公認会計士と税理士

公認会計士と税理士って何が違うんですか?

この質問、これまで数えきれないくらいされているのである程度ちゃんと書いてみたいと思います。

説明が億劫で、”まあ、簡単にいえば~”と適当な説明でお茶を濁すのは会計士あるあるですよね(たぶん)。そして相手もよく分からないまま。
私は税理士でもありますが、公認会計士→税理士登録のパターンなので、ここでは両者を比較しつつも公認会計士の方を軸にして書かせていただきます。

では突然ですが皆さんはこのニュースをどう読みますか?

菓子製造販売の明月堂(福岡市)は3日、洋風まんじゅう「博多通りもん」の2018年の売上高がギネス世界記録に認定されたと発表した。あんこを使った「まんじゅう」カテゴリーでは、世界で最も売れた商品となった。※2019/6/3 日経新聞より

”おーさすが福岡!”とか”そんなギネス記録もあるのかー”など様々あるかと思います。
しかし僕を含め多くの会計士はその売上高の正確性をどうやって担保するのか?に着目すると思います(たぶん)。
実はこのあたりに一般的にはあまり知られていない会計士の業務の本質があります。このニュースの裏話もあるので後述します(編集後記参照)。

共通点

まずどちらも国家資格です。
簿記や会計学など一部共通の専門分野を持っていて、企業の経理数値を中心に扱うという共通点があります。

…思いつく共通点といえばこれくらいでして(少ない!)、そのくらい両者は別物なんです。もっと丁寧に思い出せばたくさんあるのでしょうが、今回は”違い”がテーマなので割愛します。

試験科目に見る違い

それぞれの協会HPを参考にしながら、ざっくり試験科目を比較してみました。

公認会計士(下記に加えて実務経験2年以上+実務補習を修了
 短答式試験(4科目)
   財務会計論→簿記や会計基準などの理解
   管理会計論→工業簿記や原価計算、管理会計に関する理解
   監査論→会計士の花形業務である”監査”に関する理解
   企業法→会社法や金商法など会社にまつわる法律に関する理解

 論文式試験(5科目)
   会計学→上記の財務会計論+管理会計論
   監査論→先述のとおり
   租税法→法人税・所得税・消費税などの計算や税法の理解
   企業法→先述のとおり
   選択科目(経営学、経済学、民法、統計学のうち1科目)
詳しくは協会HP参照 
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/qanda/index.html

税理士(5科目)
 簿記論→簿記の計算
 財務諸表論→簿記の計算や会計基準に関する記述
 税法科目3科目→所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、
        国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税のうち3つ
        (所得税法又は法人税法のいずれか1科目は必ず選択。)
詳しくは国税庁HP参照
https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishishiken/gaiyo/gaiyou.htm

比較結果
比較してみると一目瞭然ですが、試験科目の分野が結構違います。
税理士が税法メインなのに対し、会計士は会計だけでなく会社法や管理会計やファイナンス(経営学選択の場合)などが試験範囲に含まれます。
ここで言いたいのは、会計士の科目範囲が広くて税理士が狭いとかではなくて、両者に求められている知識の種類が全く違うということです。

独占業務の違い

独占業務というのは、法律によって”この業務は特定の国家資格者じゃないとやってはいけませんよ”と定めのある業務のことを言います。
資格取得のために求められる知識や素養の違いは、それぞれの独占業務の違いにもあらわれてきます。

公認会計士:監査証明業務
公認会計士法第二条1項 
公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする。

難しいですね。。
たとえば上場企業が有価証券報告書等で決算の発表をする時をイメージしてください。

投資家はこの情報をもとに”業績が良かったから株を買おう”とか、様々な投資判断をすることになります(真実を知りたい投資家)。
当然業績を発表する会社経営者側には自分を良く見せようとするインセンティブが働きます(盛りたい経営者)。
そこで第3者的な立場から、公表された財務諸表が概ね正しいのかお墨付きを与える人が必要となります。

このお墨付きを与えるのが監査法人という公認会計士の集団です。
大企業では取引関係も複雑で高度な専門知識が求められるため、こうした大規模に組織化した監査法人でないと保証するに足る検証ができません。
このハードルから、監査法人所属の会計士と独立会計士では行っている業務が極端に違っているという現実があります。

また、この監査(1項業務)という業務以外にも2項業務といわれるFAS※を中心としたサービスを専門に活躍する人もいます。このあたりは試験でカバーしている分野が広い分活躍の幅も広いと言えるのではないでしょうか?(当然実務の経験値によって個々人のスキルは超バラバラですが、最低限の素地は試験で問われるはず)

※FASとはファイナンシャルアドバイザリーサービスの略でM&Aや再生とかフォレンジックなどの業務のことを指し、非常に幅広い。

※”監査法人”というタイトルのNHKドラマもありましたね。
  キャストは豪華なので興味のある方は是非!
https://www6.nhk.or.jp/drama/pastprog/detail.html?i=kansahoujin

税理士:税務業務

続いて税理士の独占業務はというと…
税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする(税理士法2条1項)
・税務代理(法2条1項1号)→税務調査の立会とか
・税務書類の作成(法2条1項2号)→申告書の作成とか
・税務相談(法2条1項3号)→申告書作成のためのアドバイスとか

上記の3つは無償独占業務といって、たとえ報酬をもらわなくても税理士資格を持たない人がやってはいけないこととなっています。


ただ、こうした違いがあるものの一般的に多くの人の目に触れる公認会計士といえば、独立開業している町の会計事務所の公認会計士であるため、税理士との違いが分かりにくくなっていると思われます。
実際に公認会計士は登録をすれば税理士の資格も得られるため、町の会計事務所は税理士として税務業務をメインでやっていることが多いです。
また、さきほど述べた監査証明業務のハードルも影響しています。

扱う”会計”の違い

どちらも”会計”を扱うイメージだから紛らわしい!
でも実は両者がメインで扱っている”会計”は別物といってもいいくらい違います。

公認会計士は、投資家などのステークホルダーが利用する情報が意思決定に有用であることを担保するため、”会計基準”に準拠した会計を主として扱います。そのため見積や判断といった将来予測も織り込まれた会計となっています。

一方の税理士は正確な税金の計算が目的であり、税法に準拠した俗にいう税務会計というものを主として扱っています。ここでは税金計算の正確性や公平な課税のため、予測や見積、意見や判断といった不確定要素が強いものは極力排除され、画一的な取り扱いが求められます。

このように両者が扱う”会計”はその目的が違うため、その内容も異なっているのだと理解していただければ間違いないと思います。

まとめ

公認会計士
監査法人に所属して、大企業を対象として行う法定監査が花形業務。スキル・専門性を活かしてFAS※業務で活躍する人も。フルコミに近い関与が出来ればベンチャーなどのCFOとして活躍の期待もできる。
しかし、独立しても古巣時代の大クライアント相手に関与できる割合は限定的なため、一般的には税理士に変身した後の姿のイメージで認知されがち。

税理士
税金計算のスペシャリスト。大企業に限らず全てのステージの会社に関係する士業であるため、一般に”会計”といえば税理士が専門家というイメージすらある。
また、税に関しては無償独占業務という強い業務権限を持っているため、公認会計士等でも税に関するサービスは提供できない。
(そのため公認会計士が税務サービスを提供したい場合は、税理士登録をして税理士に変身する必要あり)


なんとなく違いは伝わったでしょうか??
他にも比較する切り口はあると思うので、聞きたいことがあればリクエストしてください。

編集後記

公認会計士の独占業務である監査証明業務は、基本的に保証の対象から報酬をもらうので、”お客様”に厳しいことが言いづらくなりやすい構図は問題としてよく指摘されます。立場が弱いというべきことが言えなくなる可能性がありますよね。
この点、お墨付きをもらうことがブランド化されればいいのになーと常々思います。

冒頭の、洋風まんじゅう「博多通りもん」の2018年の売上高がギネス世界記録に認定されたというニュースですが、実はその売上高にお墨付きを与えたのは私の友人の会計士です。
他にも米アカデミー賞の票を集計するのは公認会計士だったり、知られざる業務はたくさんあります。
手続きや数字の信頼性を担保するための専門家と広く考えれば、公認会計士の役立ちはまだまだありそうですね。

私自身として最近実施した珍しいところでは、キャッシュレス・消費者還元事業に関するポイント計算の正確性の検証でしょうか。周りの会計士仲間ですらそんな業務あるの!?という反応でした(笑)

キャッシュレス発行事業者(キャッシュレス決済で購買を行った消費者に対して、ポイント還元等を実施する事業者)に対する補助金額の算定に当たって用いられるポイント等の失効率又は利用率に関して、公認会計士又は監査法人による確認が求められています。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190906ieg.html




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