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② 空に落ちる


産毛が逆立つ。

海風に触れていたせいで微熱を帯びたような感覚のまま、立ち上がる。

いつの間にか太陽は同じ背丈ほどまでに落ちて、飴玉のようなオレンジ色になっていた。


このまま死んでゆけば、何も要らない。

言葉の意味がとげとげとしたものではなく、ごく当たり前のようにすんなりと受け入れられた。

ドアを閉めて鍵を掛けるように。

肌を刺す日差しを嫌うように。



視界の隅に黒いカマロが停まる。

短くクラクションを鳴らし、運転手はガサツに降りてくる。

銀蝿の様に大袈裟に手を擦り合わせて寒さを表現した男は、短いシガリロを咥え、火を点けた。

先に海辺へと歩を進め、そいつは後ろを駆け足で音を立てて付いて来る。



友人が自殺したのは去年のことだった。

絶対に死なないと約束した翌月のことで、涙も出ず、呆れた。そう思っていた。

ちりちりと傷口を抉り、肉を掻き分けて、やがて骨まで達するところで、陽は差し込んだ。

紗がかかるようにうっすらと目を開け、痛みを、もう一度感じた。


誰よりも海に近いコンクリートの上に倒れ込んだ。


#遺言は朝霧の中に

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