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「デザインの学び」プログラム開発1年目を終えて

パワーのある先生たちに引っ張ってもらって

 三菱みらい育成財団の助成を得たチャレンジが1年目を終えました。思えば本当に濃い時間でした。大学での従来の学びを変えるためのチャレンジが,様々行われたからです。下の写真は「デザインの学び」プログラムの1つ。裏山の木を切り,製材し,2〜3年ほど乾燥させたのち,授業で家具作りやウッドデッキ製作に活用する試みです。写真を見るとわかるように,参加者は,実に様々でした。年齢層も,職業も異なる方が参加されました。活動前は,単に木を切るという活動で終了かと思われたのですが,木を切る=命をいただくという瞬間に立ち会った参加者は,それぞれの死と再生のテーマについて考え,自分の内面を開示する体験が生まれました。死と再生のテーマは,ゆっくりと場に共有されていきました。保護者のつぶやき,小学4年生の男の子の描画,絵本の朗読。そのテーマは,次第に輪郭がはっきりしていきながら,参加者の中に受け入れらていきました。
 グループダイナミクスの研究をしている私としては,心理学以外でも,あのような深い自己開示が行われるのかと驚いたことを覚えています。学問の世界は広い。自分の領域だけで閉じていては,ダメだと痛感した出来事でした。
 今は,2024年3月。パワーのある先生方の背中を見て,1年目を終えた感じです。

2024年2月3日信濃毎日新聞朝刊
「デザインの学び」プロジェクトの1つ「裏山の木を切り,製材し,乾燥させたのち,家具づくりやウッドデッキ製作に利用するもの」

学生にどのような変化があったのか?

 デザインの学びを受講した学生がどのような成長を示すのか,ここに私はとても興味がありました。これが私が声をかけられた理由でもあったからです。
 どうなるかわからなかったので,ひとまず,社会人基礎力尺度(大対ら,2019)という尺度を使って,効果について探索的に検討を行ってみました。
 その結果,事前よりも事後,全因子において平均値が向上したことが示されたのです。全因子が伸びるというのは,結構すごいことです。ただし,今回は,12名のデータしか収集できず,統計処理ができませんでした。そのため,可能性として「デザインの学び」プログラムが社会人になるために必要となる力ー社会人基礎力ーを向上させる可能性が示されたということに留めておきます。

「デザインの学び」プログラムを受講した大学生の社会人基礎力の事前事後変化(探索的な検討)

どうしてこんな変化があったのか?

 では,どうしてこんな変化があったのでしょうか?ここでは,学生が成長した理由として書いてくれていることをいくつか紹介します。

デザインの学びで成長できた理由

 学生は,モノづくりという体験がとても効果的であったようです。モノづくりを通して,「こうしたい!」と自らの欲求に気づいたり,「これってどう思う?」と仲間と相談したり,「いいね」,「私,これするよ」と協力関係が芽生えたり,「これは危ないからやめとこう」と遊ぶ相手のことを思ったり,「失敗しちゃった…やり直すか」と試行錯誤したりしていったことが伺えました。
 私は,モノづくり(操作可能な具体物を用いること)によって,自己との対話や他者との対話が活性化している様を見て,この観点から研究を進めていくことは間違いではないと確信できました。私の研究には,半具体物を用いて協同的な学びの心構えを身につけるトレーニングプログラムがありますが,そこの裏付けにもなりそうです。
 2024年度は,調査対象である学生の人数を増やし,この成長が偶然ではないことを統計的に確かめたいと思います。

おわりに

 「デザインの学び」プログラムは,私の専門である心理教育プログラムとは違ったものであり,戸惑うことも多くありました。しかし,「デザインの学び」に触れた学生が,次第に主体的になっていく姿を見て,このような手法も学んでみたいと思うようになりました。というのも,ゴールは同じだからです。私もデザインの学びを推進する先生方の目的も,大学生が主体的になり,他者と対話しながら思考を深めること,です。この目的を叶える方法が,心理学の他にも様々あるということを知れた私は,幸せ者だなあと感じています。
 自分の専門外の領域とコラボするということには葛藤も生じますし,相容れない体験もするはずです。不安も葛藤も含めて,この経験を自らの学びの糧にしていきたい,そう思っています。

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