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とり占い

よく当たる占い婆さんが言いました。
スズメを十羽数えると、幸せになれますよ。
カラスを十羽数えると、不幸せになれますよ。

うぬぼれ女は、自分が不幸せなのか知りたかったので、
恋人の、片腕のジョニーが来るまで、カラスを探すことにしました。
電線を見上げたけれど、止まっているのはスズメが二十二羽。
うぬぼれ女はハッとしました。
二十二羽もスズメを数えたということは、幸せが二倍になって訪れる。
そう思ったけれど、二倍とちょっとの幸せってなにかしら?
立派な燕尾服を着た、ヴィオラ奏者の恋人が現れるってこと?
町中の仕立て屋の青年たちが、綺麗なドレスを作って捧げてくれるってこと?
でなかったら、片腕のジョニーがピカピカの義手をはめてわたしを抱きしめるってこと?
そしてその姿を誰かがこっそり写真におさめて、
胸のポケットにいつも忍ばせておくのかもしれない。
それが、スズメが二十羽ではなく、二十二羽だった理由なのかもしれない。
うぬぼれ女は自分の写真を見ているときが一番幸せだったのです。

うぬぼれ女は、大きな木の下でジョニーが現れるのを待ちました。
その頃、ヤクザもので有名なシベリア帰りのハンスが舌なめずりして
辺りを見回していました。
手には拳銃を持っています。
ヤクザの親分に、危険な仕事を言い渡されて、気が立っていたのでした。
そして、大きな木に狙いを定めると、
ハンスは拳銃の引き金を三回続けて引きました。
するとカラスが三羽、うぬぼれ女の足元に、ドサリと降って来ました。
驚いたうぬぼれ女が、大きな木を見上げると、
仲間を殺された二十羽のカラスたちが、山の方へ逃げていくところでした。
カラスが二十三羽。
うぬぼれ女は大変な不幸の訪れを予感しました。
まてまて、だけど、スズメが二十二羽。
つまり、カラス一羽分の不幸せが起こるってことだ。
そう、うぬぼれ女は計算しました。

しばらくすると、雨が降ってきました。
ジョニーはまだ現れません。
ふと、足元の水溜まりを見下ろすと、貧しい身なりの年老いた女が、
こちらをじっと見ているのでした。
うぬぼれ女は我に返って、バッグの中をひっくり返すと、
一枚の写真を取り出して見比べました。
すり切れた写真には、白い歯をきらめかせた、美しい女の子の姿が写っていました。

「はぐれた1羽のカラスを見つけると、魔法がパッと消えてしまうよ。」
遠い昔の記憶では、占い婆さんが最後にそう言っていたのでした。

おしまい

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