見捨てられ不安の底にあるのは

　心の防衛が解けて、今まで見ないようにしていた自分の一部が意識に浮上してくると、逆に自分が弱くナイーブになった感じがするものです。
　でも本当はそうじゃないんですよね。そんな「弱くナイーブな自分がいても大丈夫」な、ひとまわり大きな自分になっているということなんですよね。

　私はずっと「見捨てられ不安」に直面するのを恐れて、うまくそれを回避しながら生きてきたな、ということが今はよく分かります。
　絶対に見捨てることのない、自然や神や大いなる何かとのつながりを頼みに、ここまで生きてきたなと思います。
　「孤高」という言葉がありますが、誰にも依存することなく、揺るぎない自分軸で飄々と生きているように見える人っていますよね。でもそんな人の中には、見捨てられ不安に対する防衛として、そういう生き方を選んでいる人もいるのかなーと、最近思う事あります。

　自分の中にある見捨てられ不安にじっと寄り添っていると、いろんな発見がありました。
　まず、見捨てられ不安がある、ということは、見捨てられた（と感じた）過去の（または過去生の？）体験があるということです。
　見捨てられ不安というのは、そんな過去の体験が繰り返されることへの不安なんだと思います。

　「アザーズ」というニコール・キッドマン主演のホラー映画がありますが、あの作品の中で、戦争に行って長いこと帰ってこなかった夫が、まるで幽霊のようにふらりと帰って来ては、また朝になると姿を消していたというシーンがあって、あの場面を見た時に思いがけず激しい動揺が走って、これととても似た経験を過去生でしているなーと思ったことがありました。
　あのシーンは何度見ても自分のことのように泣けてしまいます。

　それからもうひとつ気づいたことは、見捨てられ不安の奥には怒りがあるということでした。
　最初その怒りは、見捨てられたことへの怒りかと思いましたが、その怒りをよーく感じてみると、それは自分自身への怒りであることが分かりました。
　見捨てられたら生きていけない自分。そんな自分の弱さへの腹立ちでした。

　そしてまた、その自分の弱さへの腹立ちをじーっと感じていると、また分かったことがありました。
　私が怒りを感じているのは、弱い自分に対してではなくて、自分を「見捨てられたら生きていけない弱い人間だ」と自己卑下していることへの怒りでした。
　すごく微妙な違いだけど、もし自分がほんとうに弱い人間だということが真実であれば、それを受け入れた先には癒しが起きると思います。
　でも、そこに怒りがあるのは、それが真実ではないからなんですね。
　見捨てられ不安の奥底にあったのは、自分で自分を「孤立した弱い存在だ」と欺いていることへの怒りでした。

その怒りをじっと感じていると、それだけで、なんだか力が湧いてきました。

　でもここで感じた力は、誰にも頼らずに自立して孤高の人生を生きることのできる力ではありません。
　そうじゃなくて、自分は決して独りぼっちになんてなれっこない、という真実を認めることで感じることのできる力です。
　世界と自分はわかち難くつながっている。その真実が見えた時に湧いてくる力です。

　見捨てられ不安の中にいるとき、自分は世界から切り離されて独りだという夢を見ています。
　頭の中で作り上げた孤独な世界という夢を見ていて、ほんとうの世界が見えていません。
　この夢の中で必死になってもがくと、事態はますます大変になってきます。
　けれど、これは分離しているという夢なんだという気づきがおきると、力を抜いて世界を信頼して、世界という海にただ抱かれて浮かんでいることができます。

　神は、もともとそういう世界を創ったのだと思うのです。
　力を抜いて、信頼して、身を任せていれば、愛に抱かれて寛いでいることのできる世界です。

　けれど愛の海に抱かれていながら、わたしたちは眠り込んで夢を見ます。
夢の中で独りぼっちで暗い海を漂い、海底から恐ろしいサメが襲って来たり、大嵐にあったり。
　それが夢だと気づかずに必死にもがくことで、ますます海におぼれて苦しい思いをします。
　でも夢から覚めればわかるんですね。わたしはただ、信頼して海に身を委ねていればよかったのだということが。

　私は世界という海に抱かれていて、そこから分離して独りぼっちになることなどない。
　この世界という海には誰もがいて、すべてがある。そして私は誰もかれもと、すべてと、ひとつのものとして、わかち難くつながっている。
　この真実を受け入れることができた時、ほんとうの意味で見捨てられ不安は癒されるでしょうね。

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