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【特許のはなし】除くクレーム(その1)

 最近、Noteを更新していませんでした。

 突然ですが、これまで記事にしたことのない特許実務の話を、なんとなくエッセイっぽく書いてみたいなと思い、試してみることにしました。

 まずは、最近、よく話題になる除くクレームについて書いてみようと思います。ちゃんとした説明は、下記のセミナーのスライドをご参照ください。


 除くクレームというは、特許クレーム(権利範囲)の中に、「(ただし、〇〇を除く。)」と記載するもので、クレームで規定された範囲から、その一部である〇〇を除く場合に用いられる記載方法です。

 この除くクレームでは、新規事項の追加にあたるか否かとして議論になることがあり、また、除くクレーム補正により、進歩性を確保できるかという問題で議論になることもあります。それほどまだ議論されていませんが、個人的には、記載要件についてもしっかり考えてみる必要があると思っています。

 新規事項の追加に関して、「除く」というのは、全体から一部を除くということですので、①「引く」という概念であり、一方で、全体から一部を除くことにより、クレームの範囲は限定されるので、②「限定する」という概念でもあると言えそうです。

 (新規事項を判断する判断者である)裁判所の判断と、特許庁の審判・審査を見ていると、裁判所の方が特許庁に比べて、新規事項の追加の判断が緩い(裁判所の方が、新規事項の追加にはあたらないとされる場合が多い)ような気がします。勝手な偏見かもしれませんが、「引く」という概念であることを重視しているように思われ、そうだとすると当然ながら、

「当業者によって、明細書又は図面の記載のすべての記載を総合することによって導かれる事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの

という新規事項の追加にあたりにくくなります。ソルダーレジスト大合議判決をみても、裁判所はそのような感覚なのかなと思ったりします。「引く」という作業に「新たなもの」が入るということは考えにくいですしね。

 一方で、除くクレームによる「引く」作業によって、クレームの範囲が限定されることになります。通常の補正(内的付加・外的付加)と同様、除くクレームであっても、クレームが「限定」されるのであれば、新たな技術的事項を導入されるという事態は考えられそうです。特許庁は、このような認識が強いのではないかと思います。

 裁判所も、ソルダーレジスト大合議判決で、除くクレームについて、「特段の事情」として新たな技術的事項を導入し得ることになる場合を留保しており、判例タイムズの解説によれば、数値限定発明の場合が念頭にあるようです。除くクレームであろうと、通常の限定補正であろうと、数値を絞ることで、素晴らしい効果(新たな技術的効果)を生み出すことはありますしね。

 ただ、裁判所と特許庁(審判)で大きく判断が食い違っている点として、除くクレームの除く対象として、本件明細書には記載がない(引用発明に記載されている)物質の、しかも、数値限定を付したものを導入した場合で、判断が分かれた事例があります。裁判所は新規事項にあたらない、特許庁(審判部)は新規事項にあたるとされたものです(令和4年(行ケ)第10125審決取消請求事件)。面白いですね。

 いずれにしても、除くクレームの新規事項の問題は、形式的には「引く」ものではあるが、実質的には(新たな技術的事項を含んで)「限定」され得るものであるという観点で、考える必要がありそうです。 

 長くなってしまったので、次回以降で、除くクレームと進歩性の問題、そして、除くクレームと記載要件の問題を取り上げてみたいと思います。


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