見出し画像

第十章 人をまとめる役割の魅力って何?

この章の本題に入る前に、第一章で触れた内容についておさらいです。

「リーダーとは何をする人なのか」

聞かれる度に違う内容を回答する価値観は浸透しないという原則について触れました。そして、第一章の学びを実践していただくと、リーダーに挑戦しようという部下は現れ始めます。

そこで、今回はリーダーに挑戦した部下たちが「役職者に昇進することに興味を持つ」にはどうしたら良いか触れていきます。第一章と同じような問いになりますが、今度はあなたの事業部に特化してイメージしてみてください。

「あなたの事業部で役職者になることの魅力は何ですか」

これが普段からあなた自身の言葉で言語化がなされているか、ぜひ振り返ってみてください。もし、今すぐに答えてみてくださいと問われたときに「やりがいがある」「成長できる」「視座が高くなる」などの一般論だけしかとっさに出てこなかったら、今回お伝えする内容はとてもあなたにとって大切なテーマになるでしょう。

例解として、私が部下に伝える「役職者になることの魅力」の変遷をご紹介します。「変遷」という表現を用いたのは、役職者になったばかりの頃と、何年もマネジメントを経験した今では、感じている魅力が異なるからです。

一、部下の働きやすい環境を作る機会が得られ、部下のやりがいを自分のやりがいに感じられる

この解は、マネジメント一年目に感じていたことです。プレイヤーとして仕事をしているときには、自分ひとりの仕事の成果に対するやりがいであったのに対して、部下を間接的に支援することで、部下の一人ひとりの充実した仕事ぶりが自分のやりがいに繋がるというものでした。

特に着任前は退職者が続出していた事業部において、私が着任後は人材が定着した結果を得られることで、やりがいを感じていた時期になります。しかし、この解だと、個人として成果を上げることに魅力を感じる人には役職者の魅力は伝わりません。

二、事業部に良い変化をもたらして、成果を上げることでやりがいを感じられる

役職者になったばかりの頃は「働きやすさ」を重視した考え方であったのに対し、この時期はチームで成果を上げることにこだわりを持っていました。

人材を定着させるだけでなく、やはり事業部として掲げた目標に対して、しっかり数字を上げていく、私がその点にこだわりを持つのと持たないのとでは、部下のパフォーマンスが変わりました。

「成果を出すため」にチームとしての人材配置や業務分掌の仕組み、何を行って何をしないのか、仕掛けの取捨選択をおこなうことも、役職者だからこそ意思決定に参加できるやりがいのあるところでした。

しかし、「働きやすさを提供すること」も「成果を上げること」も語尾に「やりがい」という言葉が入ることに私は次第に違和感を覚え始めます。

確かに役職者を務めることで、やりがいは得られます。ただし、私がこれまで示したようなやりがいは、「何かを終えた後」に感じるものでした。

働きやすい環境を整えた後、事業部として成果を上げた後、いずれも何かを成し遂げた後です。果たして、役職者のやりがいは何かを終えた後にしか感じられないものでしょうか。このことを突き詰めて考えていくことで、次の解に至りました。

三、解くべき「問題」を決められる

戦略、戦術という言葉があります。目的地を決めることが「戦略」だとすると、目的地にたどり着くための手段を「戦術」として整理できますが、役職者には「戦略」を決められるという魅力があります。

ただ、戦略は多ければ多いほど良いわけではありません。そこで的を絞る必要があります。どの的を目指すのか、それを端的に表したのが「解くべき『問題』を決められる」魅力です。具体的に触れてみます。

保育士、幼稚園教諭を送り出す専門学校に着任したときに、卒業生が新卒として入職した幼稚園、保育園に定着せずに退職してしまうという課題を引き継ぎました。退職に至る要因は、職場の人間関係が主たる理由です。

他にも保育士、幼稚園教諭業界の特徴として人手が不足していることから、入職における選考の機会が1回で決まることが多く、生徒は入職に向けて苦労していないため、せっかくもらった内定も大切だと捉えないことが要因として考えられました。

卒業生が定着しないという課題に、人間関係や選考の機会が解答として考えられた場合、どこに解くべき問題があるか、私は次のような順番で考察して決めました。

階層一 教員の覚悟が甘く、生徒が教員に対してタメ口で話すことを許される
階層二 教員との距離をはき違え、教員が何か失敗したときに生徒が指摘するようになる(最初は笑いを取るため等)
階層三 クラスメイトを笑わせるためという点が薄れ、指摘が日常茶飯事になる(段取り、言った言わない、先生同士の発信の違いなど)
階層四 自分の意見で大人が慌てふためく、自分たちのために大人が動いて変えようとしてくれることが当然という感覚になる
階層五 社会でも大人(上司・同僚)のあら探しをするようになるが、教員と違って変えようとしてくれない環境を呪い、退職していく
階層六 環境を変えるのではなく、自分を変えるという視点を持てない卒業生を輩出することになる

階層六から階層一の順番にさかのぼって考察をしたときに、この専門学校で真っ先に解くべき問題は、生徒が教員にタメ口で話す環境を許していることでした。

真っ先に取り掛かるという「問題の優先順位」は、役職者の価値観によって変わります。これを自ら立てた仮説に従って、事業部全員で取り掛かるべき問題を決められるのは、個人の仕事で仮説検証を繰り返すPDCAを回していくよりも、もっとやりがいがあります。つまり、「何かを成し遂げた後」ではなく、行動の指針を打ち出せることにやりがいを得られるのです。

この指針を打ち出し、教員が生徒に敬語の徹底を指導し始めると、明らかに在校生の授業態度が変わりました。さらに「自分を変える」という視点を持った卒業生を輩出することで、卒業生の定着という課題をクリアすることができました。

この結果を受けて、部下に自分が解くべき問題を決めて、事業部が変わり、結果が変わることの魅力を伝えたところ、問題を決められる役割に興味を持ってくれました。

この章のまとめとして、まずはあなた自身の言葉で、あなたの事業部で役職者になる魅力を言語化してください。そして、解くべき問題を共有して、何のためにその問題を解きたいのか、発信してください。その問題を解決して、事業部が、そして結果が変わったら、部下は役職者に興味を持っていくことにつながります。

次の章では、これまで述べた第一から第十章までの「上司としてのあり方」が固まったら効果を発揮する「部下への仕掛け」について触れていきます。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リーダ―育成・事業部再生コンサルタント

本間 正道
twitterID:@masamichihon

Email:playbook.consultant@gmail.com

著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

よろしければサポートをお願いいたします。御恩は忘れません。頂いたサポートは、多くの人材が再び輝く日本にしていくための活動に充てさせていただきます。