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探しもの

旅と旅行はおそらく違う。
私が今回の宮古島行きをあまり楽しみにしていなかったのは、多分それが旅ではなくて家族旅行だったからだと思う。
日にちもホテルも飛行機も夫が決めて手配してくれた。出発の2週間前に宮古島のガイドブックを本屋に買いに行き、パラパラめくった。
宮古島は小さな島だ。3泊4日目もあれば大体のところは回れる。
行くところ決めたか?と尋ねる夫に、
「小さな島だから全部行けそう。他の島にも行けるし。あとは天気見て決めたらいいんじゃない。晴れるかわからないし」
夫はふぅんと言ってタバコに火を付けた。

旅行が嫌いなわけじゃない。ただ、家族旅行になると私は母親という役割からはどうしても逃げられない。日常からは離れられてもその役割は付きまとう。贅沢なのかもしれないけど一人旅に憧れてしまう。
出発の日の前日、夫は不機嫌な表情で私を見た。
「結局、どこに行くか、全然話し合いもできなかったな」
「え、小さいから全部回れるって言ったやん。何?私が悪いの?」
こんなんで出発するのかとため息が出た。

宮古島は晴れていた。
が、風が強く思ったより暑い。いきなり夏になったみたいでたじろいだ。
レンタカーを借りてホテルへ向かい、荷物を降ろして3時ごろ。海へは車ですぐだった。子供たちは初めて見る南国の海の青さにはしゃいでいる。
私は1人、ビーチの隅で写真を撮ったり、海を眺めたりしていた。
見たこともない海の青さに息をのむ。
島へ行くのに橋を渡ったり、いくつもビーチに立ち寄ったりしたけれど、それぞれに違う表情がある。
コーラルブルー。白い珊瑚のカケラ。沈む夕陽におびただしい数の星空。
あれだけ心が動いたのに、帰りの飛行機が離陸するとき、赤茶けた大地が窓から見えた瞬間、胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになった。
車からぼんやり見ていたサトウキビ畑と赤っぽい剥き出しの土が頭から離れなかった。私の背ほどもあるだろうサトウキビ畑の群れを見て、私は何を思ったのかわからない。
旅は自分探しだ、と言う人がいる。
私はおそらくまだ見つけられていない。

#エッセイ #旅とわたし #宮古島 #サトウキビ畑

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