shift innovation #24 (HITACHI hack 3)
今回、日立ソリューションズが主催するオンラインワークショップに参加しました。
ワークショップのテーマは「ITによる未来都市モデル(2025年)のアイデア創出」となり、約1ヶ月間にわたり、「ideagram」というオンライ発想ツールを活用し、個人において、新たなアイデアを発想、評価(分析)するというワークショップとなります。
そして、最終のオンラインワークショップにおいては、参加者(個人)が発想したアイデアのうち一つを選定した上で、チームでバリュー・プロポジション・キャンバスを作成し、アイデアを具体化させる中で、実現可能性を高めことにより、事業化を検討するというワークショップとなります。
shift innovation (HITACHI hack )では、ワークショップにおいて創出したアイデアの事例について、3回にわたり説明することとします。
前々回、HITACHI hack 1においては、「『ideagram』における課題発見フェーズの必要性」について説明しました。
前回、HITACHI hack 2においては、「『ideagram』における意外性のあるアイデア創出のためのフレームの必要性」について説明しました。
HITACHI hack 3においては、「『shift innovation』の方法論に基づくアイデア創出」について説明することとします。
【「ideagram」とは】
「ideagram」とは、デザイン思考に基づき、利用者のニーズ理解からスタートし、「どういう人がどういう状況で困っているのか」を検討する上で、強制発想により自分だけでは思いつかない選択肢(状況)の組み合わせをすることによって、新たなアイデアを創出するというものです。
具体的には、システムがランダムに抽出したWho(誰が)・Where(どこで)・When(いつ)のキーワードを活用し、シチュエーションをイメージした上で、Who(誰が)におけるニーズ(Why)を検討します。
次に、システムがランダムに抽出したWhat(何を)のキーワードを活用することにより、検討をしたニーズ(Why)を実現させる新たなアイデア(How)を創出するというものです。
【前回までの振り返り】
前々回、HITACHI hack1において、Who・Where・Whenのキーワードをそのまま活用するだけでは、意外性のあるアイデアを創出することは困難であること、また、新たなアイデアを創出できる人材の創造性を育成できるツールとする上で、課題解決フェーズだけではなく、課題発見フェーズが必要であることを説明しました。
前回、HITACHI hack2において、意外性のある新たなアイデアを創出する上で、「反転」させること、「構造化」すること、「類推」することが重要になること、また、新たなアイデアを創出できる人材の創造性を育成できるツールとする上で、創造性を発揮する可能性を高めるためのフレーム(プロセス)を示す必要があることを説明しました。
今回は、「ideagram」のアイデア発想ツールを活用せず創出したアイデアに関して、『shift innovation』の方法論に基づき、思考したプロセスやフレーム等について説明することとします。
【「ideagram」を活用せず創出したアイデアにおける方法論】
アイデア創出の方法論である「shift innovation」とは、自身がアイデアを創出した際の思考プロセスを可視化し、フレーム化したものであり、そのフレームとは、「転移」「反転」「機会創出」「類推」「収束」「結合」となります。
これは、あくまでもフレームとなりますので、実際、このフレームの要素に基づいた思考をしようとする場合、フレームにおけるプロセスの順を追うための方法論に基づき思考する必要があります。
その方法論とは、「解決困難なコンセプトの設定」「究極的状況の想起」「固定観念の抽出」「本質探究の問いの発信」「反転事象の抽出」「新機会の抽出」「新機会の構造化」「関連事象の類推」「新機能の結合」「新アイデアの創出」となります。
このフレームにおいて、はじめに「解決困難なコンセプトの設定」となっている理由とは、「洞察問題解決研究」における、飛躍的なアイデアを創出するためには、解の存在しない不適切な問題空間を繰り返し探索することによるインバスを発生させる必要があり、そのためには解決困難なコンセプトを設定することにより、究極的状況を想起する、つまりは、手詰まりの状態であるインパスを発生させ、固定観念を抽出させることにより、「転移」をさせるためとなります。
なお、認知心理学における「究極問題解決研究」とは、解の存在しない不適切な問題空間を繰り返し探索することにより、手詰まりの状態となる「インバスの発生」、インパスの固着から離れる「心的制約の緩和」、誤った問題空間の探索から解が存在する「問題空間の切り替え」、現在直面している問題の状況と、過去に既に解決に成功した問題の状況との類似関係を推論する「類推の利用」というフェーズにより、飛躍的なアイデアを創出するための解決方法となります。
また、このフレームにおける「反転事象の抽出」というプロセスとは、意図的に事象を反転させたものではなく、抽出した固定観念に対して批判的思考となり、「本質探究の問いの発信」により、自然に「反転事象の抽出」が生じることにより、「反転」させるためとなります。
なお、「反転事象の抽出」が必要なこととして、脳科学における脳機能のトップダウン処理には、「無関係と認知された事象は無視される」「恒常性を求める」「恒常的な特徴を抽象化する」「特定の事象と過去に生じた事象を比較する」があり、これらの処理のうち、「無関係と認知された事象は無視される」「恒常性を求める」により発想をした場合、今までと同じ視点により事象を捉えることとなるため、これらの処理を覆す上で、事象を反転させることによって、今までとは異なる新たな視点により事象を捉えることができることとなります。
これらのことから、アイデア創出の方法論である「shift innovation」においては、解決困難なコンセプトを設定することにより、究極的状況を想起することによって、固定観念を抽出させ、そして、抽出させた固定観念に対して批判的思考となり、本質探究の問いを発信することによって、自然に事象が反転することとなります。
よって、このプロセスを踏むことにより、今までとは異なる新たな視点により事象を捉えることによって、新たな機会が抽出されることとなります。
【事例「おもんぱかリンガル(気配り)」】
【事例「おもんぱかリンガル(気配り)」の解説】
「おもんぱかリンガル」の事例における解決困難なコンセプトとは、サブテーマである「グローバルな人/文化の交流」に対して、現在、インターネットの進展において、文化の交流ができないということはあり得ないことである中で、あえて文化の交流ができない状況をイメージしたとき、「鎖国」という数百年前の状況を想起しました。
そこで、「鎖国の中でグローバルな人・文化の交流をする」というように、「鎖国」と「交流」という相反する事象を取り入れた解決困難なコンセプトを設定したことにより、「交流」から「鎖国」へ視点が反転したことによって、鎖国をすると文化の交流ができなくなるという究極的状況(固定観念)を想起することとなりました。
その結果、リアルしかない昔のこととして想定した場合、「昔は鎖国をすると人流がなくなるので交流できない」というように、固定観念が生じましたが、「現在は、リモートがあるので、自由に交流することができる」というように、「リアル」から「バーチャル(リモート)」へ視点が転移しました。
しかし、何でも自由にできるリモートになった場合であっても、人や文化の交流ができるのか批判的になったことにより、「リモートで人・文化の交流ができるのか」という本質を問うたことによって、「人や文化はリモートでは伝わらないことが多いのではないか」と「いうように、「伝わる」から「伝わらない」へ視点が反転しました。
その結果、伝わらないことは悪い場合だけではなく、伝わらないことは良い場合もあるというように、視点を転移させたことによって、「正確に伝わらないことの方が良いこともある」という新たな機会を抽出することができました。
そこで、「正確に伝わらないことの方が良いこともある」という新たな機会に対して、「日本においては、昔から成否を明確にせず曖昧さを残すことが、優しさであり美しさである」というような、相手を慮る(気配り)文化があるということを類推しました。
そして、リモートの場合、対面していないこともあり、相手に対して明確に伝えようとしても伝わらない場合がありますが、一方で、対面した場合は、相手のことを慮ることにより、意識的に相手の気持ちに配慮する場合がありますので、このような日本の慮る(気配り)文化を外国人の方に理解してもらうことができないかというように、サブテーマである「グローバルな人/文化の交流」に収束させることとしました。
その結果、日本の慮る(気配り)文化を外国人の方に伝える方法として、日本語を英語に翻訳すると、日本の慮る(気配り)文化の良さを伝えることが難しい場合がありますので、日本の慮る(気配り)文化を伝えることができる新たに開発するデバイスを結合することによって、「外国人の方が日本の慮る(気配り)文化を学ぶことができる翻訳デバイス」という新たなアイデアを創出することとなりました。
【「ideagram」と「shift innovation」との比較】
今までとは異なる新たな視点により事象を捉えることにより、意外性のあるアイデアを創出させるためには、「shift innovation」における「転移」と「反転」が必要となると考えます。
そこで、「転移」と「反転」を生じさせる上で、「1解決困難なコンセプトの設定」「2究極的状況の想起」により、事象が「転移」することとなり、「3固定観念の抽出」「4本質探究の問いの発信」により、事象が「反転」することとなります。
例えば、Takramの「ドクメンタ」の事例の場合、「100年後の人類のための究極の水筒を提案する」という解決困難なコンセプト(テーマ)により、「荒廃した未来の世界では、水自体が希少なものであり、水筒の機能を改良するだけでは、対応することが困難である」と究極的状況を想起したことによって、「水筒」から「身体」へ「転移」すると共に「身体に水を補給することができない」という固定観念に対して、本質探究の問いを発信することにより、身体に水を補給できないのであれば、「身体から水を排出しなければ良い」へ「反転」したものと思われます。
このように、「転移」と「反転」により、「水筒」から「身体」、「補給する」から「排出しない」へ、今までとは異なる新たな視点により、事象を捉え直す、つまりは、リフレームすることによって、意外性のあるアイデアを創出させることができるのではないかと考えます。
一方で、「ideagram」においては、表示されたWho・Where・When・Whatのキーワードより、Why(ニーズ)とHow(アイデア)を創出することとなりますが、検討する余地が大きい分、創出できるアイデアにばらつきも大きく、また、どのように発想すれば、キーワードをうまく組み合わせることができ、そして、どのように発想すれば、意外性のあるアイデアが創出できるのかわからないなど、ブラックボックス化してしまうものと思われます。
例えば、「ideagram」において表示されたキーワードである(Who)「身だしなみに拘りたい人」・(Where)「会議室」・(When)「食事中」・(What)「デジタルサイネージ」より、Why(ニーズ)とHow(アイデア)をそのまま創出した場合、コンテクストを「身だしなみに拘りたい人が会議室で食事をする」とすると、ニーズが「会議室であっても、高級な料理などをケータリングし、正装で食事をしたい」とすることにより、新たなアイデアとして「フランス料理を食べたいとき、高級レストラン風の内装・机・椅子など、プロジェクションマッピングにより会議室に映し出し、フランス料理をケータリングできるサービス」(「どこでも雰囲気ほんまもんサービス」)になると思われます。「デジタルサイネージ」→「プロジェクションマッピング」
この事例は、表示されたキーワードをそのまま文脈としても活用したものであり、意外性のあるアイデアであるかの評価はわかりませんが、特段、意外性ということを意識したものではないこともあり、表示されたキーワードからすると、概ね想像できる範囲のアイデアではないかと思われます。
このように、表示されたキーワードよりすぐに閃いたアイデアは、脳機能のトップダウン処理による「無関係と認知された事象は無視される」「恒常性を求める」「恒常的な特徴を抽象化する」「特定の事象と過去に生じた事象を比較する」より、概ね想像できる範囲のアイデアとなる可能性が高いものであり、意外性のあるアイデアを創出することは困難となるのではないかと考えます。
これらのことから、意外性のあるアイデアを創出する上で、「ideagram」において表示されたWho・Where・When・Whatのキーワードより、Why(ニーズ)とHow(アイデア)をそのまま創出するのではなく、アイデアを創出するプロセスの詳細を可視化する、特に、今までとは異なる新たな視点により捉え直す上で、「shift innovation」におけるフレームである「1転移」「2反転」「3機会創出」「4類推」「5収束」「6結合」を組み込むことによって、意外背のあるアイデアを創出する可能性が高まるものではないかと考えます。
【まとめ】
現在、不確実性が高い環境において、今までと同じアイデアではなく、今までとは異なるアイデアが必要であると言われている中で、脳科学及び認知心理学に基づく「shift innovation」の方法論に関する思考プロセスやフレームを活用することにより、今までとは異なるアイデアを創出する可能性が高いのではないかと考えます。
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