たった一文字で変わる伝え方の力
“伝える言葉を選ぶときに、一文字の違いまでこだわっているか”
マネジャーになると、人に発信する機会が多くなります。身近な例を多数挙げられるほど、伝え方一つで部下のやる気は良くも悪くも変わります。
僕は幸いなことに、新卒で入社後専門学校現場で担任としてクラスのマネジメントをしていました。なぜ、幸いと表現したのでしょうか。
それは職場の上司、部下の関係と違い、担任と生徒は利害関係を超越するものだからです。つまり僕自身の伝え方に納得いかなければ、生徒達は露骨に態度に表します。
生徒達のおかげで、僕が今マネジャーとして部下に発信する伝え方は磨かれたと言っても過言ではありません。
例えば、以下の発信内容の中で生徒が抵抗を感じる表現は何か想像つきますでしょうか。
「今回の検定は、これまでの受験料に比べて高くないので、是非受験してください。金額が発生することなので、帰宅後、ご両親に相談してみてくださいね」
いかがでしょうか。ポイントは2つあります。
以下に記載しますね。
①(受験料が)高くない・・・金銭感覚は人それぞれ、主観を挟まない
②ご両親・・・母子、父子家庭の人もいるので保護者の方という言葉で発信する
このような発信を日常的に繰り返していると、生徒は担任不信に陥り、最後は学校に不信を抱いていきます。高い授業料をお支払いして入学してもらっているのに、不満や不信を抱かせるのはその後の入学者数にも関わる大きな問題です。
特に僕は伝え方を会得するまで、多くの生徒に不信を抱かせてしまいました。
そのような環境下で発信力を磨かれるとどうなるか。
“常識とされる発信の仕方を疑う大切さ”
最たる例として挙げられるのは、入学したばかりの生徒に学校生活の過ごし方を伝える場面です。
専門学校に入学すると、卒業後に社会人になることを見据えて、学校生活の過ごし方に細かいルールが存在します。
遅刻、欠席を万が一するときには生徒本人が授業前に電話連絡をする、公欠届を提出するのは、必ず前日までに行うなどです。
これらのルールについて、若手の頃は先輩方の伝え方を真似して以下のように伝えていました。
「ルールは皆が守るもの」
誰か一人でも破れば、他の人に嫌な思いをさせる、誰か一人が自分だけ良ければいいという考えを持つと、集団生活をする上で不快な思いをする人がいる、だからクラス全員で守っていきましょうという伝え方。
中学校や高校でも聞いたような意味づけの仕方です。
何年間も疑問を持たずに発信していましたが、どんな新入生を迎えても必ず学校生活の過ごし方を伝えている時間は退屈そうですし、多くの生徒はうつむき加減で机に視線を落としています。
転機となったのは、弁護士事務所に勤めている男性との会話でした。
予備校時代に留学でアメリカかぶれになった英語の先生に、「日本人は車が通っていなくても、信号が赤だと多くの人が遵守する。主体性がない」と言われたエピソードを僕が自戒を込めて彼に話しました。
すると彼は、「それで主体性を発揮して、万が一事故に遭った場合、誰が補償してくれるの?」と返答しました。弁護士事務所に勤める彼ならではの視点です。
そこで、僕はルールに関する大事な本質を学びました。それまで僕にとってルールとは「皆が守るもの」であったのに対して、ルールは「皆を守るもの」であることに気づいたのです。
スポーツの試合を思い起こせば早くに気づきそうな真理に、僕は彼との会話で理解しました。
早速、翌年度新入生を迎えるときに学校生活の過ごし方を発信するときには、表現を変えてみました。
「学校生活のルールは皆が守るものではなく、皆を守るもの」
この一言で、普段であればうつむいているはずの生徒達が明らかに顔を上げるのが分かりました。
エレベーターの乗り方、電話の受け方などのルールを守っていれば、社会人になった時に皆の信用が高まる、皆を守ってくれる、だから、これからの学校生活で習慣化していこうと伝えました。
こう発信したクラスは、それまでのクラスに比べて学校生活のルールにとても納得感を持ってくれて、愛校心の強いクラスになりました。
この例はマネジャーになった後も、会社のルール、就業規則、変更された労基法の発信をするときに役立っています。部下が守るものとして発信するのではなく、部下を守ってくれるものとして発信。
今回の例では皆“が”としていた伝え方を、皆“を”に変えるだけで伝わり方が変わりました。
たった一文字でも伝え方を変えると、伝わり方が変わります。伝わり方が変われば、受け手の言動が変わります。
部下の言動が変わらないときは、たった一文字から伝え方を変えてみる視点を持って臨むと良いですね。
続きはまた違う記事で。最後までお読みくださり感謝。
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リーダ―育成・事業再生コンサルタント
本間 正道
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