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祖母の枕

昔のことを書くと私の文章には必ず祖母が出てくる。読んだ人からは、おばあちゃん子だったんだね、と言われるけれど、おそらく一緒にいた時間が長かったというだけだと私は思っている。
祖母は心臓に疾患があって、70歳を超えてから当時14時間にも及ぶバイパス手術をしている。手術の後も夜に具合が悪くなり、母が起きて病院へ連れていく、というパターンを何度も繰り返していた。
畑に行ったり、縫物をしたり、料理を仕込んだり、家のことを細々していた祖母はあまり表情のない人だった。体の具合が悪かったせいかもしれない、笑った顔とそうでない顔の2つくらいしか私の頭には浮かばない。
あまり優しくできなかった。母が働いていたからか、反抗の矛先は祖母に向いていた。夜中に具合が悪くなるといけないからと私が一緒に寝ていたけれど、祖母は悪夢を見ているのか、よくうなされていた。その度に私は起き上がって祖母を揺り起こし、苛立ちを祖母にぶつけた。
なんで私だけこんな役。
うんざりした私は悪夢を食べるという漠の小さな絵を描いて透明のビニールでコーティングして祖母に渡した。
「これ、怖い夢食べてくれるやつ。枕の下にいれといて」
「えらい粋なもんやなぁ。ほんまかいなぁ」
その晩から、祖母がうなされる回数がずいぶん減った。祖母は不思議だと何度も首を傾げていた。
祖母が亡くなってから母と部屋の掃除をしていたとき、祖母の使っていた枕カバーの間からぼろぼろにちぎれたゴミみたいなものが出てきた。
「うわあ、何これ」
母がきみ悪そうに眺める。白と黒の模様。ちぎれた漠の顔がかろうじて見て取れた。
「おばあちゃん、ずっとここに入れてたんやなぁ」
作ったことも忘れていた。

寒くなると祖母のことを思い出す。細々と御詠歌を練習していた声や、新聞の間違い探しをしていた祖母の横顔が浮かんでくる。
祖母のさみしさが今ならわかる気がする。
寂しさと寒さはちょっとだけ似ているから、思い出すのかもしれない。
#エッセイ #祖母 #枕

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