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土地の「日常」こそが観光の最大の魅力

 仕事柄、それほど海外や地方に行くことは多くはないのだけど、この一年は、いろんな場所へ行くことができた。海外は、南アフリカ:ダーバン、アラブ首長国連邦:ドバイ・アブダビ、アメリカ:ポートランド、日本国内は、金沢、富山、小樽などなど。意図的に選んだ都市もあれば、仕事の合間に訪ねた都市もあったが、どの都市も相当に刺激的だった。

 あるとき、ふとそこでの楽しさを振り返ってみた。様々なシーンが思い起こされる。

昭和をも感じさせる色あせたダーバンの海岸、そこに広がる味のある遊園地と戯れる現地の人々

ドバイのラクーン周辺に広がる歴史溢れる下町エリア

UAEの文化を守るために都市の真ん中に人口砂漠をつくり開催されていた地元のお祭り

金沢のあるお寺、はしゃぎまくっている幼稚園の子どもたち

小樽に建つある建物を必死に守る活動に勤しむお爺さん......等々

 旅の印象的なシーンはどれも、観光本に大きく取り上げられているものではない。どれも、ひとつの場所や物事というより、そのエリアにたまたま在ったつつましい「日常」そのもののようにも感じる。

 旅って何がいいのだろうか? 改めて考えてみると、「その土地へ行き、自分の足で歩き、現地に暮らす人やそこにある物事と出会い、自分の五感で発見し、考えること」なんだと思う。その旅の良さを享受させてくれるものが、実はこの「日常」なんじゃないだろうか。どんな建築や街並み、世界遺産や食べ物なんかよりも、それらの間でアメーバーのように、それぞれをゆるやかにつなぐ、その土地ならでわの「日常」に僕らは旅の中で心震えているのかもしれない。魅力的な「日常」が漂っていること。これこそが、観光の最大の魅力となっているというわけだ。 

 新しい施設をつくっても、名物の食べ物をつくっても、「日常」なるものは、つくれない。むしろ「日常」をつくるのは、あくまでも今在るものを維持し、そこに住んでいる人々が成熟させていくことが必須となる。そんな視点を最大限に教えてくれたのがアメリカのポートランドという都市だった。

 ポートランドには、いわゆる観光地としての見どころがほとんど見当たらない。それなのに、住む人はもちろん、旅行者も増えているのは多くの人が知る通り。ポートランダーと呼ばれる市民の暮らしそのものが、新しい学びを与えている。まさにポートランドにならではの「日常」が観光的求心力を持っているということなのだ。

 都市やまちをつくる側の人々、そしてその場所を楽しみに来る旅行者たちが、この「日常」なるものを観光的に楽しむ力を、より持つことができれば……

 ツアーではなく、自分の足で
 見学ではなく、体験へ、学びへ
 名物ではなく、日常へ

 21世紀の旅の楽しみ方は、まだまだ広がっていくのではないだろうか。

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