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フォトグラファー&ブランディングコンサルタント・早坂華乃の自分史|インタビュー(聞き手:ライター正木伸城)

誰しも「思い出の一枚」と呼べるような写真があるのではないではないか。ファインダー越しに切り取られた"世界"は、彩りあるその場所、その時間、そして思い出をやさしくとどめてくれる。写真を通して、自分自身の思わぬ魅力に出あうことも、あるかもしれない。

今回ご登場いただくのは、フォトグラファーブランディングコンサルタント早坂華乃はやさか・かの)さんだ。彼女は、プロフィール写真の撮影サービスから事業を始め、まさに「本人も気づかないようなその人の魅力」を引き出し続けてきた。洗練された技術に大きな反響があり、メディアにも出演している。

そんな彼女は現在、オーソドックスなフォトレッスンから、フォトグラファー養成講座、スタジオライティング講座、Instagramのブランディング、そしてフォトブランディングなどを手がけている。ここでは、どんな軌跡をたどって早坂さんが現状に至ったのか、その歴史や写真に対する思い、考え方について聞いた。

自己肯定感をもたらしてくれた、あの"撮影"

――カメラに興味を持たれたきっかけについて教えてください。

もともと、写真に今のような強い興味があったわけではありませんでした。自分が写る写真もあまり好きではなかったです。正直、自分の容姿に自信がなくて……。ところが、いくつかトリガーになった出来事があって、カメラにハマりました。一つは、大学時代の卒業旅行です。台湾に行った時にスタジオで写真を撮っていただいたのですが、とても素敵に撮影してもらえたんです。その時に、自分の外見について「私って、悪くないのかな」という思いを初めて抱きました。そこから「私も、メイク、頑張ってみよう」といったマインドチェンジが起きて、写真がきっかけで自分を肯定できるようになりました。

とはいえ、いきなりプロになろうと思ったわけではありません。写真は好きでも、あくまで記録として撮るという範囲を出ることはなく……。集合写真や風景写真などは撮影しても、たとえばスタイリングした小物をより良く魅せようといった発想にまでは至りませんでした。ですが、ここで次のトリガーとなる出来事がやってきます。新婚旅行でアフリカに行った時のことです。父がプレゼントしてくれた一眼レフカメラを携えて現地へ。そこで撮影をした時に、アフリカの自然や、チーター、ライオンといった動物がキレイに写ったんです。自分で撮った写真に自分で感動したというか。その時に「これはもっと素敵に撮りたい」と思って、「記録する」以上の意味合いを込めた撮影に目覚めました。

アフリカへの新婚旅行時の早坂さん

カメラの技術を本気で身に着けたい

――おもしろい。共通して「旅」がトリガーになっています。

確かに、そうですね(笑)。で、それ以後は子どもが生まれたら子どもの写真をたくさん撮影しました。ところが、今度はうまく撮れません。「あれ? アフリカの時のようにキレイに撮れないな」と不思議に思いました。今から考えれば、「それはそうだ」とわかりますが、要は、アフリカは見える景色すべてが映える被写体になるんですね。自然も動物も、全部が映える。餌を狩る時以外は、動物が俊敏に動くこともありませせん。だから、たとえばフレーミングの技術を気にしなくても、ただ撮るだけでキレイに写るんです。一方、家の中で人を撮影するとなると、勝手が違います。背景にはいろいろ余計なものが写り込むし、子どもは動物よりもキャッキャッキャッキャ速く動く。この経験から、カメラの技術を身に着けたいと考えるようになりました。「撮影技術」に初めて本気でフォーカスした瞬間でした。

――これが3つめのトリガーですね。

特に私は、「自分で撮影したい」というところにこだわりました。写真館などで撮るのも素敵ですけど、日常の中にある「子どもの、このかわいい瞬間」を切り取ることは、その子と「日常を共にしている撮影者」にしかできません。なので、5日間のコースを受講して、カメラを習い始めました。それで子どもを撮ると、キレイに撮影できたんです。嬉しかったですね。

"いま"につながる原点。次男のアトピー

――そこから自然な流れでプロになられたのでしょうか。

ちょっと時系列が前後するのですが、実は、かつて次男がアトピー持ちで、撮影ができなかった時期がありました。撮るのがつらいというか、その時に、とても葛藤したのを覚えています。症状がひどすぎて、買い物にさえも連れて行けず……。連れて行けば、まわりから「どうしたの!? こんなに肌が荒れていて、病院には行ってるの!?」と言われるんです。わたし的には「病院なんてあたり前でしょ! ありとあらゆることを試してきましたよ!」という感じなのですが、周囲はいろいろ指摘してくるんですね。ましてや写真館での撮影なんて、夢のまた夢です。そう感じた時に、「写真館で撮影ができることって、あたり前じゃないんだな」と思いました。これを契機に、どんな状況に置かれても写真は「自分で」残そうと思い直して、子どもの撮影を再開したんです。

当時はいっぱいいっぱいで、大変すぎて、撮影も必死でした。でも、後にその頃の写真を見返すと、子どもがすごくかわいいんです。

実際に撮影された次男の写真

「ああ、撮っておいて良かった」と心の底から感動しました。この体験が私の原点になって、カメラの技術を習い、磨くというところまで行けました。

――そんな経緯があったのですね。

そして、初めてのお客さまというか、撮影を依頼されるようになります。始めは子どもや家族の写真を撮ろうとカメラを手に取ったのですが、しばらくして、友人からの頼まれごとで、プロフィール写真を撮りたいとの話があったのです。私としては経験したことのない撮影でしたが、一生懸命、撮りました。そうしたら、「私、こんなにキレイに写るの!?」と友だちがすごく喜んでくれて。自分の外見の意外な側面に驚いたのかもしれません。

その瞬間です。私の中で台湾旅行の時の経験がオーバーラップして、「私って、そういえば写真で自己肯定ができるようになったんだった」「写真に救われたんだよね」という気持ちがわいてきたんです。同時にこうも思いました。「カメラが、私の進むべき道かも」と。

起業、そしてブランディング事業の拡充へ

――未経験だったプロフィール写真の撮影が転機になったのですね。

そうです。まず、起業をして、そこからやがてプロフィール写真を撮るサービスをメインの事業として開始しました。それを前後して、SNSも使い始めました。また、「どんな写真だと集客がうまくいくか」「どういう見せ方をすると顧客の態度が変わるか」といった視点で勉強もたくさんしましたね。学んだことは即、自分の集客にも活かして――。すると、段々コツがつかめてきたんです。たとえばプロフィール写真を仕事に使うとしますよね。その際に「この事業のメッセージを伝えたいなら、こういうロケーションでこういったシチュエーションを意識して、彼女(=被写体)の『この』魅力を切り取るといいな」ということがわかるようになったんです。ただ漫然と撮るのではなく、「ストーリー込み」で撮影をする。このサービスは、当初から反響が大きかったです。特に、撮影に際してはヒアリングをしっかりするので、「まるで、心地良くコンサルをしてもらったみたい」「自己肯定感が上がりました。セラピーを受けたような感覚になりました」とのお声をいただいています。

――経営者などからすれば、その写真はブランディングにも活用できて、嬉しい限りです。

ですので、「私の強みはここだ」と思って、写真を通じたブランディングを手がけるようになりました。とりわけ意識しているのは、お客さまが「この先どんなふうになっていきたいか」という点です。その人が「こうなりたい」という将来像を持っていた時に、あたかも「もうすでにそうなっている」かのように意識してもらって撮影をしています。

――たとえば、ベストセラー作家になりたいという人がいたら、すでにベストセラー作家になったと思って被写体になってもらうかたちですね。

まさに、です。プロフィール写真は、自分も含め多くの人に頻繁に見られるものですよね。その写真に日常的に触れられるようになると、無意識のうちに、描いていた将来像に自分が近づいていくんです。引き寄せの法則のマインドマップみたいな価値が、プロフィール写真に出てくる。なので、実際にそれを経験したお客さまは、自身のステージが変わるたびに撮影依頼をしてくださいます。すると、ビジネスも進みます。

早坂さんの"仕事"の強みとは

私の仕事のキャッチコピーは「一枚の写真でビジネスが加速する」ですが、そこには

キレイに撮ってもらうと自己肯定感が上がる
自らに自信が持てると商品等にも自信が持てるようになる
撮った写真自体がビジネスに使えるため、集客にも有利に働く
なりたい将来像に近づくことができる

という経験的な実感を込めています。

――早坂さんがすごいのは、上記を自分自身が体現されている点です。Instagramも、あっという間に万単位のフォロワーを獲得されましたね。ブランディングの効果を自身で実証している。

Instagramはコロナ禍になってからガッチリ始めましたが、4カ月ほどでフォロワー1万人を超えました。いまはInstagramの伸ばし方も教えています。

私は、写真とブランディングを掛け合わせて、「あなたのファンを増やします」というメッセージも打ち出しています。大きなお金を使って広告宣伝費をかけて集客するよりも、たった一枚の写真を変えるだけで、効果は明確に出るんです。お客さまには、ココを実感してもらっています。

提供している各種レッスンにかける思い

――また、早坂さんはフォトレッスンも盛んに行っています。

「どんな初心者でもマニュアルモードをマスターさせます」「マニュアルモードこそが写真上達の近道」というコンセプトで開催しています。たとえば、子どもが生まれる時に勇んで買ったのに、うまく撮れなくて結局お蔵入りになった一眼レフカメラって、実はたくさんあるんです。そんなカメラを救ってあげながら、持ち主の撮影技術も上達したら、いいですよね。私のレッスン受講者から、実際に「お蔵入りしたカメラから、プロデビューしました」という人も出てきています。その方が最初にカメラを持参してきた時、一眼レフは箱の中に入っていました。そこから1年で、プロデビューです。

早坂さんのフォトグラファー養成講座にて記念撮影

――すごい。「お蔵入りカメラでプロデビュー」。キャッチコピーみたいだ(笑)。

私のフォトグラファー養成講座から、100人近くの女性フォトグラファーが誕生しています。

――ちなみに、生徒さんを教える上で大切にされていることはありますか?

あります。

「写真は感性で撮るもの」ということを皆に伝えています。1+1=2、みたいな正解はないということです。写真には、好みもあるでしょう。どんな写真家が好きかといったことだって、人によって意見は違います。

仮に誰かの写真を真似して練習をしている人がいるとします。私は「真似る」という段階も当然あって良いとは思っていますが、生徒さんには最終的に「自分の世界観をつくりだしてほしい」と願っています。私が撮る写真が絶対の正解だということもありません。私は、「自分が感じたものを、思いっきり表現してみよう」と呼びかけています。自由を大事にしてほしいんですね。

ですので、私の生徒さんたちは、いい意味で私の写真と「似ていない」写真を撮っています。菜の花畑で撮影をすれば、各人が、切り取るタイミングも違えば撮る角度も違うわけです。そこに個性が表れます。「その人らしい感性」が花開く可能性もそこにあります。でも、撮影技術が他人のコピーで終わってしまうと、可能性が開かないかもしれない。もしも、ですけど、写真に正解があるとしたら、それは「あなた自身の中にあるよ」と言ってあげたいです。

講演会も行っている

――感性を伸ばすには「らしさ」を活かす必要があるのですね。

思い起こしてみてください。「あ! 写真を撮りたい!」と思う時には、おそらく何かしらの感動があるはずです。でも、感動の「質」や感動の「しどころ」は一人ひとり異なります。同じ映画を観て、皆の感想が全く同じということがないのと同じです。私は「その人らしい感性」を伸ばすことが撮影上達にとって最も良いと考えているので、そのポイントは外さないようにしています。自分が感動したことを、思う存分、表現してもらっています。

その上で、ですけど、撮った写真を商品にしたいという人、カメラで食べていきたい、プロになりたいという人がいたら、ある程度の正解/不正解は言うようにしています。やはり、マーケティングやブランディングなどには一定の最適解がありますから。

撮影で心がけていることや″これから"について

――撮影時に早坂さんが心がけていることを教えてください。

「その人の魅力が一番伝わるように」ということを意識しています。自分の魅力って、自分自身では意外にもわからないものです。自分ではコンプレックスだと感じている顔の特徴が、他人から見れば魅力的だということは、往々にしてあります。だから、撮影を通して「自分では気づかない自身の魅力を発見してもらえたら」と思っています。

私の場合、目が細いことがコンプレックスでした。でも、撮影される経験を重ねる中で、笑うと目が閉じちゃうような細い目をした私の笑顔が、実は他人から見たら「人懐っこい」とか「安心感を与える」という印象になっていたと知ったんです。ほんとうに、「自分の強みってわからないな」と感じました。なので、撮影中に私は、被写体となってくださる方の魅力的なところをたくさん言葉にして伝えるようにしています。「口角が上がる口元がチャームポイントですね」といった感じですね。すると、お客さまは「そうなんですね。私、実は口が大きいことがコンプレックスで、あまり笑わないようにして写真に撮られるようにしてきたんです」と、正直な気持ちを吐露してくれたりします。で、新しい自身の魅力に気づいて、より自己肯定ができるようになっていくんです。

――最後に、これからの展望についてお聞かせください。

私のサービスの重要な要素に「集客」がありますけど、集客はあくまでも手段にすぎませんし、私がしたいことの通過点です。もちろん、集客は大事です。そこに本気で取り組んでいますが、私がしたいことのゴールは、お客さまに自己肯定感を上げていただくとか、お仕事がうまく行くようにするといったことを通じて、お客さまがより輝いて、ハッピーになることのお手伝いです。ここは妥協なく続けていきます。

また、レッスンにおいては、受講生が感性を磨いて、人生をより豊かにしていってもらえたらと思っています。その輪をさらに広げていきたいです。写真を撮るようになると、たとえば、道ばたの花に対する印象だって変わります。素敵だなと感じたモノやコトをファインダーに収めようという視点が育てば、そういった些細なところからも幸せの種をキャッチできるようになります。結果、人生が豊かになる。

私が初めてカメラを習った師匠が「写真はコミュニケーション」と言っていました。「被写体と撮影者」「撮った写真と撮影者」の間もそうですが、被写体となってくださった方が周囲の環境とコミュニケーションをしたり、それこそ内省的に自分自身ともコミュニケーションしたりするんです。その中で、新しい自分を発見できたりする。写真にはそういった奥行きある世界があるんですね。この世界の力を借りながら、より多くの人のハピネスを皆とともにつくっていけたら嬉しいです。

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