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[質問箱]哲学でいわれるコミュニタリアニズムについて教えて下さい。身近なことだと聞きました。

コミュニタリアニズムとは、「人と人のつながりの質(時に量も)」をものごとの判断の尺度にしよう、という主義です。たとえば、2人の子どもが池でおぼれているとします。そのうち一人はあなたの実子です。両方を助けることはできそうにありません。その時、あなたはどうしますか?

カントの哲学では、万人に公平に道徳律をあてはめることが正しいとされていました。「嘘をついてはいけない」という道徳も全員が守るべきで、そこに差をつけてはならない、と。これと同じように、上記の子どもの水難についても「たとえ片方が実子だったとしても同程度に救助を試みなければならない」と考えるのがカントにおいては「倫理的」だとされていたのです。ですが、みなさんご明察のとおり、そうした結果「二兎を追う者は一兎をも得ず」みたいな感じで、2人とも救えず、かつ助けに入ったあなたも悲しい結末を迎える、なんてことがあり得ます。

そこで出番となるのがコミュニタリアニズムです。この主義では、「親子関係にある実子を優先的に救ってもよい」という考え方をします。親子というつながりの質を、救助の優先度の判断に適用してもいいし、それが倫理的にも正しい、とするのがコミュニタリアニズムです。実子と他の家の子では、明らかに「つながりの質」が違っていて、救いたいと思う感情の度合も異なります。そこに酌量の余地をみるのがコミュニタリアニズムなのです。

この問いは、じつは今、人工知能の分野でアクチュアリティを獲得しています。仮に、AIによる自動運転が日常化したとしましょう。高速で移動中に、ぱっと子どもが飛び出してきたとする。そのとき、AIはどう判断すべきか? 子どもを避けて道路わきの電柱に車を激突させるか、それとも車に乗っている人の無事のために子どもを轢くか――。このときに、カントの発想をとるのか、コミュニタリアニズムを採用するのか、意見がわかれるのです。「飛び出してきた子が、親戚の子だったら?」といった要素を加味して考量する。そんな選択肢として、コミュニタリアニズムは有効です。

こういう事例でなくても、倒産を防ぐためにリストラを実行すべきか、それとも全社員を抱えて潰れる覚悟でやっていくのか、みたいな判断にもコミュニタリアニズムは関係してきます。

ちなみにコミュニタリアンとしては、やはりマイケル・サンデルが力をもっていますので(有名ですし)、思想を学ぶなら『これからの「正義」の話をしよう』がお勧めです。

[質問箱]
https://peing.net/ja/7d1eef526dd553?event=0


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