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名探偵コナンRUM編総括:17年前の羽田浩司・アマンダ殺害事件に対する2つの疑問点

名探偵コナン第1107話(2023.2.8発売の週刊少年サンデー第12号)の感想


テーマ:本話で描かれた羽田浩司アマンダ殺害事件の経緯に対する2つの疑問点

疑問点①:組織に対して反撃準備を進めていたアマンダはともかく、そのアマンダの友人にすぎず組織とは無関係とされる羽田浩司の事件当時初対面のRUM率いる組織への対応が不自然なほど手際が良かった点


疑問点①の考察
⑴ 本話で羽田は許可なく自己の客室に立ち入り本棚を物色し始めたRUMに対し「烏丸蓮耶」と呟きRUMの気を引くことで本棚に隠れていた浅香を組織から守った。
⑵ 初対面のRUMに対し即座に「烏丸蓮耶」という言葉が出た理由として彼は「偶然ネットで30年前の国際経済フォーラムにて(欠席した)烏丸会長の代理で出席した当時のRUMの写真が載っている記事を見かけた」と説明し、「(フォトグラフィック・メモリーのRUMに対し)自分も記憶力はいいもので」と自然に振る舞った。
⑶ ジュークホテルに滞在している友人のアマンダが浅香を守るために浅香を羽田の部屋に送ってきた直後とはいえ、同ホテルのいち客にすぎない羽田が、自己の部屋に許可なく立ち入った初対面のRUM及び組織に有形力で自身の身体を拘束された状態で浅香を守るために「烏丸蓮耶」と発言することは浅香の命のための博打ともいえる行動だった。
上記における羽田の行動の背景には、資産家のアマンダのボディガードの浅香から最近組織がアマンダを狙っていることなどの組織の危険性を訴えられたことや現にアマンダが襲撃されているという羽田事件直前の状況があった。
ただここで注目すべき点は、その浅香に対して羽田が組織が訪れる直前の場面でアマンダを現に襲撃している組織と自身は無関係であると発言したことである。

この点がコミックス第98巻にてコナンが大金持ちの羽田家の御曹司として羽田浩司の人物像を再確認したこれまでの物語の流れと矛盾しているようで本記事の筆者は違和感を持った。組織と無関係であっても烏丸蓮耶や烏丸グループとの間には何らかの接点がないかと考えた。
完全に無関係であるとすると上記の羽田家の設定はこれからの物語の中でどう生かされるというのだろうか。

加えて、羽田が組織と無関係であると発言した一方で、同人の「烏丸蓮耶」発言からは、経済界の大きな存在である烏丸グループ会長の代理としての30年前のRUMの姿と現に対面しているRUM及び組織の資産家襲撃という悪行との間のギャップの大きさを加味しても、そこで即座に烏丸蓮耶との関係を見出すことに羽田事件以前から羽田の頭の片隅に経済界の烏丸蓮耶及び烏丸グループの存在が悪い印象として残っていたかのような機転の良さが現れている。
すなわち、羽田が烏丸グループと完全に無関係であるならば、「烏丸蓮耶」発言の上記⑵の羽田の説明につき、RUMの顔を見ただけでRUMと烏丸グループの表の顔である烏丸蓮耶との間の組織的な関係を即座に見出した発想と上記⑶の発言との間に(以下の疑問点②の⑸で解説するように)推論的な大きな飛躍が生まれる。
この点につき羽田は烏丸グループの裏の顔としての烏丸蓮耶のことを知っていたか否かが論点になる。

以上の羽田が本話の事件以前から烏丸の裏の顔を覚知していたかという論点について、本話までにRUM編で明らかとなった①FBIやCIAに顔が利き、かつ組織を知るアマンダと定期的に交流していた②羽田家が大金持ちであるという2つの事実から羽田浩司を主とする羽田家と経済界・政財界を通した烏丸グループとの関わりに推認に推認を重ねても可能性の域を出ない以上解決のしようがないが、以下の疑問点②に触れた上で再度この論点の解決を試みる。

疑問点②:本話が羽田アマンダ殺害事件の真相となる背景をあからさまに避けて描かれている点


・本事件の当事者及び関係者は自身が知っていることの全てのうち一部しか語っていない

⑴ 本話冒頭で黒田はコナンに対し日本警察の身分である自身が事件当時のアメリカのジュークホテルに滞在していた理由を「上司の密命を受けて本格的な会議の前の顔合わせ程度のことだがアマンダに会う目的で」と説明するが、その上司の密命及び本格的な会議とは何か、その内容には触れられず、その直後に物語がアマンダ視点の回想に移り、アマンダがRUMに対し「貴方達を懲らしめる算段を日本警察としようとしていた」と説明する形で黒田の上記の説明に補足が入った。
⑵ この補足により読者は「17年前時点でアマンダと日本警察が組織をマークしていた」ことを知るが一方でコナンはこの事実を黒田から直接知ることができなかった(ただしコナンは2元ミステリー回にてベルモットが20年前に組織を捜査していたジョディの父親を殺害したことをベルモットとジョディの会話から知ることによってアマンダと関わりがあるFBIが20年前の時点で組織の存在を認知していたことを把握している。)ことになる。
⑶ このことから17年前の事件の当事者及び関係者が本話の中で自身が知っていることの全てを話していないことがわかる。

以上の流れが本話の羽田浩司の「烏丸蓮耶」発言にも当てはめるのではないか。
⑷ 疑問点①で触れた羽田浩司の組織への対応をみると、初対面のRUMを見て「30年前の烏丸の代理の人物の写真」と結びついて即座に自身が現に対面している組織と烏丸との関係を見いだしRUMに対して指摘している。
⑸ この羽田の推論過程ではRUMと写真の人物を一致させることができるが、そこから組織と烏丸グループ会長・烏丸蓮耶の関係を見出すには、疑問点①で述べた事件当時の状況に加えて17年前時点で年齢的にありえない烏丸の生存の可能性や、死亡を前提として烏丸死亡後の当時の烏丸グループや烏丸の親族とRUMとの間の関係、及び烏丸グループ関係者総体とアマンダとの間の関係などの推論過程を踏む必要があり、やはり大きな飛躍がある。

本記事の筆者の見解

⑴ この飛躍については、疑問点①で述べたとおり、仮に事件以前から羽田浩司の頭の片隅に烏丸蓮耶の存在があったと説明してみる。
⑵ そうすると、既述以外の羽田事件当時の羽田の行動原理も説明できる。
例えば、主に事件以前からアマンダと羽田浩司との間に頻繁に交流があった事実からアマンダから昔話を聞きその中で烏丸蓮耶の悪い噂を知った可能性を見いだせる。それに加えて、事件当時スタンガンで気絶していたため羽田とRUMの烏丸についての会話を聞けなかった浅香に伝えるために、自身が所持していた手鏡の文字からPUT ON MASUCARA→CARASUMA(烏丸蓮耶及び烏丸グループ)のアナグラムを残すなどの羽田の手際の良さを説明できる。

この主張に対しては以下のような反論が想定できる。
①本話の中で羽田浩司本人が「アマンダを狙う連中と自分は無関係である」と発言したこと、②RUM編におけるバーボンの回想の中で触れられた羽田の遺族の「羽田浩司が御守りにしていた将棋の駒を手放すわけがないから御守りを持っている人物が犯人である」という主張からは資産家のアマンダが殺害されたスケールの大きさに対する思慮がなく、羽田家が組織を認知しているそぶりは全く見いだせない(ただ、この回想が登場した当時のRUM編では浅香が組織の人物であるか否かは判明しておらず、浅香が犯人であるか否かと分けられる論点であったこと、そして遺族が浅香が犯人だと主張していることにはならないことに留意したい。)。よって羽田家は烏丸グループなどの経済界とは大きな距離があり、大金持ちではあるが経済界や政界的にコネクションのある家柄ではないから羽田浩司が烏丸蓮耶を事件以前から意識していたことを示唆する要素が作中にはない、③本シリーズでは一貫して組織と無関係の羽田浩司のトップ棋士としての思慮深さや機転の良さが描かれていて、「烏丸蓮耶」発言及び手鏡のアナグラムも羽田浩司の棋士としての勘がRUMを上回ったところを描いているにすぎないというものである。

①については組織と無関係だからといって羽田浩司が烏丸蓮耶のことを以前から認識していなかったことにはならない、②については遺族を含む羽田家と羽田浩司は別人格だという再反論ができる。
③についてはとても有力な考えだと思う。本話で羽田の棋士としての実力が発揮された例を挙げると、羽田事件発生の直前にアマンダのボディガードである浅香が羽田の客室を訪ねてた場面がある。
アマンダは羽田の客室に置いたままのチェス駒を回収させるために浅香を送ったが、チェス駒を置き忘れたというのはアマンダの嘘だった。
アマンダが浅香に嘘をついてまで浅香を羽田の下に送った理由についての羽田の推理をみると、羽田は①アマンダ陣営においてアマンダのボディガードたちと連絡がつかなくなったこと、②組織の手が迫っていることの2点を考慮して、浅香を組織から逃すためだったと同人に説明した。そして羽田がアマンダの部屋に引き返そうとする浅香を引き止めるとその直後に組織が羽田の部屋を訪ねてきた。
以上の一連の出来事では羽田浩司の自身及びアマンダ浅香が置かれた状況を即座に把握する棋士としての実力が描かれていて、組織とアマンダの争いに無関係の身分であるからこその羽田の実力の凄まじさを感じられる。
また、上記の状況で羽田が浅香から得た上記①②の事実から「資産家」としてのアマンダが命を狙われていることを頭に入れたその直後にRUMと対峙する場面では、「資産家」を狙う連中を指揮するRUMが過去に烏丸グループ会長「(大富豪の)烏丸蓮耶」の代理であったことからRUMと烏丸蓮耶(及び烏丸グループ)との関係及び加害者と被害者の経済界を通じた資産家的な繋がりを羽田が察知したことは、羽田の棋士としての直感力の素晴らしさが強調されている点で組織と無関係の羽田というテーマとして上記と一貫しており、そうすると羽田の「烏丸蓮耶」発言には大きな推論的飛躍がないといえるから不自然なものではないように思える。

これに対しては、語られなかった羽田の主観の論点は潔く放棄して、それでもなお作者がキャラクターの主観に頼らない方法で羽田の発言から「国際経済フォーラム→烏丸グループ会長としての表の顔→経済界に影響のある組織→次の舞台が経済界及び資産家界」であることを客観的に示唆したかったと説明して乗り切ってみる。
加えて反論のような説明では第98巻でコナンが大金持ちの羽田家を再確認した物語の流れとの大きな歪みを埋められないことを再度確認しなければならない。

結論

以上の本記事の筆者の主張の通り、羽田事件の状況と「烏丸蓮耶」発言との間のギャップを埋めるものこそが、経済界に影響のあるグループや資産家、大金持ちの一族という事件当事者及び事件の背景にある経済界の横の繋がりと、それを察知した羽田の棋士としての直感であり、そしてこれらが作者のキャラクターの主観に頼らない物語の描写方法によるものであるとすれば、羽田の上記の発言が示唆するものは、RUM編以降のコナンサイドと組織の主戦場としての物語の舞台である
すなわち、17年前の事件シリーズから若狭留美の強盗事件及び直近の帝丹小学校事件シリーズまでのRUM編後期の中でRUMとコナン陣営(FBI)、公安及び若狭留美との間でお互いの動きを探るように繰り広げられたロワイヤル的な頭脳戦をテーマとするRUM編は閉幕し、8月の連載再開から両サイドが資産家をきっかけとして直接対峙することで物語は最終章に突入するということになる。

これから年内に描かれる可能性の高い赤井父vs.RUMや浅香が宮野エレーナという人物を知りAPTX4869のリストを入手した経緯などは経済界的な世界観を通じて物語の核心に触れる点でRUM編ではなく最終章にふさわしい内容ということになる。

そして、これらの点は、RUM編で大きな伏線として描かれた第1106話から本話にかけてのアマンダの「日本の大富豪の誕生日パーティ」及び「日本の大富豪とは烏丸のこと」との発言、40年前の黄昏の館事件などと大きくかかわってくることが予想される。

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