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あのとき思い切って日本を飛び出していなかったら。(その6)

日本に帰国中、私はテーパード式のステロイド治療(少しずつ摂取するステロイドを減らしていく方法)を行っていきました。ステロイド治療をすれば、正直手荒れは治るのですが、治療をやめるとリバウンドといって薬に頼っていた体が自分のシステムを再稼働するのが難しくなり、湿疹やアレルギー反応により敏感になり、再び再発しやすくなります。

つまり、ステロイドは、体の中の自然治癒能力(副腎皮質ホルモンの分泌)をサボらせてしまうのです。だからいきなりやめるのではなく、少しずつ体の調子を見ながら摂取量を調整しなくてはいけないのです。さらに私の症状はひどい痒みを伴うものだったので、痒み止めの薬を同時に摂取しなくてはいけなくて、その副作用で死ぬほど眠くなります。だから、結果仕事をするのが難しくなりました。

日本に帰っていた5週間、私はじっくり日本で治療に専念することができました。7年ぶりに実家で母とゆっくり過ごし、たまに友達にも会ったりもできました。

心と体の傷を少しずつ、少しずつ癒すこと、自分と向き合い、考える時間を持つことができました。

あぁ、私は日本を飛び出してニューヨークに足を踏み入れたあの日から、走り続けていたんだなぁと思いました。

日本を飛び出した時から、「逃げられない」「もう後には戻れない」という多方面からのプレッシャーがのしかかっていたんだなぁと。ちゃんと休んでなかったし、ご飯も外食ばかりでした(今では大好きな料理だって、全然できなかったんですよ。)

そして気づいたのだ。

周りからの期待と、成功したいというプライドと、海外に逃げたって思われたくない恐れと。

これからは自分をもっと褒めてあげたいです。私はすごく頑張っていると。病気になった時「あぁ、せっかくここまで来たのに。」というものすごい失望感に襲われました。もしかしたら、もう二度と美容師ができないかもしれない。私からこの仕事を取ったら、何が残るのだろう?その不安で眠れない日々が続きました。すごく自信をなくしたし、深く傷ついて、落ち込みました。

そして、もう一度幸せについて考え、自分にとって本当に大切なものとは何か考えるようになりました。

手荒れの辛さはここでは語りきれないし、経験した人にしか分からないと思います。それでも、私の周りには素晴らしい仲間、先輩、友達、家族がいて、その人たちは無条件に手を差し伸べてくれました。

一切否定することなく、話を聞いてくれました。だから私は落ち着くことができたのです。

あんなにアメリカかぶれだった私。ニューヨーカーになりたくてしょうがなくて、日本を見下していた私。それでも、私の生まれ育った日本という国では、住民票も保険もない人でもアメリカの20分の1ほどの金額で治療を受けることができるのです。だから私は手荒れを治すことができたのです。

ニューヨークに戻った後、働く時間を減らし、それを自分と向き合う時間にあてた。目の前に見えるもの、耳に飛び込んでくるもの、肌で感じるもの、生きているだけで手に入る美しいものが、たくさんあることに気づきました。

空が青いこと、ごはんがおいしいこと、自分を好きでいられること。人間であれば誰もがそれを感じる権利があり、そこには何の順位や制限もなく、いつでも、そこにあるもの。長い間、忘れていました。

何かにコントロールされていると、自分とまっすぐ向き合うことを忘れてしまう。私の場合は目標やゴールが期待やプレッシャーによって左右されていたし、見栄やプライドも邪魔をしていました。

本当に本当に落ち込んだ時には助けてくれる人がいて、また感謝の気持ちを思い出すことができる。心のそこから湧き出る感謝の気持ちで、心がいっぱいになったとき、私は何のためにそんなに頑張っていたのか、忘れてしまいました。

今だったら、もしも明日から美容師ができなくなっても別にいいかなって思います。

もしも私が美容師じゃなかったとしても、ニューヨークに来るまで、私は “Being gay does not makes less human” (同性愛者でいることは、その人が人間であるという事実を損なうものでは決してない。)ということすらも知りませんでした。

ニューヨークは、肌の色や、宗教、あなたが誰を愛するかで法的に裁かれたり、暴力や偏見を受けるのは間違っていると教えてくれました。この世に生きるすべての人が、生きる・感じる・信じることを約束されているのだと教えてくれました。

健康で、自分が自分らしく居ることができる。目標や夢を持つことができる。それに向かって切磋琢磨する仲間がいる。それだけで、いいんです。

辛い思いは何度もしたけど、それでもなお自分は生きていて、健康で、本当にラッキーだなと思います。それでも、この先も人生は困難だらけで、複雑で、誰も完全にコントロールできないのです。しかし、それを知る謙虚さによって人生の浮き沈みを切り抜けることができるのだと思います。

私は自分の脳みそを、今もこれからも、クリエイティブにフル回転させ、人を少しでも幸せに、そしていつも支えてくれる人たちへの恩返しができたらな、という(長すぎる)ブログでした。

読んでくれてありがとうございます!

Have a nice day :)

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