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shift innovation #23 (HITACHI hack 2)

今回、日立ソリューションズが主催するオンラインワークショップに参加しました。

ワークショップのテーマは「ITによる未来都市モデル(2025年)のアイデア創出」となり、約1ヶ月間にわたり、「ideagram」というオンライ発想ツールを活用し、個人において、新たなアイデアを発想、評価(分析)するというワークショップとなります。

そして、最終のオンラインワークショップにおいては、参加者(個人)が発想したアイデアのうち一つを選定した上で、チームでバリュー・プロポジション・キャンバスを作成し、アイデアを具体化させる中で、実現可能性を高めことにより、事業化を検討するというワークショップとなります。


shift innovation (HITACHI hack )では、ワークショップにおいて創出したアイデアの事例について、3回にわたり説明することとします。

前回、HITACHI hack 1においては、「『ideagram』における課題発見フェーズの必要性」について説明しました。

今回、HITACHI hack 2においては、「『ideagram』における意外性のあるアイデア創出のためのフレームの必要性」について説明することとします。

HITACHI hack 3においては、「『shift innovation』の方法論に基づくアイデア創出」について説明することとします。


【「ideagram」とは】

「ideagram」とは、デザイン思考に基づき、利用者のニーズ理解からスタートし、「どういう人がどういう状況で困っているのか」を検討する上で、強制発想により自分だけでは思いつかない選択肢(状況)の組み合わせをすることによって、新たなアイデアを創出するというものです。

具体的には、システムがランダムに抽出したWho(誰が)・Where(どこで)・When(いつ)のキーワードを活用し、シチュエーションをイメージした上で、Who(誰が)におけるニーズ(Why)を検討します。

次に、システムがランダムに抽出したWhat(何を)のキーワードを活用することにより、検討をしたニーズ(Why)を実現させる新たなアイデア(How)を創出するというものです。


【前回の振り返り】

前回、HITACHI hack1において、新たなアイデアを創出できる人材の創造性を育成できるツールとする上で、課題発見フェーズと課題解決フェーズを一気通貫に実施することができることを説明しました。

今回は、Who・Where・Whenに対してフレームを活用した事例である「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ」に関して、意外性のあるアイデアを創出するためには、一定のプロセス(フレーム)を経る必要があり、そのフレーム(プロセス)の詳細内容について説明することとします。

(前回紹介)Who・Where・Whenに対してフレームを活用した場合

事例「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ

《「ideagram」の画面イメージ》
(Who)
「身だしなみに拘りたい人」・(Where)「会議室」・(When)「食事中」・(What)「デジタルサイネージ」

(Why)
(検討内容)「打ち合わせの時、脳を活性化させるためチョコを食べたい

(How)
(検討内容)「いつでもどこでも好きな場所の写真を撮るだけで、建物などの外観に合わせてAIが自動生成しプロジェクションマッピングを観ることができるスマホアプリ
※「デジタルサイネージ」→「プロジェクションマッピング」「スマホアプリ」

【フレーム(プロセス)の詳細内容】

事例「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ」

《「ideagram」の画面イメージ》
(Who)「身だしなみに拘りたい人」・(Where)「会議室」・(When)「食事中」・(What)「デジタルサイネージ」

(Why)
身だしなみに拘りたい人→(検討内容1)「綺麗好きな人
会議室→(検討内容2)「打ち合わせ
食事中→(検討内容3)「お菓子を食べる

コンテクスト→(検討内容4)「脳を活性化させるためチョコを食べる
ニーズ→(検討内容5)「打ち合わせの時、脳を活性化させるためチョコを食べたい

不便益コンテクスト→(検討内容6)「打ち合わせの時、いつもお菓子があるわけではない
反転コンテクスト→(検討内容7)「お昼休みであれば、みんながよくお菓子を食べている

コンセプト→(検討内容8)「特定の時間になると●●しやすくなる」

(How)
メインテーマ「2025年に実現するITによる未来都市モデル」
サブテーマ(検討内容9)「グローバルな人/文化の交流

綺麗好きな人→(検討内容10)「計画通り旅する人
打ち合わせ→(検討内容11)「みんなが集まる
お菓子を食べる→(検討内容12)「ソウルフードを食べる

コンテクスト(コンセプト―特定の時間になると●●しやすくなる)→
(検討内容13)「どの時間帯であっても建物などの写真を撮ると建物なでにあわせたプロジェクションマッピングを観ることができる

アイデア(解決策)→
(検討内容14)「いつでもどこでも好きな場所の写真を撮るだけで、建物などの外観に合わせてAIが自動生成しプロジェクションマッピングを観ることができるスマホアプリ

タイトル→(検討内容15)「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ


【事例「いつでもどこでもプロジェクションマツピングアプリ」の解説】

意外性のあるアイデアを創出するためには、今までとは異なる新たな視点によりコンテクストを捉えるための一定のプロセスを経る必要があると考えます。

事例である「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ」に関して、はじめに、Whyのフェーズにおいて、読み替えたキーワードである「打ち合わせ」「お菓子」から「仕事中に脳を活性化させるため、チョコレートを食べている人」を想起しました。

次に、想起したコンテクストより「打ち合わせの時、脳を活性化させるためチョコを食べたい」というWhyのフェーズにおける本質的なニーズを抽出しました。

そして、このコンテクストより「いつもお菓子があるわけではない」という不便益を抽出した上で、意外性のあるアイデアを創出するため、コンテクストである「昼休みであればある」へと反転させました。

Howのフェーズにおいて、新たなコンテクストを類推しやすくするため、反転させた「昼休みであればある」を「特定の時間」へ構造化することにより、「特定の時間になると●●しやすくなる」というコンセプトを設定しました。


続いて、Howのフェーズにおいて、メインテーマ、サブテーマおよびキーワードを読み替えた「特定の時間」「計画通りに旅する人」「みんなが集まる」から丁度テレビで放映していた「プロジェクションマッピングのCM」を類推(想起)しました。

次に、Whyのフェーズにおいて構造化したコンセプトである「特定の時間になると●●しやすくなる」と類推(想起)した「プロジェクションマッピング」に基づき「建物などの写真を撮ると建物などにあわせたプロジェクションマッピングを観ることができる」を抽出しました。

さらに「特定の時間」を「どの時間帯であっても」に反転させることにより、統合したコンテクストである「どの時間帯であっても、建物などの写真を撮ると建物などにあわせたプロジェクションマッピングを観ることができる」を抽出しました。

そして、時間帯を特定しないだけではなく、場所も特定せず、どのような建物であっても、AIが自動的にプロジェクションマップを生成することができ、さらにデジタルサイネージではなく、スマホで簡単に観ることができるようにすることによって、「いつでもどこでも好きな場所の写真を撮るだけで、建物などの外観に合わせてAIが自動生成しプロジェクションマッピングを観ることができるスマホアプリ」という新たなアイデア(解決策)を創出しました。


【リフレーム(「反転」)・コンセプト設定(「構造化」)・アナロジー(「類推」)の重要性】

意外性のある新たなアイデアを創出する上で、「反転」させること、「構造化」すること、「類推」することが重要になると考えます。

「反転」

「反転」に関して、今までとは異なる新たな視点を得る上で重要となり、例えば、「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ」の事例の場合、「打ち合わせの時、脳を活性化させるためチョコを食べたい」というニーズに対して、「打ち合わせの時、いつもお菓子があるわけではない」という不便益を抽出した上で、「お昼休みであれば、みんながよくお菓子を食べている」へと反転させました。

例えば、不便益コンテクストである「打ち合わせの時、いつもお菓子があるわけではない」を起点としアイデアを創出した場合、「脳を活性化させることができるお菓子が指定した日時・場所に自動的に届けられるサブスクサービス」というアイデア(解決策)が創出されました。

一方で、反転コンテクストである「お昼休みであれば、みんながよくお菓子を食べている」を起点としアイデアを創出した場合、説明をした「いつでもどこでも好きな場所の写真を撮るだけで、建物などの外観に合わせてAIが自動生成しプロジェクションマッピングを観ることができるスマホアプリ」というアイデア(解決策)が創出されました。

上記事例の相違点に関して、不便益コンテクストを起点とした場合、「不満足である状態」から「不満足ではない状態」へ転移することにより、不満足を解消したのみとなりましたが、反転コンテクストを起点とした場合は、「不満足である状態」から「満足である状態」へ転移することにより、満足を創出することができたと考えます。

これらのように、不便益コンテクストを起点とした場合、反転させる前の「いつもはない状態」から「いつもある状態」へ不満足を解消する、つまりは、「消極的満足」となる可能性が高いものと考えられます。

一方で、反転コンテクストを起点とした場合、「いつもある状態」から発想することとなりますので、さらに良い状態へと満足を創出する、つまりは、「積極的満足」となる可能性が高いものと考えられます。

よって、上記事例の場合であれば、より良くしようとする中で、同じ満足の状態であっても、コンテクストを反転させることにより、「消極的満足」から「積極的満足」へ反転するなど、今までとは異なる視点によりコンテクストを捉え直すことができますので、意外性のあるアイデアを創出する上で、「反転」させることは有効ではないかと考えます。

「構造化」

構造化」に関して、新たなアイデア創出のためのコンセプトを設定することが重要となり、例えば、「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ」の事例の場合、(Who)「身だしなみに拘りたい人」・(Where)「会議室」・(When)「食事中」というキーワードに対して、「打ち合わせの時、脳を活性化させるためチョコを食べたい」というニーズを抽出した上で、「特定の時間になると●●しやすくなる」というコンセプトを設定しました。

その結果、Howのフェーズにおいて、サブテーマに基づき読み替えたWho(誰が)・Where(どこで)・When(いつ)のキーワードやWhat(何を)のキーワードを収束しやすくなったこともあり、最終的に新たなアイデア(解決策)を創出しやすくなりました。

一方で、キーワードをそのまま活用した場合、「会社ではいつも会議があり、終わるまで長時間かかるなど、食事をとるのも会議室でとるくらい忙しいものの、せめて身だしなみには拘りたい」というニーズに対して、コンセプトを設定しなかったとします。

そうすると、Howのフェーズにおいて、サブテーマに基づき読み替えたWho(誰が)・Where(どこで)・When(いつ)のキーワードやWhat(何を)のキーワードに基づき、新たなコンテクストを収束させようとした場合、新たなアイデア(解決策)を創出する上で、Whyのフェーズで抽出したニーズが複雑であるため、新たなコンテクストを類推しづらくなりました。

これらのように、Whyのフェーズにおけるニーズを複雑なままにしておくのではなく、あくまでもシンプルな内容へ構造化した上で、コンセプトを設定することにより、Howのフェーズおいて、新たなコンテクストを類推しやすくなるのではないかと考えます。

ちなみに、「会社ではいつも会議があり、終わるまで長時間かかるなど、食事をとるのも会議室でとるくらい忙しいものの、せめて身だしなみには拘りたい」というニーズにより創出したアイデア(解決策)とは、「旅行先に多くの荷物を持ち込みたくないものの、身だしなみには拘りたいので、旅行先で自分の好みの服を試着した等身大の姿をデジタルサイネージで確認した上で、購入しホテルに配送してくれるサービス」というアイデア(解決策)が創出されました。

「類推」

類推」に関して、類似する新たなコンテクストへ収束させる上で重要となり、例えば、「いつでもどこでもプロジェクションマッピングアプリ」の事例の場合、コンセプトである「特定の時間になると●●しやすくなる」とキーワードを読み替えた「計画通り旅する人」「みんなが集まる」から、丁度テレビのCMで放映していたプロジェクションマッピングを想起したことにより、また、「特定の時間」を「どの時間であっても」へ反転させたことによって、「どの時間帯であっても、建物などの写真を撮るとプロジェクションマッピングを観ることができる」という類似する新たなコンテクストへ収束させることができました。

これに関して、新たなコンテクストを類推する上で、具象から具象へ類推することは困難であり、類推する場合は、抽象から具象へ類推する必要があります。

例えば、コンサルティングファームであるTakramが創造した「ドクメンタ」という人工臓器は、「100年後の人類のための究極の『水筒』を提案する」というテーマに基づき創造したプロダクトであり、地球上の飲める水が激減するというコンテクストをもとに創造したようです。

「ドクメンタ」のコンセプトは、「荒廃した未来の世界における水筒」であり、荒廃した未来の世界では、水自体が希少なものであり、水筒の機能を改良するだけでは、対応することが困難であることから、荒廃した未来の世界で水を補給することができないのであれば、身体から水を排出しなければ良いのではないかという発想になったようです。

そのとき、カンガルーは水分を排出せず循環させることを想起(類推)したことから、尿を濾過した水分を循環させることができる人工臓器を作れば、荒廃した未来の世界において、生き続けることができるのではないかと発想したようです。

このように、「水筒」から「身体」、そして「身体」という具象から一気に「カンガルーの腎臓」という具象を類推することは困難であると考えます。

一方で、「(身体から)水分を排出しない」という抽象(機能・目的)から「(カンガルーの腎臓は)尿を濾過して水分を循環させるので、水分を排出しない」を想起することにより、「カンガルーの臓器」という具象を類推することは比較的容易ではないかと考えます。

これらのように、コンテクストを抽象的(機能・目的)に捉えること、ここでは、コンセプトを設定するにより、類推(想起)することが容易になると共に抽象度が高いほど、類推できる範囲も広がりますので、関連性の低いコンテクストを抽出する可能性が高まることによって、意外性のあるアイデア(解決策)を創出することが容易になる場合があるのではないかと考えます。

なお、類推する内容に関しては、個人が経験したことや学習したこと、また、文化や価値観を含め、現在や過去などを含めた記憶の強度に基づき抽出されることになると考えられますので、もし、最近、テレビのCMでプロジェクションマッピングを放映していなかった場合、テレビのCMで放映していたプロジェクションマッピングに全く気付かなかった場合、または、テレビのCMで放映していたプロジェクションマッピングを何気なく見ていた場合であれば、プロジェクションマッピングを想起(類推)しなかった可能性が高くなるのではないかと考えられます。


【まとめ】

現在、不確実性が高い環境において、今までと同じアイデアではなく、今までとは異なるアイデアが必要であると言われている中で、「ideagram」においては、今までとは異なるアイデア、意外性のあるアイデア(解決策)を創出する上で、個人における創造性(力)に委ねているところがありますので、新たなアイデアを創出できる人材の創造性を育成できるツールとするのであれば、創造性を発揮する可能性を高めるためのフレーム(プロセス)を示すなど、「ideagram」のコンテンツに関して、改良の余地があるのではないかと感じました。



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