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「一杯目のビールみたいな仕事したいのよね」とコマソンの女王は言った

映画やドラマの原作になりそうな鉱脈を秘めた作品が山ほど集まった岸田奈美さんのキナリ杯。実に掘り甲斐のある山が現れたという感想をひとつ前のnoteに綴った(そして鉱山が現れた)。鉱山をスコップで削ってできた小山のようなものだが、その山がわたしのnote史上かつてない人出で賑わっている。「コンクールの感想文コンクール」に参加させてもらっている感じだ。

自分の中にある作品を引き出され、解き放ち、誰かに見つけられ、好きと言ってもらえること。コンクールの醍醐味はそこにあると思っている。

誰かが誰かを見つけて「スキ」を贈り合うnoteは、毎日が授賞式だ。

「そして鉱山が現れた」は、不動の一番人気(当社比)だった「一を聞いたら十しゃべる学芸員の矢内さんは自粛に耐えられたのか」をあっさり追い抜いてしまった。

「堺市のあちこちに傷跡を残している、あの矢内さん!」(せめて爪痕と言うたげて)と本人を知る人にはすこぶる評判で、「ほんま塚地武雅さんが演じた学芸員とよう似てますね」と映画『嘘八百』『嘘八百  京町ロワイヤル』(一部劇場で上映再開中。7/8DVD発売)を観た人にも好評で、「どんな人なのか会いに行きたくなりました」と矢内さんの「や」の字も知らなかった人も食いつくあの記事が首位を明け渡す日が来ようとは。

おごれる人も久しからず、 唯春の夜の夢のごとし。 たけき者も遂にはほろびぬ、 偏に風の前の塵に同じ。 

矢内さんに平家物語の冒頭の一節を捧げるとしよう。

キャリアも原稿料も関係ない

「あんたもうかうかしてられへんで」と何処かからささやきが聞こえる。

「まぐれ当たりでホームランを打つのが素人。安定して3割打てるのがプロ」なんて寝言だ。ホームラン級のキナリ杯受賞作の書き手は、他のnoteでも快音を響かせている。打率5割超え、下手したら7割超えがザラにいる。

そもそも面白いのは、この道何十年のキャリアがあろうと、どれだけ原稿料で稼いでいようと、noteの中では対等ということだ。

noteを始めて3週間。わたしのフォロワーはまだ2桁だし、スキの最高記録も2桁。

伸びしろしかないやないか。

キナリ杯受賞者から「スキ」をもらって、わあ、あの人が来てくれた♡と舞い上がっている。その人の受賞作や他のnoteを読んで、面白いなあうまいなあと唸ったり、眠っていた記憶を呼び覚まされたり、新しい話を思いついたり。

人の山を掘ると、自分の山も掘り返される。

それが次の山を築く材料になる。

刺激、アイデア、ヒント。人の山から吸収できるうちは、自分の鉱脈も涸れない。はず。多分。きっと。

「今は若いからいいけど、出すばっかりだと枯渇するから、若いうちに吸収してね」

駆け出しコピーライターだった頃、会社のライブラリーの司書さんがわたしにかけた言葉。コピーライターから司書に配属されたその人は、本当はコピーを書き続けたかったのだと思う。

コピーライターから事務職に移された別な先輩が退職の日に出した全社メールには「今より若いときはない」と書かれていた。

どちらも女性だった。わたしは最後に会ったときの二人の歳に近づいている。現役で書き続けることは難しいし、ありがたい。

鉱山を掘る手をふと休める。

風に吹かれた脳裏に、冷えたグラスの中で弾けるビールの泡が浮かんだ。

その仕事に「シズル感」はあるか

10年前の夏の暑い日のこと。共通の友人がいる作曲家のエーコさんと二人で食事をした。

もともとはわたしが広告代理店のコピーライターだったときにCMの音楽制作で出入りされていた人だった。仕事で組んだことはなかったけれど、わたしと同じチームの先輩と仲が良かったことから食事を一緒にする機会が何度かあった。

会社を辞めてフリーの脚本家になったばかりのときは、先に音楽制作会社を辞めてフリーになっていたエーコさんと「フリーって淋しいわよね」と盛り上がった。そのときには影も形もなかった子どもを授かり、再会したときは「子育てしながら自分の名前を看板に仕事をする者同士」になっていた。

境遇だけじゃなくて大切にしたいものも近かった。「子どもを理由に仕事に穴を空けたことがない」ことで一致した。「それをやっちゃうと次はない」という不安ゆえの意地もあるけれど、仕事に支障をきたすほどの大きな病気やケガを子どもがしていない証拠でもあった。「家族は健康でいてくれるだけで十分仕事に協力しているよね、感謝しなきゃね」と話した。

NHKのインタビュー番組「トップランナー」で「コマソンの女王」と紹介されたエーコさんは、映画の仕事もちょくちょく舞い込んでいた。でも、だからといってギャラを吊り上げたり、評判にあぐらをかいたりしない。

「ギャラが高いからって敬遠されるってことはないと思うんだけど、あいつが作るものはもう今じゃないって飽きられたら終わりだよね

それは脚本家も同じですとうなずいた。

新しい才能は次々と出てくる。フリーになってさほど年月が経っていない当時のわたしの後ろにも、どんどん若手が現れ、控えていた。脚本コンクールの受賞者の数だけ脚本家がデビューするのだ。

「ビールってさ、一杯目がおいしいけど何杯も飲んでるうちに新鮮みがなくなるじゃない? でも、何度仕事をしても、ああ、エーコさんのビールはうまいって言われたいのよ」

ああ、わかる、わかりますと力強くうなずいた。

広告の世界でいう「シズル感」だ。

入社したとき、誰もが挨拶のように口にするシズル感の意味がわからず、「コカコーラのシュワ〜ッやピザのジュワ〜ッだよ」と教えられて、その商品が持っている臨場感みたいなものかと理解した。

(というくだりを、実体験を膨らませた青春広告小説『ブレストガール! 女子高生の戦略会議』にも書いている)

栓を抜きたてのコーラや焼きたてのピザのシュワ〜ッやジュワ〜ッのような、音を立てるほどの新鮮さが作品にあるということ。それが相手の喉やお腹を鳴らすということ。手を伸ばさずにはいられない欲求をかきたてること。そして、「これだよね」と言わせること。

「いつだって、うまい一杯目のビールを出したい」

一杯目のビールの鮮度を、喉越しを、相手に「うまい」と言わせるチカラを持った作品になっているか。仕事をしていく上での自分ガイドラインができた。

うまいビールを出し続けるには

いつだってうまい一杯目のビールを出せたら、またあの人に頼もうとなる。リピーター、お得意さんがつく。物書きは客商売、人気商売。注文が来続けるから商売を続けられる。

これもコピーライター時代に聞いた話だが、「この店はいつ来てもうまいね」と客に言わせるためには、「いつも同じ味」を出していてはいけない。客が前に食べた味に期待という付加価値がついてしまっているから。客が覚えている味以上のものを出さないと、期待に応えられない。

「期待に応え、予想を裏切れ」も印象に残っている。こう来るなというと想定を超えた「そう来るか!」の驚きが成功したら、次は何を食べさせてくれるのかと期待が高まる。

ずっと同じ味じゃ「うまい一杯目のビール」になれない。さらに、うまいビールは時によって変わるし、相手によっても変わる。「いつだってうまい一杯目のビール」を出し続けるには、相手が今どんなビールを飲みたいのか察する嗅覚も必要になる。

違いがわかる舌を鈍らせない

何より大事なのは、「ビールを味わう舌」を鈍らせないことだ。自分の出すビールはもちろん、人の出すビールも。

飲み比べて、違いがわかること。うまいビールをうまいと感じられること。そのビールがなぜうまいのか考えること。その作り手に興味を持つこと。その人から学ぶことを億劫がらないこと。

と、ここで本文と写真をつないで。

写真は故郷の大阪府堺市にある堺東駅(市役所の最寄り駅)から歩いて数分のところにある「ヒビノビア」さんで撮った地ビール飲み比べセット。

わたしはワイン党でビールは滅多に飲まないけど、ここのビールは例外。一杯目の最初の一口は最高に美味しいし、飲み比べも楽しい。各地の醸造所から届く、原料も製法もまちまちな色とりどりの地ビールを見て、作り手の違いが生み出す個性を味わう。

撮影したのは去年の12月。「おんなのイケ麺」という朝日新聞関西版のコラムでヒビノビアの「塩辛と明太子のバターソース 生麺タリアッテレで」を紹介することになり、呼ばれてもないのに取材にくっついて行った。

コラムに登場する「古市古墳群が世界遺産に登録される前から古墳で堺を盛り上げている友人」の松永友美さんは、「キナリ杯出さない?」と声をかけた一人。古墳で来るか、堺で来るかと思ったら、まさかのジェンダー小説(【短編小説】ティーカップ)で、新たな一面を見せてもらった。男か女かという二つの性に寄せるのではなく、「母であり、彼女がいる」という二つの生き方、二つの自分を行き来する主人公。ミニシアター系の映画になりそうだし、連載漫画にして連ドラに持ち込むのもありではと勝手に妄想を膨らませている。

松永さんはすっかりnoteの楽しさにはまり、堺スタイル開運着物コーデ知輪-chirin-のnoteも始めた。堺と着物と松永さんの熱がギュギュッと詰まって、故郷を十倍増しに色っぽく見せてくれている。

「話し出すと止まらん堺市博物館の学芸員さん」はこのnoteに先ほど出て来た矢内さん。

ちなみに「おんなのイケ麺」コラムの最新回「8番らーめん」の野菜らーめん(塩)に登場しているのが山本ゆりさんだと今知り、舞い上がっている。

ステイホーム期間中に買って一番良かったものが、この人の料理本。レシピ読んで爆笑したのは初めてだ。薄切りの説明に「あなたの存在ぐらい薄く」なんて不意打ちにもほどがある。それでいて味はビシッと決めてくれる。抜かりなく検証している証拠。シリーズを重ねてもマンネリさせない心意気に惚れ惚れ。漫画の最新刊を待つ気持ちで、山本ゆりさんの次の料理本読みたいと思わせてくれる。「いつだってうまいビール」の人だ。


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