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夕焼けと黒髪

教室の窓辺で、ボーッと夕日を眺めていた
真っ赤な夕日とオレンジ色に燃える雲、空色が少しずつ濃紺に移ろう
僕が大好きな時間の大好きな空模様を眺めて、君の話を聞き流していた

チラッと君の方に目をやると、風に靡いた黒髪が夕日に照らされて赤く光る
真っ黒で、繊細で、艶のある黒髪に夕陽がよく映えていた
「聞いてるの?」
君はそう言って僕を睨んだけれど、ぼんやりとしか聞いていなかった僕は、
「あぁ、聞いてるよ」
と若干気怠げに答えてしまった
君は不服そうに、それでいて悲しそうな顔をして、それでも僕を睨んでいる

僕が別の女の子と仲良さげに話していたことが、君にとってはまるで世界の終わりみたいに最悪だったことも、僕がそれについて「そんなこと」なんて言ったことも、その女の子が僕のことが好きなことも、全部全部嫌だったっていうのはわかった
だけれど、僕は、
「綺麗だなと思った」
と言ってしまうわけだ

「そんなこと」よりも、君の黒髪が夕焼けにキラキラと照らされて、ぬるい風に靡いているのが堪らなく綺麗だと思ったんだ

「何が」
と君はまた僕を睨むけど、
「君が」
と返したら、ちょっと驚いたような顔をして、すぐに照れ笑いを噛み殺して目を逸らす
可愛らしいな、と思ったけど、そこまで言ったら照れ過ぎてぶってくるし、この事態を誤魔化そうとしてるなんて思い違いを起こすかもしれない
僕のことが大好きすぎて、ちょっと心配性が過ぎる君だから

窓の外に視線を戻すと、薄暗くなって、一番星が輝いていた
「そろそろ帰ろうか」
僕が手を差し出すと、こくんと頷いて手を繋いでくれる
僕が嬉しくて、つい笑ってしまったら
「何?」
と君がさっきよりちょっと柔らかく睨む
「可愛いなと思った」
我慢できなくて素直に返したのだけど、まさか脹脛に鋭い一撃をもらうとは思わなかった
「恥ずかしいから、そういうの」
そんなところも可愛いと思うのだけど、次はどんな一撃が飛んでくるかわからないから、
「ごめんね、我慢できなくて」
なんて、ちょっとカッコつけてしまった

しばらく目が合わないくて、低めにある君の横顔と黒髪を眺めながら歩いた

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