① 季節を追い越す音
びゅうびゅうとアパートの窓を撫ぜて、どこかのビニール袋をさかさかと鳴らす風が吹き、一層寒さを感じるようになった。
毎年のように暖冬だと言われるが、都合良く今までのことなんて忘れて、冬になると寒がってしまう。
足元に蹴散らした灰で加速する風は、じっとりと海辺に落ちるものと舞い上がるものとで、目には見えないが分離していく。
元々は鮮やかなブルーだったであろうベンチにゆっくりと腰を下ろす。
何か言いたげな猫は身をよじり、低木の影に呑み込まれていく。
名前をもらった。
ずっと欲しかったものなのかもしれない。
「頭のネジが外れた人」という表現はよく聞くが、僕は「そもそもネジ穴のない人」と言われ、「そうであればいいな」と思っていた。
一人ではない。ただマジョリティでもない。
自嘲とも卑下とも取れるグロテスクな感情は、愉快な言葉以外が漏れ出さないように喉を乾かせる。
陳腐な魂が横隔膜を震わせ、気管を温める。
外気との温度差で声はしわがれ、喉元の血管を浮き上がらせる。
毛羽立った心と呼応するように、全てを内包した一つの音となってどんどん離れていく。
その音が心と交信するのを諦めた頃、自我を持ってあなたの耳に響くのだろう。
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