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小説は?書けない。

たしか太宰の短編集に小説が書けないときの話があったような気がして、ぱらぱらめくってみた。気のせいだったのか見つからなかったけど、こんなセリフがあった。
「小説は?」
「書けない。」

新聞に谷崎潤一郎は遅筆だったというコラムがあり、彼はそのせいで万年筆ではなく筆を好んだと書かれていた。
墨を磨ったりする時間は必要だと言う。
じゃあ、わたしもパソコンではなくて万年筆で、とは思えない。遅くても書けるなら全然問題ないと思うけど、とひねくれてしまう。
新聞の続きを読んで、洗濯をして、録画しておいたテレビを見て、みかん、パン、納豆、残りの味噌汁、残りのささみ、という組み合わせのお昼を食べる。
冷凍庫の古い食べ物をゴミ箱に放りこみ、半分だけ残ったわらび粉も捨てた。ビニール手袋をして排水溝を掃除し、ガスコンロの周りも拭く。
すぐに充電が切れるからと譲ってもらったダイソンの掃除機が、フィルター掃除してから問題なく動くことに今日もホッとする。
郵便局へ行って、買い物をし、ケーキやさんは閉まっていたのでUターン。
自転車で走りながら、まだ手袋はいらないなぁと残っている紅葉を眺める。
書かなきゃいけないし、推敲もしないといけない。
はらはらと落ち葉が舞う。
さよなら、と心でつぶやく。
季節はいつも無言で行ってしまうので、お別れを言っておこう。
帰ったら、ちょっとお酒の入ったチョコレートを食べることにする。

太宰治『新樹の言葉』より引用 新潮文庫

*写真はみんなのフォトギャラリーからお借りしました

#エッセイ #書けない #小説 #秋


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