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香港風景

私は1993年8月から2000年1月までの約6年半、仕事で香港に駐在しました。

そんな香港の風景をいくつか。

香港と聞いて、何を思い浮かべるでしょう?
最近では、デモ隊と警官隊の衝突といった過激な印象が強いかもしれません。
本題に入る前に、このことについて触れておくことにします。

話は1840年に遡ります。
このときにイギリスと中国の間にアヘン戦争が勃発しました。
その後、いくつかの戦争や事件を経て、最終的に1898年に現在の香港が99年という期限付きでイギリスに租借されました。
植民地ということです。

以来、香港はイギリスが統治し、中国共産党が支配する本国の中華人民共和国と異なり、自由な地域として発展してきました。
私が駐在していたころも香港と中国はまったく違っていました。
高層ビルが立ち並び、ロールスロイスやベンツなどの高級車が街中を走り、街のあちこちに超高級ホテルがあり、人々は自由な暮らしを満喫していました。
また、シンガポールと並んでアジアの金融センターとして重要な役割を果たしています。
生活していても、早く安全にお金が回る仕組みができていることに驚いたものです。
同時に、昔ながらの香港を残した場所も多く、その新旧文化の混在が香港の魅力でもあります。
一方の中国。
現在は、北京や上海を始めとする大都市は発展しているようですが、私が駐在していたころは都市部でもまだ貧しい人が多く、夏の暑い夜には遅くまで人々が外で過ごしていました。
冷房設備がなかったのです。
逆にマイナス10度くらいにまで気温が下がる冬には凍死者が珍しくないという状態でした。

その香港が99年間の租借期間を終えて、イギリスから中国に返還されました。
1997年のことです。
香港はいったいどうなるのだろう、と多くの人が不安になりました。
今までの自由がなくなるのだろうか。
イギリス、オーストラリア、カナダといった移民を受け入れる国に逃げる準備をする人も多くいました。
それに対して、中国政府は「50年間は香港の高度な自治を保障する」ことを表明し、中国という一つの国の中に共産主義と資本主義が両立する「一国二制度」を掲げたのでした。
しかし、返還後20年が経ったころから、様子が変わってきました。
中国政府による自由、特に言論の自由が抑圧され始めたのです。
反中国政府的な報道が実質的にできなくなり、また、政治の面でも中国寄りの人しか選挙に立候補できなくなりました。
その他にも多くの弾圧が始まり、それに抗議しているのが昨今報じられている香港の「民主化運動」なのです。

これまで当たり前だった自由が奪われる。
言いたいことが言えなくなる。
日本の社会では想像もつかないことですね。
でも、それが実際に起こっているのが今の香港なのです。

さて、長くなりました。
堅苦しい話はこのくらいにして、香港の風景をご紹介しましょう。

香港は、非常に大雑把な表現ですが、中国大陸の一部である「九龍半島」と海を隔てた「香港島」の二つからなります。
香港と聞いて「100万ドルの夜景」を思い浮かべる人は多いでしょう。
香港島の山の上から望む夜景は絶景です。
それに加えて、私にはもう一ヶ所お気に入りの場所があります。

それがこの写真の場所からの夜景です。
大陸側から香港島を望むこの景色。
海沿いに企業のネオンが、そして、その背後に山肌に沿って無数の光が輝く。
手前には船が行き交う。
とても美しい風景です。

赴任した初日の晩。
自分の希望で香港に来たものの、「明日からどうしよう…」という不安を抱きながらこの夜景を眺めたことが思い出されます。

大陸側の海沿いに整備されている遊歩道の一部は「星光大道 (Avenue of Stars)」となっており、香港映画のスターたちの手形、サインが刻まれたタイルが埋め込まれていたり、映画にまつわる造形物があったりします。

写真は成龍(ジャッキー・チェン)のものです。

そして、香港映画といえば、やはりこの人。
を、思い出す人は少ないかな。
李小龍(ブルース・リー)。
日本では1973年に公開された「燃えよドラゴン」で一大ブームを巻き起こしました。

香港で忘れたくないのが「飲茶(やむちゃ)」です。
小さな蒸篭に入った料理「点心(Dim Sum)」を食べながらお茶を飲む。

観光客は昼食に行くことが多いようですが、お店は早朝からやっています。
新聞を読みながら、あるいは、大声で談笑を楽しみながら(香港の人は声が大きい!)、ゆっくりと点心をつまみ、お茶を飲みながら朝の時間を過ごすお年寄りがたくさんいます。
せわしない香港の街。
レストランによっては追い立てられるように食べなくてはならないところもありましたが、飲茶の時間だけは長時間いても嫌な顔をされることなく、ゆったりとした時間が流れていました。

伝統的な店では、何種類かの点心を乗せたワゴンが、料理の名前を大声で呼ぶ老齢の女性に押されて店内を巡ります。
そして、自分が欲しい点心が来ると、手を上げてそれをテーブルに置いてもらいます。

おっと、食べる前にやらなくてはならないことがあります。
お箸と茶碗をお茶で洗います。
今はこういうことをしなくても大丈夫だと思いますが、以前は必ずやっていました。
お店には必ずそのための容器が用意されています。

香港にはいろいろな交通手段があります。
中心となるのはMTRと呼ばれる地下鉄です。
今は私がいたころよりも路線が増えて、ほとんどの場所に行けるようになっているようです。
他には、バス、タクシー、ミニバスといったものがありますが、私が好きなのはトラムととスターフェリーでした。
人々がいつもせかせか歩き、エスカレーターも風を切るように早い香港の街。
そんな香港をゆっくり、のんびり運行しているのがこの二つです。

トラムは路面電車のことです。
ガタゴトガタゴト、香港島を東西に走っています。
運賃はHK$2.3(約33円)。
どこまで行っても同じ料金です。

大陸側と香港島を結んでいるのがスターフェリーという船です。

写真の右側に見える緑色の船がそれです。
運賃は、路線によりますが、最も運行本数が多い線で平日がHK$2.7(約39円)、休日がHK$3.7(約54円)。
平日と休日とで料金が違うところがお金にうるさい香港らしいです。
大陸側と島を行き来するには通常はMTRを使います。
スターフェリーは接岸して、乗客が降り、乗客が乗り、岸を離れて、ゆっくり運行し、対岸に接岸して、降りる、ということで時間がかかります。
自分が乗り場についてから、反対側で降りるまでに20分くらいかかったと思います。
これに対してMTRなら一駅だけなので、わずか2、3分で反対側に着きます。
ただし、運賃はだいぶ違います。
HK$11.5(167円)と、スターフェリーに比べて平日だと約4倍です。

私は一時期スターフェリーを使って通勤していました。
時間はかかりますが、潮風に吹かれてのんびりするのが好きでした。

最後にもう一ヶ所。
夜市。
夜になると道路に出店が立ち並びます。
そのほとんどが、なにやら怪しげな物ばかり。
こんなTシャツとか。

謎ですね〜

ニセモノ時計、とか。

大都会の香港ですが、こういう裏側があるところが楽しかったです。