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ラーメン店のように

先日、山田洋次監督が「男はつらいよ」シリーズについて語っている動画を見ました。
その言葉通りではありませんが、こんなことを語っていらっしゃいました。

・いつも恋が実らない寅さんについて、結婚させて新たな展開を持たせたらどうかという意見があった。
・しかし、いつも同じ味を求められているラーメン店がそれに応えているようにしたいと思った。
・しかも、味を落としてはならない。

これまで29作まで観ましたが、この言葉通りだと感じています。

久しぶりに柴又に帰ってくる寅さん。
せっかく帰ってきたのに不愉快な思いをして大暴れ。
綺麗な女性に恋をするが、その恋が実ることはない。
また旅へ出る。

大体いつもこんな感じですね。
でも、決して「いつも同じ」とは感じない。
むしろいつも新しい。

大暴れしてしまう寅さんですが、そこには寅さんなりの理屈、正当性があります。
決して理不尽なものではなく、せっかくの寅さんの思いが踏み躙られたり、傷つけられたりしていて、納得のいくものです。

どんな人に対しても臆することなく、その懐へ入ってゆく寅さん。
悲しんだり、苦しんだりしている人への寅さんの温かい言葉。
どんな人もごく自然に受け入れる「とらや」の人たちの温かさ。

などなど。

また、山田監督によれば、ある時期から、「消えててゆきそうなもの」を積極的に映像に取り入れるようにしたとも語っていました。
地域ごとのお祭りや風物、風景はもちろん、中学生がみんなで窓の掃除をしていたり、掛け声をかけながら走る部活の生徒たち、さらには、道ゆく人や近所の人への自然な挨拶など、今日では見られない光景がたくさんあるのもこの映画の魅力です。
それらは決して「昭和」を懐かしむというだけのものではないと思います。

入院中の楽しみに取っておこうと思って、あまり観ないようにしていましたが、「何杯食べても美味しい」、いや、2杯、3杯食べるごとに新たな発見楽しみがありそうなこのシリーズ。
ひと通り観ておいて、入院中は2回目を楽しむのもいいかな、と思います。