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今週のTop Tier VCニュース!#96(2023/12/18週)

早いもので2023年も終わりに近づき、今年最後の投稿になります。海外のVCは既にお休みモードに入っており、今週ピックアップした投資案件は1件のみです。そこで今回は本noteと海外VC業界の振り返りと、2024年の展望についても記載したいと思います。

本noteの振り返り
2023年の1年間で「今週のTop Tier VCニュース!」では#47から今回(#96)までの計50回で、228の投資案件と関連ニュースを多数紹介しました。2022年1月末の初回投稿(#1)から通算すると451の投資案件数となりました。
厳選した米国のTop Tier VCが出資した案件のみを対象にしてますが、これだけの数の投資案件をご紹介できるほどTop Tier VCはアクティブに投資活動を継続していたことがわかります。継続して読んで頂いた方々は、海外のVCおよびスタートアップ動向にかなり明るくなったのではないでしょうか。

2023年の海外VC業界の振り返り
2023年は幾つかのサプライズがありましたが、業界を大きく変動するほどには至りませんでした。3月のシリコンバレー銀行破綻は米国および世界のVC業界がカオスに陥るのではないかというほどの大きな衝撃でしたが、その結末は限定的な混乱に留まりました。Q3には長らく閉ざされていたEXIT環境がARM、Instacartなどの大型IPOにより回復の期待を膨らませましたが、淡い期待に終わりました。Generative AIブームの中で先頭を走るOpen AIのCEOであるSam Altmanの突然解雇も大きなニュースとなりましたが、数日間で復帰しました。全体としてはVC業界は1年間を通して比較的に安定していたが、ただ全てが低調だったと言えるのではないでしょうか。ただこの"低調"も2021〜2022年の絶頂期との比較であり、2021年以前と比較すると見え方は違います。

2024年の海外VC業界の展望
短期的には大きなリバウンドの兆しは見えていません。金利と地政学的緊張は依然として高く、米国経済が予想以上に高止まりしているので景気後退の可能性も残っており、不透明感は増しています。米国の大統領選挙もあるため、それなりのサプライズがあるでしょう。VC業界にとって最も重要なのは、EXIT活動に大きく影響する株式市場におけるP/Sマルチプルの低下で、非公開企業であるスタートアップの評価基準となっていたこの倍率のデフレが続いており、株式公開を目指すスタートアップにとっては高いハードルとなっています。
長期的展望は異なります。Generative AIスタートアップがVC業界における新たな楽観主義を後押ししています。株式市場の安定とIPOの再開により、リターンが期待できるようになるかもしれません。VCが抱えるDry Powder(投資余力資金)の総量は依然として多く、今後数年でVCの数は全体的に減少していく見通しですが、2020年に入ってから4,000以上のファンドが資金調達を実施しています。投資資金は存在し、強いスタートアップは、この低迷する市場を上手く利用して競争から抜け出し、更に成長していきます。VCの中でも格差が生まれている中、$1B以上の規模となるメガファンドを相次いて組成しているTop Tier VCがその流れを牽引していくでしょう。

ということで、2024年もTop Tier VCの投資案件を継続して情報提供する予定ですので、引き続き何卒よろしくお願いします。


今週の投資先ハイライト

AIを搭載したオペレーティングシステム(Rabbit OS)を搭載したモバイル端末(r1)を開発する"Rabbit"がSeries Aで追加の$10Mを調達

主な投資家

  • Khosla Ventures

概要

Rabbitは、Khosla VenturesがリードしたSeries Aで追加の$10Mを調達し、Series Aでの資金調達総額は$30Mとなりました。同社は数ヶ月前にKhosla Venturesやその他の投資家から$100-150Mの評価額で$20Mを調達したと発表していました。

AIを搭載したオペレーティングシステムを搭載したモバイル端末を開発するRabbitは、Rabbit独自の基盤モデルであるLarge Action Model (LAM)上に構築されたOSであるrabbit OSを搭載した初のスタンド・アロン・ハードウェアであるr1を迅速に開発する計画です。r1デバイスとRabbit OSは、2024年1月9日、ラスベガスで開催されるCES 2024の傍らで行われるオンライン発表イベントで正式に発表される予定です。

「歴史を通じて、人間は常に直感的なツールを作ろうとしてきた。現在のアプリベースのオペレーティング・システムは何年も前から存在していますが、何百ものアプリをダウンロードしたり、使いたいアプリを探すために複数のページやフォルダを探し回ったり、開発者が様々なオペレーティング・システムにこれらのアプリを合わせる必要があったりと、私たちがアプリと接する方法は常にバラバラで面倒なものでした。LAMは、人間がテクノロジーと対話し、かつてないほど速く物事を成し遂げる方法を大幅に改善する、欠けていたピースなのです」とRabbitの創業者兼CEOは説明します。

10月に初めて導入されたLAMは、ChatGPTのようなLarge Language Model(LLM)に基づくプログラムでは不可能な方法で、人間の意図を理解し、それに基づいて行動します。生成AIチャットボットとは異なり、LAMはAPIのような特注の統合を必要とせずにタスクを達成します。LAMは消費者向けアプリケーションで動作するように設計されており、チケットの予約や食料品の注文のようなタスクを、人間が行うのと同じ方法で最初から最後まで達成する能力をユーザーに提供します。

「我々は、アプリのインターフェースと、人間がどのようにそれらと相互作用するかを学習することに、初期の研究努力のかなりの部分を捧げた。そうして生まれたのがLAMです。LAMを搭載した我々のオペレーティング・システムである「Rabbit OS」は、あなたの意図を理解し、自動的に調査を行い、インターフェイスを通じて様々なコンピュータ・アプリを操作し、情報をまとめて提示し、最終的にはあなたのためにタスクを達成します」と付け加えます。

LAMの性能を最大限に発揮させるため、Rabbitは、直感的な入力方法で具体的なタスクを達成できる、Rabbit OSを搭載した世界初のモバイル・デバイスを開発した。この新しいスタンドアローン・デバイスである「r1」は、LAMを搭載したAIがアプリを操作してくれるため、ユーザーが複数のアプリを操作する必要がありません。この工業デザインは、Rabbitと、受賞歴のあるシンセサイザーやオーディオ機器で知られる世界有数のイノベーターであるスウェーデンのTeenage Engineering社が共同開発したものです。

さらに、rabbit OSは、ユーザーがrabbit OSでアプリにアクセスするために、手動で新しいアカウントを作成したり、アプリの追加サブスクリプションを支払うことなく、すべてのタスクを実行し、より多くのことを達成するための安全でセキュアで責任ある方法を提供します。

「LAMは既存のアプリ・インターフェースの限界を打ち破ります。私たちのテクノロジーは、自然言語のリクエストに応答して、インテリジェントに情報を分析し、分離された複数のアプリ間でアクションを起こすことを可能にしました。ループ内でニューロシンボリック技術を活用することで、言語モデリング、プログラミング言語、形式的手法における学際的な科学研究の最前線に位置しています」と、機械学習を専門とするカーネギー・メロン大学の研究者であったrabbit CTOは説明します。

ロサンゼルスに本社を置くrabbitは、トップランキングのKaggle Grandmaster、元Googleのエンジニア、AIハードウェアの作成とハイパフォーマンスコンピューティングクラスターの運用に豊富な経験を持つリピーター起業家のグループによって設立されました。Y Combinatorを2度卒業したrabbitの創業者兼CEOは、会話型AIオペレーティング・システムのパイオニアであり、Baiduに買収されたスタートアップであるRaven Techを創業した経歴を持ちます。



投資環境

2023年に評価額をアップさせたスタートアップ

  • スタートアップは、2022年に始まり2023年に深まった大幅な評価額のリセット真っ只中にあり、SeeddからLater Stageまで、エコシステム全体が影響を受け、横ばいラウンド、ダウンラウンド、遅延ラウンド、レイオフ、閉鎖に至っている

  • そのような状況下、2023年に公開された企業価値のうち、大幅な増額で資金調達を行った注目企業を振り返る

  • AIがなければ、2023年のベンチャーエコシステムで喧伝されることはあまりなかっただろう

  • 2023年、未上場のユニコーン企業で最も価値が上昇したのはOpenAI。マイクロソフトは1月、$29Bの評価額で、サンフランシスコに拠点を置くOpenAIに$10Bを出資。マイクロソフトが主導した取引で、OpenAIの価値は3年以上前に知られていた$1Bから2,800%上昇

  • 9月のSeries Iで$43.2Bの評価額を記録したDatabricksは、2021年の資金調達額で$38Bの評価額から$5B(14%)増加

  • フランスを拠点とするオープンソースの基盤モデル開発企業Mistral AIは、Series Aで$2Bの評価額で$414Mを調達し、わずか6ヶ月前に発表されたSeedでの$300Mの評価額から672%増加

  • また、1年以内またはそれに近い時期に、前ラウンドから100%以上の評価額の伸びで資金調達を行ったAIスタートアップはにInflection AI、CoreWeave、Anthropic、Runway、AI21 Labsなどがある

  • Vast Data、Quantexa、Hugging Face、Helsingは、いずれも2021年以降では100%以上の評価額の上昇で資金調達を行った



38%のVCが2023年に市場から立ち去る

  • ボストンを拠点とするOpenView Venture Partnersは12月上旬に$575Mの第7号ファンドの資金調達した数ヵ月後、従業員の大半を解雇し、すべての新規投資を停止するというニュースでVC業界を驚かせました。$2.4Bを運用する17年の歴史を持つこのVCは、あまりに著名であったため、閉鎖の事実を伏せておくことはできませんでした

  • しかし、今年スタートアップへの投資を停止した投資家はOpenViewだけではなく、2件以上の投資を実行した米国VCの数は、2023Q1~Q3に前年同期比で38%激減しました。これは、投資を行うVCが2,725社減少したことを意味します

  • このデータは、VCが単に出資件数を減らしているだけではなく、一部のVCは投資資金を使い果たし、ゾンビファンドとみなされる可能性があります。また、クロスオーバー投資家のように、VCアセットクラスへのアロケーションを止めた投資家もいます

  • LPやその他の投資家は、VCファンドの数が減少すると予測しています。正式なファンドの閉鎖はまだ稀であるにせよ、競争の場が狭まっていることがわかります


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