見出し画像

牛と人間の共存を試みる。

牛と人間は長い歴史を持ち、人間の力では不可能なことを牛は働いてきた。人間は牛の食糧を用意することをはじめ、多くの牛への使役を受け入れてきた種族である。
今回は人間ソムリエを目指し三ヶ月以上となるK氏にインタヴューを試みることにした。

ーー人間との付き合い方にコツはありますか?
K「人間は二足で歩くでしょう。私らは四足歩行なんです。まずそこで優劣が起こらないように、とは考えますね。」
ーー人間は人間の良さがあると?
K「ありますよ。少なくとも、私ら個体を見分けますし、私らを撫でて言うんですよ、「カワイイ」とか「エライ」とか、ちゃんと意思表示して鳴くんです。
ーー牛が色々なニュアンスで声を出すのと同じですね。
K「そうなんですよ(笑)。私は三ヶ月人間を観察してきましたが、四種程度は通じます。細かいニュアンスなんかはお互いで真似したりして。

ーー例えば猫や犬なんかの小さい連中なんか、よく人間を使役しているじゃないですか。牛に対しての人間ってちゃんとしてるんですか?
K「ちゃんと、はしてないですね。私らがグルーミングするでしょう?けども人間には長い舌がないわけです。」
ーー種族の違いがあると?
K「私らは大きいじゃないですか、人間よりも。犬なんかよく人間におっかぶさって、人間もそれを「カワイイ」って喜ぶでしょう?けれど、私らがそれをやると「イタイ」って叫んで飛び退きますね。

ーー「カワイイ」や「イタイ」ですか。人間の言語には明るいですか?
K「明るくなっちまいますね(笑)。」
ーーなっちまいますか(笑)。
K「嬉しいときなんかは上顎広げて声を出すでしょう。私らの場合。色気づいて脳天を突くみたいな声出したりして(笑)。
ーー不満があるときは下顎に力入れて?
K「人間の場合、ちょっと違うみたいなんですよ。あの短い舌と膨らんだ頬が関係しているんでしょうね。「カワイイ」っていうのは嬉しい時に出る声で、「イタイ」というのは危険を知らせる音みたいで。
ーー人間は幾つかの鳴き方の組み合わせで会話しているんですかね?
K「そこはまだ、観察不足というか。しかし、私のことをK(仮)と呼ぼうとか、人間同士の意思疎通は実に複雑な音を組み合わせていますよ。」
ーー仲間同士で意思疎通も見られたと。
K「尻尾もないし、二足歩行ですから遅いんですけど、閂とか鉄柵とか、器用に作りますよ。頭いいです、あいつら(笑)。」

ーーKさんから見て、人間の社会はどう見えていますか?
K「人間はね、毎日毛皮が変わるんですよ。私らもその日の体調で毛色が変わったりしますけれど、人間の毛皮はそういったものに依存しない。多分、その日の気分で毛皮が変わるんでしょう。」
ーー体調ではなく気分で、という?
K「少なくとも、体調で毛皮が変わったのは見たことがないですね。あとは、人間の社会ということですけれど、人間の子供というのを私は三ヶ月で一度も見たことがない。」
ーー人間同士で繁殖をしていない?
K「いや、繁殖はしていますよ。隣の家につがいとその子供がいる鳴き声がしたので。けどもあの二足歩行で子供を産むのは難しそうですよ。相当の難産になるんじゃないかな。」
ーー四足歩行とは体内の環境が違いますからね。
K「寧ろ、私らなんかは胃袋を複数持つことが売りじゃないですか(笑)。猫みたいに肉を食わなくとも生きていけるようにしてきたんですけど、人間は草も肉も食って、その割に太らないし痩せないんです。」
ーー牛とは全く違った生態系なんですね。
K「そうです。全く違います。」

ーー表現を選ばずに言いますが、人間の面白いところはありますか?
K「面白い……というか、ブラシや薬、あの辺とても効果的な作りをしてますね。虫が寄らなくなる草とか、私らは選びますけど、やっぱり万全じゃない。強い個体なんか、草の匂い程度じゃ避けられないでしょ。それがもう、人間が作った薬は効果てきめんなんですよ。」
ーー人間は器用と先ほどもおっしゃてましたよね。
K「すごい器用です。人間て指が五本あるんですよ。昔は縄を編む人間もいたって母に教わったんですが、鎖の掛け方、鍵の差し方、そういった動作が実に滑らかなんです。」
ーー指が五本というのが器用さの秘訣でしょうか?
K「本数じゃないね、多分、一番手首に近い指、大抵の連中はもっと手首の内側についてる。あの指が残ってるんです。」
ーー牛の場合は退化していますね。猫の場合は足の付け根に近い方向にある。猿なんかは結構長いまま使ってますね。
K「サルは見たことないです(苦笑)。多分探したら人間みたいな動物いるんでしょう?あなた(インタヴュア)のほうがお詳しい。
ーー恐縮です。

ーーでは、人間のいる生活というのはKさんにとってどのようなものでしょう?
K「便利がいいが一番でしょう。自分で食事を用意するのは骨が折れます。たまに私らと遊ぶつもりでやってくる人間もいるんですけど、こっちに危険がないとわかったら、もうテンションが上がってしまって。」
ーー人間の?Kさんの?
K「両方ですね。人間は結構小さし脆いので、私らが本気でやったら怪我をさせてしまう。だから、段々遊ばなくなったりもするらしいんですが。けどね、私らを苦しませようって連中は人間の中にはいないんですよ。「カワイイ」って人間が鳴いてるうちは、こっちも喉鳴らしてるくらいでちょうどいい。」

ーーでは、最後にこれから人間と暮らしていくであろう連中に何かあります?
K「人間は器用なので、自分が出来ないことはさせるほうが効率がいい。ただ、二足歩行で人間との殴り合いになったら人間を殺してしまう場合がある。だから人間と自分の妥協点を見つけて、人間と遊ぶのがいいと思いますね。
ーー人間と自分の中間を見極めるんですね。
K「個体差もありますからね、上手に遊んでやって、一緒に暮らしていければいいですよね。

ーー今日はありがとうございました。
K「こちらこそ、また人間のことで面白い発見があればよろしくお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?