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【製造業版Amazon】ミスミのすごいところ

ミスミという会社をご存知でしょうか?

感覚的にはほとんどの方は知らない会社だと思うのですが、知る人ぞ知る優良企業で、最近では製造業版Amazonと評されたり、製造業関係者の間では有名な企業です。

ちなみに東証一部上場で、FY19売上高は3,133億円(営業利益率7.5%)
売上推移をみてもらうと、直近20年ではリーマンショックのタイミングを除けば、右肩上がりで急成長していることがわかります。顧客数は全世界で310,000社、人数じゃなくて法人数ですからねコレ。

また、元ミスミグループ本社代表取締役社長(2020年時点では同社シニアチェアマン)の三枝匡氏は経営者の間ではかなり有名で、同氏が執筆した著書はビジネス書としてもベストセラーでシリーズ累計80万部を超えており、多くの企業の幹部研修などで使用されています。

実はこの会社、私が新卒入社した会社です。もう退職して7年近く経ちましたが。この記事を書こうと思ったのは、卒業生として今でも応援している会社というのもあるんですが、国内企業でここまで強力なビジネスモデルをもっている会社も珍しいので、もっと多くの人に知ってもらいたいという動機からです(決してミスミの回し者ではございませんw)

※本記事は断じてPR記事ではなく、同社から執筆依頼を受けている訳でもありませんのでご承知おきください。

では参りたいと思います。


ミスミの事業内容

同社の事業内容はシンプルにいうと「製造設備の部品製造・販売」です。そもそも製造設備といわれてもピンとこない人が多いと思うので例を挙げると

・デジカメのパーツを組み立てる機械
・お菓子などのパッケージ包装をする機械
・液晶ガラスを切り出す機械
・自動車のボディを造るためのプレス金型 など

例を挙げるとキリがないです。動画があるとイメージしやすいと思うので参考動画も貼っておきます。

私達の身の回りには多くの製品が溢れていますが、それらの製品の多くが製造設備によって製造されています。要は手作業ではなく機械によって製造が自動化されています。自動車しかり、電化製品しかり、コンビニのスイーツなんかも製造工程の多くは製造設備によって自動化されており、そのおかげで生産コストが低減され、我々がそれなりにリーズナブルな価格でこれらを購入できるという訳ですね。

そういった製造設備の部品をミスミは販売しています。ちなみにそれら部品とはどんなものかというと、こんなかんじです。

マニアックな香りが漂ってきますが、上記はほんの一部で、製造設備の部品は凄まじい数の種類があります。

ちなみにミスミが提供しているのはあくまで製造設備の部品であり、最終製品に組み込まれる部品を販売している訳ではありません。ややこしいのですが、例えば電化製品などの内部にミスミの部品が使われる訳ではなく、その電化製品を製造する設備にミスミの部品は使われています。(わりとこの点を混同されている方が多いので念のため)

という訳で、ミスミの顧客は製造設備を設計開発している会社になり、具体的にはメーカーの設備設計部署や、機械の組み立てやメンテナンスを行っている製造・保守の部署ということになります。またメーカーはそれら製造設備の設計開発を外部へ委託するケースもかなり多いので、委託先の装置メーカーや金型メーカーなども顧客になります。

部品の標準規格化

ミスミの最も優れたイノベーションは何かというと、個人的には部品の標準規格化だと思います。

まず、そもそもミスミの部品はどうやって販売しているかというと、カタログと自社ECサイトで販売しています。ミスミがカタログで販売を始めたのが1977年、このカタログが画期的なイノベーションを起こします。

当時、部品を顧客がどうやって手配していたかというと、必要な部品をひとつひとつ設計して図面を引き、その部品を加工してくれる業者へ見積をとって価格・納期を確認して(場合によっては価格・納期を交渉して)発注するという、大変面倒な流れを踏む必要がありました。ちなみに図面とはこんなやつです。

一般的に製造設備を構成する部品点数は数十~数百点は必要になるので、これら全ての図面を引いて見積することが、いかに大変かは想像に難くないでしょう。

その状況に目を付けたミスミはカタログ紙面上で手間なく部品を発注できる仕組みを構築したのです。具体的に説明しましょう。

これはシャフトという部品です。用途はさておき、形状は単純な円柱型の部品ですが、例えばこのような直径と長さで形状が決まる単純な部品であっても、直径と長さの組合せバリエーションは膨大になります。

しかしカタログ紙面上でこのように直径をD、長さをL、とパラメータ化することにより、膨大なバリエーションを指定可能にするUIを確立したのです。

ちなみに上記例で直径10mm・長さ1000mmを指定したい場合は、(型番例の通り)SFJ10-1000 と型番指定すれば発注できます。

しかも上記画像の右下部にあるように、納期は明示されています。さらに、、、

価格表も付いており、各パラメータの組合せによって価格が決定します。つまり、価格と納期の見積をとる必要がないのです...!! しかも、図面も引く必要がなく型番を指定するだけ。従来の手配方法と比べて格段にラクに手配できるように形状バリエーション、納期、価格を標準規格化したのです。

部品図データの提供

さきほど「図面を引く必要がない」といいましたが、これはあくまで部品の見積をするためには必要ないという意味で、実際は製造設備を造るためには図面は必ず必要になります。イメージしやすくするために、製造設備の設計の流れをシンプルに説明すると、こんなかんじです。

< 製造設備の設計の流れ >
① 設備の仕様決定(いわゆる要件定義)
② 基本計画の決定(製造開始時期など)
③ 設備全体の構想図設計(ラフスケッチみたいなもの)
④ 構想図→詳細図へ具体的に設計
⑤ 構成部品の部品図作成
⑥ コスト・納期の見積(④⇔⑤⇔⑥を繰り返すケースも)
⑦ 部品の発注→組立
⑧ 完成(設備の稼働開始)

つまり、⑤の工程で部品図が必要になってきます。
前述の通り、製造設備には数十~数百点の部品が必要になるため、これらを全て図面作成するのはかなり大変なのです。そう、設計者というのはとても大変な仕事なのです(リスペクト)

しかし、この点に関してもミスミ部品は価値を提供しています。それは部品図データの提供です。近年では、設計者が設計作業を行う際に、CADと呼ばれる図面作成ソフトを使って図面作成を行っています。もちろん手書き図面もありますが、CADを使うと正確かつ速く製図できるため、CADをの利用が一般的になってきています。参考までにCADとはこんなやつです。

ミスミ部品は形状・材質・寸法などをパラメータで指定すると型番が決まり、さらに図面データを提供サイトからダウンロードすることができます。このデータをCADに放り込めば部品図は完成で、わざわざ設計する必要がないのです。このサービスは設計工数を大きく削減することに貢献しています。図面作成のリードタイム短縮のみならず、設計コスト低減にもつながるため、非常に大きな価値を提供しているのです。

極めて高い納期遵守

ミスミの特徴を語る上で欠かせないのは納期です。前述のように膨大なバリエーションを標準規格化によって指定可能にした訳ですが、このバリエーションに対応するために製造工程も工夫が凝らされています。こちらをご覧ください。

部品を加工する際、材料となる金属を切削加工して形にしていくのですが、あらかじめ途中まで加工を済ませた半製品を在庫し、受注してから残りの加工工程を施せば完成するようにしているのです。要は共通工程をあらかじめ済ませておき、製造リードタイムを短縮しているということです。これにより、ミスミは非常に短い納期での出荷を可能にしています。(半製品は海外工場で大量生産し、各国の部品製造工場へ供給することにより低コスト・短納期を実現)

更に製造工程だけでなく、自社のロジスティクスセンターの配送オペレーションを磨きこむことで極めて高い納期遵守率(99%以上)を実現しています。

実はこの業界では短納期や、納期遵守率が高いことは、時に価格が安いことよりも重要とされることが多々あります。

なぜかというと、製品を製造する顧客にとって、製造設備を早期に完成させて製造開始できることは、新製品のリリースや既存製品の増産開始を早めることに繋がり、顧客側の収益向上にモロに直結するからです。リリースが一日遅れるだけで、部品の価格とは比較にならないほどの損失が出るなんてことはザラにあります。

また、ミスミでは有料で納期を更に短縮するサービスも行っており、部品によっては最短当日出荷にも対応しています。上記のようなニーズだけでなく、製造設備の部品が破損して製造が止まるようなケースもあるため、納期短縮サービスはたとえ有料であってもニーズが高いのです。

驚異的な商品バリエーション

ミスミはカタログ紙面上で膨大なバリエーションを実現しているという話をしました。それだけでなく、ミスミは膨大な数の商品点数を保持しています。金型用部品、メカニカル部品、配線部品、制御部品、切削工具などのカテゴリ毎にカタログがあり、各カタログのページ数は約2000ページもあり、その分厚さは広辞苑の比ではありませんw

しかもこの商品点数のひとつひとつに対して膨大な形状バリエーションを指定できるため、その組み合わせの数は天文学的単位に迫る規模です。

この膨大なラインナップにより、ミスミカタログだけで必要な部品がほとんど揃ってしまうため、設計時に部品を選定する時間を大幅に短縮できるという強力なメリットを提供しているのです。

カタログがもたらした隠れたメリット(?)

これから述べる内容はあまり表立って触れられることはないのですが、

ミスミの顧客である設計者の方々の勤務環境はオフラインであることがわりと多いです。なぜかというと製造設備の仕様や図面は機密情報であり、各社のノウハウが結集された知的財産であるため、セキュリティ観点からネットに接続できるPCは限定されているなど、厳しいセキュリティ環境であることが少なくありません。しかし、オフライン環境下であっても紙カタログはネットに接続することなく使用できるため、実はこれが「助かるんだよね」と言われることが多いです。

また、これは完全に個人的見解ですが、私が同社で営業部門に所属していた時に設計者のお客様から教えて頂いたことなのですが、わりと設計者は労働流動性が高い、つまり設計スキルがあれば様々な会社でもそれを応用できるため転職して会社を変えるという事が多いらしく、転職するタイミングでカタログも私物として持ちこまれることもあり、マーケティングでいうところのネットワーク効果(口コミ効果など)がカタログ起点で生まれやすく、「なにそれ、そのカタログみせてよ」みたいに新しい職場で勝手に広まっていくみたいな現象があるらしいです。オフライン媒体、侮れないですw

MISUMI-VONA | ミスミの総合Webカタログ

紙カタログの話に触れましたが、ミスミではWebカタログ(いわゆるECサイト)もあり、ネットで注文することも可能です。

紙カタログも大変便利なのですが、商品点数が多いため目当ての部品を探すのが大変だったり、部品によっては指定するパラメータ数が20以上あるものも存在するため型番指定がそれなりに大変ですし、価格表から価格をを調べるのも大変です。

一方、Webカタログだと商品検索もラクで、パラメータも画面上でポチポチ指定していけば自動的に型番生成され、価格・納期もその場で分かって発注までできるため大変便利です。これだけでも十分メリットがあるのですが、実はさらに大きなメリットがあります。

他社ブランド製品も買える

近年、ミスミWebカタログでは他社ブランド製品も購入できるようになっています。例えるなら、Appleのサイトで、Androidスマホが買えるようなもんです。なぜか?

これが実現する以前、当時のミスミにとって競合関係にあたる部品メーカー各社と協議を重ね、現在ではミスミWebカタログ上で他社製品であっても同じように型番生成、価格・納期の確認、発注までワンストップで実現できるシステムを構築しています。

従来、他社ブランド品は各社によって事情が異なるので一概にはいえないのですが、販売網や配送オペレーションを自社でミスミほど盤石に整備できない会社も多く、中間流通である販売代理店を通して販売しているという状況があります。顧客にとってみると、代理店を通してしか部品を入手できないため、代理店を探す必要があったり、さらに価格や納期も見積が必要になり、納期も安定しなかったりといった不便があります(とはいえ、代理店独自の手厚いサービスがあったりもするので一長一短)

このペインポイントに着目したミスミは、メーカー各社の部品もWebカタログ上で便利に発注でき、さらに高品質な配送オペレーションも組合せることによって課題解消を試みたのです。

この動きは、部品メーカー各社が力を合わせ、世界中の製造業を支えていこうという意志の現れだと思っています。各社とはライバル関係ではありながらも、互いに協力することでWin-Winの関係を築いていくという、まさに21世紀らしい協力体制といえるでしょう。

これにより、ミスミのWebカタログは製造設備部品や生産財の総合プラットフォームとなり、取り扱い商品点数は3100万点、各部品毎のバリエーションも加味すると、800垓(1兆の800億倍)もの数になります。ちなみにこの800垓の5倍は宇宙の星の数に匹敵する規模らしいです...

この驚異的な商品点数が、ミスミのワンストップ性をさらに強固なものにしたのです。

戦略にこだわるミスミ

気づけばかなりの長文になってきました。。。もう少しお付き合いください。

これまでミスミのサービス上の強みを中心に解説してきましたが、ここで企業文化についても触れて最後にしたいと思います。

ミスミは1963年に田口弘氏が創業し(当時は三住商事)、2001年に三枝匡氏が代表取締役に就任しました。同氏はボストン・コンサルティング・グループの国内採用第1号のコンサルタントで、様々な企業を再生させてきた企業再生のスペシャリストです。(詳しい経歴についてはWikiなどでご確認ください)同氏がミスミで行った様々な改革については著書である「ザ・会社改造」に詳細に著されていますのでご興味があれば。

ちなみに私のミスミ在職期間中は、三枝匡氏が代表取締役を務められていましたので、その時に感じたことをベースに書きます。

当時の私はヒラ社員でしたので直接、三枝氏と会話する機会はありませんでしたが、彼が幾度となく提唱していた「戦略志向とリーダーシップ」のマインドは私も含め、末端社員まで浸透していました。

とくに「戦略」というワードはミスミの中では特別な意味をもっていて、常に戦略を立てて行動に移すことを求められていました。ちなみに同氏による戦略の定義とは以下の通りです。

戦略とは何か。その定義を問われたら三枝はこう言う。

戦略とは、戦場・敵の動きを俯瞰し、自分の強み弱みから、勝負のカギと、選択肢を見極め、リスクバランスを図りつつ、絞りと集中によって、所定の時間軸内で勝ち戦を収めるための、ロジックである。そして、その戦略の実行手順を長期シナリオとして、組織内に示すものである。

まだ実行していないことを描く戦略は常に「仮説」であり、その良し悪し(勝ち戦の可能性が高いか低いか)を判断する決め手は「論理(ロジック)の強さ」である。

※著書「ザ・会社改造」より抜粋

けっこう長いですが、まさにこれを常に追求し続ける強烈な組織文化がミスミの強みです。各組織の戦略の策定/審議に半年かけて考えに考え抜いて、戦略が決まったら全組織が一丸となって一気呵成に走り出します。走り出した時の勢いも凄まじいのですが、軌道修正する時のスピードも凄い。何か失敗や想定外が起きた時にも、高速で立ち戻って軌道修正して走り出すため、意思決定スピードがめちゃくちゃ速い。

「計画に時間をかけるのはナンセンス」
「未来を予測することなんてできないから、計画よりも行動して軌道修正していく方が重要」

みたいな風潮がありますが、たしかにそれも真理。しかし、しっかりと考え抜くことで予見できることは沢山ありますし、戦略という仮説を細かく組み上げているからこそ、何かが起きた時に誰よりも敏感に気づけるということもあり、結果的に速く遠くへ行けるのです。

最後に

ミスミについて個人的見解100%で解説してきました。
製造業の裏方ですし、BtoCの企業みたいに華のあるトピックは少ないので世に知られる機会がほとんどないと思いますが、個人的には日本が誇る世界とも戦える競争力をもつ会社だと思います。

ミスミに限らず、製造業には知られざるガリバーみたいな企業がゴロゴロいますが、ほとんどニュースとかで知り得る機会はないので悲しいですね。。。

この記事をみて、少しでもミスミや製造業に興味をもって頂けたらサイコーです。ではまた次の記事でお会いしましょう。

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