに整理しておくと、

  1. その問題の「複雑さ」のレベル感は募集しているポジションに期待したいレベルか?

  2. どのような分析によって問題の根本要因=Root Causeを見つけ出したのか?

  3. そのRoot Causeを解決するためのアプローチ、打ち手は何だと考えたのか?

  4. その打ち手を実行してみてどんな結果となったか?どんな変化が生じたか?

  5. それはどのように進捗確認したのか?

が挙げられます。

「複雑さ」のレベル感ですが、中途採用面接における候補者の方に期待したい問題解決力の複雑さはその役職レベルによって異なります。係長・主任レベルに期待したい問題解決と課長に期待したい問題解決のレベル感は当然異なります。面接でお話しされる「問題」の複雑さ、困難さが課長レベルに期待したい問題よりも容易なものであった場合、その方を採用してもより難しい問題解決に対応しなければならず、その方も苦労されるはずです。求めているのは「最も難しい問題」についての事例です。最も難しいと自分が思って披露している話が「複雑さに乏しい」ものであるかどうかの見極めが大事です。その後の問題解決のアプローチが良いものだとしても、難易度が低い問題であるからこそ、問題も解決できたのだと言えます。

「複雑さ」が高ければ高いほど、Root Cuaseの特定も容易ではありません。様々な客観的データをチェックし、従来は問題がないものと認識されてきた事にも疑いの目を持ち、細部にこだわって分析をしているか、について候補者のお話を引き出していく必要があります。

Root Causeが一つではない場合も生じます。複数あるRoot Causeの中でどれに集中するのか、という絞り込みについても、どのように、なぜ、それを選んだのか、という点について候補者の方が詳細を語ることができるのか、が重要なポイントとなります。また、「打ち手」をどのような分析によって導いているのか、それは単なる思いつきなのか、客観的材料をどのように積み上げているか、などが確認ポイントとなります。

問題特定に至り、打ち手を実行したあと、実際にそれが有効な施策であったのかもしっかりと引き出す必要があります。私がアマゾンでの候補者の方と行ってきた面接の中で、候補者の方からは課題を見つけ、そのための解決策を打った、という話はよく出てきます。しかし、その後どのようにそれを検証し続けていたか、その結果を見てどのように軌道修正を図ったのか、などをお聞きすると、うやむやになってしまう方がいらっしゃいました。本当に問題解決に至るまで、問題を当事者意識を持って「Roll Up Sleeves = 腕まくりして」関わり続けているか、も確認します。

上記の通り、0.1%の差異であってもチェックするのは、その変化のインパクトは分母が数億の閲覧数であれば、閲覧数で数10万回に及ぶからです。この0.1%をもっと細かく分解して、どこに問題の根本があるのか、ということを絶えず考え続けることを求めるアマゾンにフィットするにはこのDive Deepという資質は欠かすことができません。多くのポジションで事前に取り決める確認事項にほとんどこのDive Deepが含まれています。







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