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落語の言葉

江戸を舞台とした古典落語には当然ですが片仮名言葉は出てきません。
長いと60分にも及ぶ噺の中に一言も片仮名言葉が出てこない。
舞台が江戸とはいえ、片仮名言葉を使わなくても人の心や物をこれだけ表現豊かに話すことができる。
素晴らしい芸だと思います。

噺家さんはどの言葉をどう使うかを自身で考えます。
今では使われなくなった言葉もでてきますが、それをどう使うかも噺家の腕(舌?)次第。
説明を加える人もいるし、さらっと通り過ぎる人もいる。
「この言葉はもう通じない」と思えば、他の言葉に代える。
噺の筋をこう持ってゆけば理解してもらえるだろう。といったように。

例えば、私が好きな噺の一つである志ん朝さんの「お直し」。
この噺に出てくる言葉をいくつか挙げてみると、

朋輩、様子がいい、遊女、花魁(おいらん)、女郎、牛太郎/妓夫太郎(ぎゅうたろう)、お茶を引く、証文を巻く、侠客、お給金、「こつ」へ出かける、きまりが悪い、昔語り、薹(とう)が立つ、まぶ、嫌な心持ち、等々。

これらの言葉が何の説明もなしに出てきますが、噺の流れで意味が解る。
志ん朝さんならではの名人芸だと思います。

因みに、遊女、花魁、女郎を使い分けているのも興味深いところです。

噺家さんの言葉についてもう一つ感じていること。
それは、私が好きな噺家さんはいずれも鼻濁音が奇麗です。
今は意識することもなくなってしまった「鼻濁音」。
日本語の文化として残しておきたいものの一つです。