見出し画像

日々雑感【私の自慢話】

自慢話をします。

いずれも営業職に就いていたころの話です。

私は事務機メーカーの販売会社に新卒で入社しました。
最初におこなった営業活動はいわゆる「飛び込みセールス」でした。
担当する地域の地図を渡され、その区域内にある企業や商店などに片っ端から飛び込んで製品を売るというものです。

雑居ビルがあれば、端から端へ、ドアからドアへ入ってゆきます。
アポなどありません。
ノックくらいはしましたが。(笑

商店街があれば、店から店へ訪ねてゆきます。

その相手先が私が受け持っている製品を買ってくれそうな業種かどうかなど考えません。
とにかく入る。
飛び込む。

一見私の製品とは関係がなさそうでも、もしかしたら、何かネタがあるかもしれません。
余計なことは考えずにひたすら「飛び込む」。

当然ですが、99%は嫌がられます。
「待ってたよ。ぜひ話を聞かせてよ。」なんて言ってくれるところはありません。

夏の暑い日に「このクソ暑いのにスーツなんて着てくんじゃないよ!暑苦しい!」と怒鳴られることあり。
差し出した名刺を目の前で破られることあり。

入れ替わり立ち替わりいろんなセールスがそうやって飛び込んできていたのでしょう。
「また来た」と苛立つのも無理はないかもしれません。

「お、こっち入れよ」とようやく話を聞いてくれると思って喜んで入ったら、中にいたのは怖そうなお兄さんばかりだったなんてこともありました。

その次の営業は大企業が相手でした。
これはさすがに「飛び込み」というわけにはゆかないので、電話でアポを取ることから始めます。
しかし、これもなかなか難しい。
今、立場が変わった自分もそうですが、営業電話がかかってくるといい気持ちはしません。
断られます。

それでも電話をかけ続け、そうするうちに1軒、2軒と訪問できるところが出てきます。

そういうことを続けて、ようやく製品が売れると、大企業の場合は購買担当の部署に行きます。
購入を決めてくれた部門で散々値段交渉をしたのであとは事務手続きだけ、と思ったら大間違い。
購買部門でもまた値段交渉。
ギリギリの値段で決めてもらったのに、さらに値引きを求められます。
そこでいくら値段を下げさせるかが購買担当者にとっての一つの成績になるわけです。

それはさておき、そろそろ「自慢話」へ。

ある企業の購買部門でのこと。
やっと買ってもらえたと思っていたら、もう一つ関門が待ち受けていました。

出てきたのは高齢の男性。
頑固なおじいちゃん、という感じの方でした。
名刺の交換をするなり「俺ぁな、◯◯(私の勤務先)がデェキレエなんだよ!」と。
「なんでオメェんとっから買わなきゃならねぇんだろうな」とえらい剣幕。

散々悪態をつかれ、ひと段落したところで話を聞いてみると、以前、私の勤務先と取引をしたときの担当営業の対応に腹を立てていたのでした。
大きな企業ではその企業専用の伝票で処理がなされますが、支払い処理の期限になってもそれを持ってこない。
持ってきたと思ったら押印がない。
などなど。

調べてみたところ、どうやら私の勤務先ではその伝票の処理の仕方を正確に把握していなかったようです。
そこで、その企業から注文書が発行されてから請求、入金までの手順を流れ図にして、そのおじいちゃんに見せて間違いないことを確認した上で、社内に持ち帰り、その通りに処理をしてもらうように徹底しました。

おじいちゃん大喜び。
「こうやってくれりゃぁ、間違いねぇや」

そんなことをするうちに少しずつお得意さんが増えてきました。
しかし「お得意さん」といっても、黙っていて追加で買ってくれるわけではありません。
油断していると、競合に持ってゆかれます。
ですから、なんらかの口実をつけて、絶えず関係を保っておかなくてはなりません。
これがまた一苦労。

「新製品が出たので紹介させてください」
「カタログだけでもご覧いただきたいので、お持ちします」
「機械の調子を見させてください」

こういうことを何年も続けた結果、電話をして「ちょっと今からお伺いしてもよろしいでしょうか?」と、具体的な要件を言わなくても訪問できる関係を築けるようになってきました。

そのようなお客様のうちの一社で要件を終えて失礼しようとしたところ、昼食に誘われたことがあります。
食事を終えて、お会計。
相手はお客様ですから当然私が払うべきです。
しかし、払おうとする私を制して、そのお客様が払ってくださいました。
領収証をもらっていなかったので、自腹だったのでしょう。
盛んに恐縮する私に

「客からご馳走される営業になったということだよ」

駆け出しのころからお付き合いいただいていた方だからこその言葉でした。
今、この文章を書きながらも、嬉し涙が出てきています。

別のお客様でのこと。
ここも長いお付き合いのあるところでした。
しかし、競合メーカーの猛烈な売り込み攻勢によってそのお客様で私の受け持ち製品との比較、検討をせざるを得なくなりました。
最終結論が出されるまで2、3ヶ月かかったでしょうか。
めでたく私の製品を引き続き買っていただけることになり、一安心。
そのときに言ってくださったこと。

「□□さん(私のこと)との付き合いも長いからオタクに決めたよ」

帰り道。
このときにも涙が溢れていました。

自慢話はここまで。

今、書いたいずれの自慢話も営業という仕事を始めてから10年ほど経ったころのことです。

私の何がそうさせたのかは分かりません。
ただ、社会人になって以来、否、その会社で営業職に就いて以来、心がけてきたことがあります。
そのときの社長、私が尊敬する方の一人です、が常におっしゃっていた言葉。

逃げるな、嘘をつくな、数字に強くなれ

このことは別の業務についてからも、そして、今でも心がけていることです。

困難に当たると、逃げ出したくなります。
嘘を言ってその場を凌ぎたくなります。

しかし、逃げたり嘘を言ったりしたことのツケは必ず回ってきます。

そして「数字」。

営業職は必ず意識していなくてはなりません。
売り上げ金額だけではなく、利益。
とかく売り上げ額に目が向きがちですが、それよりも重要なのは利益です。
モノが売れてどんなに売り上げがあがっても、利益がなければなんの意味もありません。

数字が大切なのは営業職に限りません。
お金に関する以外のことも数値化すると的確な判断ができることが多いのです。

例えば、ある業務を仕上げるのに、Aさんは10時間かかるが、Bさんは8時間で終えることができるとします。
しかし、Bさんは間違いが多く、それを修正するために別の社員が3時間を費やさなくてはならない。
Aさんは正確に処理ができ、他の社員の手を煩わせることがない。
AさんとBさん、どちらに仕事を任せるべきでしょうか。

「Aさんは間違いはないけど、遅いんだよなぁ。Bさんは早いんだけどねぇ。」とただ漠然と考えているだけでなく、数字にして考えると誰にも納得のゆく判断ができるのではないでしょうか。

逃げるな、嘘をつくな、数字に強くなれ

どんな企業も必ず何かを売っています。
それは目に見えるものとは限りません。
役務だったり、人だったり、あるいは、企業そのものということもあるでしょう。(買収という意味ではなくて)

また、それを売るのは必ずしも営業職だけではありません。
先に書いた購買担当のおじいちゃんの例では製品だけではなく、「業務対応」も商品の一部と言って良いでしょう。

秘書という職種であれば、その人がついている「人」が商品であり、それを「売り込む」のは秘書であると言えるでしょう。
ここでいう「売り込む」とはその人が他から信頼を得ることです。
「本人」はあまり評判が良くなくても、その人を支えている秘書がしっかりしていれば、「本人は今ひとつだけど、あの秘書がついているのなら安心だ」ということもあるでしょう。

そうなるために、どんな職種にあっても、

逃げるな、嘘をつくな、数字に強くなれ

すべての人が心がけるべきことだと思います。