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WHITE CROSSの新サービス「技工くん」が生まれるまで


ベンチャー企業では僅か3ヶ月で、会社が別物に進化していきます。4月にNoteを更新し、すっと潜って、ふっと顔を上げると8月を迎えていました。

新オフィスの恵比寿ガーデンプレイス(YGP)に移転して1ヶ月が経ち、その新鮮さもあっという間に日常になりました。

恵比寿駅からのアクセスもよく、セミナーに登壇いただく先生方にとっても、社員にとっても良い環境になりました

窒息しそうな濃度で、色々なことが通り過ぎていきました。苦闘の連続ですが、信頼できる仲間と共に走り続ける日々は、起業家という仕事を選んだからこそ得られた最高に充実している時間です。後から思い出せば、一番楽しい時期なのでしょう。

4年間過ごした南青山のオフィスと引っ越し風景

南青山時代の終盤はオフィスの過密が行きすぎて、近くのシェアオフィスを借りても事足りず、エントランス・廊下・階段・給湯室までもを会議室・商談スペースとして活用していました。思い返すととんでもない環境でしたが、ギリギリまで耐えてくれた(耐えざるを得なかった?)社員には感謝です。YGPに移動してきて以降、一気に仕事がしやすくなりました。

その間も、既存事業をストレッチさせ、新規事業を最速で進めてきました。そのジリジリした日々の先に、8月1日よりWHITE CROSSの新サービス「技工くん」がリリースされました。

今回は、「技工くん」が生まれた背景や、作り上げていきたい世界について記させていただきます。

歯科技工とは

歯科技工物の一例(出典_WHITE CROSS)

歯科技工物は、人々の食べる力を支える大切な医療製品です。(正確には、被せ物や入れ歯の素材となる歯科材料が医療製品として分類を受けています。)

多くの場合において、歯科技工物は歯科技工所という施設において、国家資格である歯科技工士さんの手仕事でオーダーメードで作られています。そして、凄腕の歯科技工士さんが製作したクラウンや義歯などは、美しさと機能を兼ね備えた芸術的な医療機器です。

ご自身で歯科技工物を作る歯科医師もいますが、歯科医師と歯科技工士は基本的に分業されています。そのため、歯科医院などにおいて歯科技工士さんが患者さんと直接接する機会が少ないためイメージしずらいかもしれませんが、歯科医療は歯科技工士さんがいて初めて成り立っています。

今、この歯科技工産業は苦しい状況にあります。

歯科技工物へのニーズは堅調に推移

現代日本社会において、歯科の疾病構造は大きく変化しています。

先人達の不断の努力の結果、小児の口腔内におけるう蝕数は激減し、高齢者の口の中に歯牙が残るようになりました。

そこにおいて「小児のう蝕数が激減している = 歯科技工物のニースも激減する」とは言えません。

厚生労働省_令和4年歯科疾患実態調査_「年齢階級別のう蝕有病率の年次推移(年齢階級別・年次別・永久歯・5歳以上)」

厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、55歳以上の日本人において、う蝕有病率は年々高まってきています。また、35歳から55歳のう蝕有病率は、いまだに高い水準で推移しています。

厚生労働省_平成28年歯科疾患実態調査_「一人平均う歯数(DMFT)の状況(年齢階級別・年次別・永久歯・5歳以上)」

その上で、歯科技工物のニーズを近似的に示す一人平均う歯数(DMFT)という指標は、加齢と共に増加します。若い世代のDMFTはピーク時より10本近く減少していますが、35歳以上で見てみると「ニーズが激減する」とは言えない水準で推移していることが分かります。(データ毎に調査年度のズレがありますが、大局で捉える時流に大きなズレは生じません。)

また、歯周病についても見ていく必要性があります。

財団法人8020推進財団, 平成17年_「永久歯の抜歯原因調査」

少し古いデータですが、人が歯を抜く原因は、年齢が高まるごとにう蝕から歯周病にシフトします。その結果、義歯などに対するニーズが生まれます。

以上から考えると、今後、現在の35歳前後以上の口腔内において、歯科技工物へのニーズは堅調に推移し、長寿化により高齢者の口腔内においてはニーズは増える可能性もあります。

その上で、市場規模の概要を捉えるのであれば、
年齢階級別のニーズ × 年齢階級別患者数
を見ていく必要があります。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」および厚生労働省「患者調査」より 日本歯科総合研究機構作成_「歯科診療所患者数推計」

こちらが、歯科医院に来院する患者数の推計です。ご覧の通り、人口減少と比例して、患者数全体は減少していきます。

一方で、歯科技工物のニーズのボリュームゾーンである65歳以上の来院患者数は増加し続けていきます。また、オレンジ色の15歳から64歳においても、35歳以上が過半を占めています。

フルマウスのリコンストラクチャリングのような大型症例こそ減少し、小規模補綴が中心になっていく可能性はありますが、向こう10年・20年で考えるのであれば歯科技工物のニーズは堅調に推移することが予測されます。

それに加えて、地域包括ケアシステムの時代においては、歯科医療には一国一城・診療室完結型モデルから脱却し、地域に出ていくことが求められています。これはつまり、歯科医院に来院する患者さんだけはなく、在宅や病院の患者さんに対しても、歯科医療を提供していく時代に突入していくということです。

令和元年度日本歯科医学会 プロジェクト研究「フレイルおよび認知症と口腔健康の関係に焦点化した人生 100 年 時代を見据えた歯科治療指針作成に関する研究」中間報告書_「訪問歯科において」

現在、在宅医療において歯科医療を必要としている要介護者に、歯科医療が届いているとは言えない状況にあります。

病院歯科においても同様で、日本口腔科学会は病院において「入院患者の72.2%が口腔内になんらかの自覚症状を有する。」というデータを発表している一方で、歯科を標榜しているのは一般病院の15%です。そして日本歯科医師会は「2040年を見据えた歯科ビジョン」において、「2035年までに全国の病院の約 30 %に歯科が設置されていることを目指す。」としています。

つまり、歯科医療が在宅や病院においてもその価値を提供し始めた時、隠れていた歯科技工物へのニーズが顕在化していく可能性があります。

また今後、国民皆歯科健診が社会実装された場合、これまで来院してこなかった患者層が顕在化し、そこにおいても隠れていた歯科技工物へのニーズが顕在化していく可能性があります。

以上より、私は以下のように推察しています。

2040年に向けて、歯科技工へのニーズは堅調に推移すると推察される。

国民皆歯科健診・訪問歯科・病院歯科の浸透次第では、歯科技工へのニーズは高まっていく可能性もある。

歯科技工の担い手の減少

歯科技工物へのニーズが堅調に推移する可能性が高い中で、今後、歯科技工士数は急激に減少していくことが予測されています。

衛生行政報告例、歯科医療振興財団調べ_「歯科技工士免許登録者数等の年次推移」

年々、歯科技工士免許登録者数は増えている一方で、就業率・従事者数共に緩やかな減少傾向にあります。

厚生労働省第7回歯科技工士の養成・確保に関する検討会 資料1_全国歯科技工士教育協議会調べ

また、歯科技工士の養成施設数・入学者数は、急速な減少傾向にあります。

令和2年末_衛生行政報告例_「就業歯科技工士数と割合(年齢階級別・男女別)」

そのような中で、就業歯科技工士の高齢化が進んでおり、55歳以上のボリュームゾーンが短中期的に引退していくことは避けられません。

これらを受けて、私は以下のように推察しています。

短中期的に就業歯科技工士数は急激に減少していくと推察される。

歯科技工産業の崩壊は国策にも逆行する

2040年に向けて、歯科技工へのニーズは堅調に推移すると推察される。

国民皆歯科健診・訪問歯科・病院歯科の浸透次第では、歯科技工へのニーズは高まっていく可能性もある。

短中期的に就業歯科技工士数は急激に減少していくと推察される。

この二つの推察を掛け合わせた先にあるのは、

需要があるのに供給ができない = 産業崩壊

という、国民皆医療保険制度を有する日本の医療において、あってはならない状況です。無論、個別ではなく面として考えるのであれば、自費診療・自費補綴も、ある程度同様の影響を受けることになります。

その結果、少し極端に表現すると「体に合わない松葉杖や錆びついた車椅子での生活」と同じような不便さ、あるいはそれ自体がない不便さを、人々の健康の根源である”食べる”という行為において延々と強いることになります。

それは、全身の健康と口腔の健康の関連性が見出されている現代において、人々の生きる力をその入り口から支えている歯科医療の崩壊を意味しており、「面として人々が健康的に歳をとることができる社会の仕組みを作ることで急激に減少していく国内労働力に歯止めをかけよう」とする国策に逆行することになります。(下: 参照Note)

この歯科技工問題に向き合っていく手立ては幾つか考えられますが、根源としてそもそも何故、歯科技工の担い手が減少しているのでしょうか。

公益社団法人日本歯科技工士会_2021歯科技工士実態調査報告書_「歯科技工を続ける上で問題となっている事項」

現役の歯科技工士さんが歯科技工を続ける上での問題として挙げている項目を上位から見ると、
・ 低価格、低賃金
・ 長時間労働
・ 社会的地位の低さ

がその原因となっています。超少子高齢化・人口減少が進む現代の日本において、多くの産業が担い手不足に直面しており、苛烈な人材の奪い合いが生じています。そのような中で、歯科技工士の担い手を確保することは簡単ではないと言えます。

WHITE CROSSを起業し、私自身が医療ジャーナリストとして歯科医療産業の深い情報に触れるようになり、歯科技工問題をこれだけ複雑化させてきた経緯と歴史を知るようになりました。

ちょっとしたご縁から、複数の都道府県の歯科技工士会の会長の皆様とZoomにてお話をさせていただき、歯科技工の未来への憂いや苦しみをお聞かせいただきました。

同時に歯科技工士という仕事に誇りを持ち、真剣に取り組まれている素晴らしい歯科技工士さんにも数多くお会いさせていただきました。

一筋縄には解決できないこの歯科技工問題と向き合うために、2022年・2023年と厚生労働省補助業において、「歯科技工の未来!再発見!」という歯科技工問題について建設的に考えていくシンポジウムが6回に渡り開催され、密着取材させていただきました。

歯科技工問題の重さに向き合いながら、それでも日本社会において歯科技工の提供価値を失わせないようにと、未来に向けて戦うオピニオンリーダーの先生方の姿には、深い感銘を受けました。

私は歯科医院の3代目として生まれ育ちました。歯科技工問題に触れるたびに、子供の頃に遊んでくれた歯科技工士のおじさんが私に向けてくれていた優しい笑顔を思い出しました。

そのような日々の先に、ごく自然に「IT企業であるWHITE CROSSとして、何かできないことはないか?」と考えるようになりました。

そして見出したのが、「技工くん」でした。

「技工くん」が解消したい社会課題

当然のことですが、自社単体・一つのサービス・一つの打ち手・一つの意思決定で解消できる程、歯科技工問題は簡単ではありません。

・ 歯科技工士を魅力的な仕事にするには
・ 歯科技工の担い手を増やすには
・ 歯科技工士の収入を高めるには
・ テクノロジーはどれくらい歯科技工士の仕事を代替できるか
・ 長時間労働を抑制し、効率・生産性を高めるには
等様々な角度からの様々な切り口があります。その全てにいきなり手を出すことは非現実的です。

切り口の選択においては、WHITE CROSSの既存リソースを活かながら、他社に真似できない価値を提供し、社会を少し良くできるかが事業選択のポイントになります。

3Dプリンターの医療への適用について

こちらは2014年時点での未来予測です。他のデータを見てみても、ヘルステックにおいて、歯科医療は初期の段階から様々なテクノロジーが入ってくる領域として予測されていました。

確かに、この10年間でiOS・CAD/CAMなど様々なデバイスやソフトウェアが進化・流入し、歯科技工はその影響を大きく受けてきました。

AIにおいても、最初は映画「ターミネーター」のような終末を予見する強い不安論もありましたが、「AIを恐れるのではなく、AIをどう使うかを考える時代」になってきているように感じます。(無論、なるがままの発展に身を委ねるのではなく、人自身がその活用規制や境界線を引き続けることは倫理的にも大切です。)

歯科技工におけるデジタル化も同様で、「抗うのではなく、如何にデジタルの力を使うかを考える時代」に入ってきています。それと同時に、デジタルへの過剰期待が一定薄まり、手仕事の歯科技工の重要性が再認識されているように私は考えています。IDSなどを見る限り、エマージングマーケットであることは間違いありませんが、今後必ずガートナーのハイプ・サイクルでいうところの幻滅期に入ってくことでしょう。

歯科治療において、歯科技工士さんの手仕事により、治療の質が担保/ある程度補完されていることは否定できません。また、国民皆医療保険制度に歯科医療が大きく組み込まれている日本において全ての歯科技工物がiOS・CAD/CAMなどのデジタル技工に置換されるとは思えません。無論、個としてそれを追求・実現されている方々の努力は尊敬するべきものですが、現時点ではそのような先生方・歯科技工士さんはオピニオンリーダーであり、それ故に少数派です。

また、2021年時点で、歯科用CAD/CAMあるいはそのどちらかのみを有している歯科技工所は35.2%です。各メーカーが、大きな初期投資を伴うデジタル技工のクローズドシステムを作り上げていく中で、歯科医院・歯科技工所にとって「どのメーカーの何を導入するか」が一つの重要な意思決定となります。否定ではなく、それはそれで素晴らしい部分最適化が出来上がっていきますが、一気に全てを抑え切るような巨大資本が動く市場でもないが故に、ディファクトスタンダードが確立され辛い市場です。

このような思考を深めてきた先に、歯科技工産業を維持・発展させていくために、あらゆるシステムに対してAPIを開くことを前提とした産業の基盤となるデジタルインフラが必要だと考えるようになりました。

結果としてWHITE CROSSが選んだのは、「長時間労働を抑制し、効率・生産性を高める」という切り口であり、

歯科医院の業務効率を高めながら、歯科技工士が集中するべき領域に集中できるように産業全体の効率化・生産性の向上を実現し、歯科技工を人々の健康に寄与する医療として維持し、高めていく基盤となるデジタルインフラの整備

を事業として推進していくことでした。その先に思い浮かんできたのが、技工くんのビジョンでした。

私の思考を見える化するために、社内の映像制作チームに細かく指示を出させてもらい、ビジョンムービーが完成しました。

このビジョンの実現における、最大の関門は「技工くん」が歯科医院と歯科技工所の双方性のクラウドウェアであるということです。

それ故に、緻密かつ地道に歯科医院と歯科技工所のスモールネットワークを繋ぎ合わせていく必要はありますが、ネットワーク効果が得られる水準まで高めた時、歯科医師・歯科技工士にとっての素晴らしい価値が加速的に生まれていきます。

また、歯科医療法人を経営し、必要なソフトウェアを自分自身でコーディングして開発してしまう親友が「技工くん」の基盤となるシステムを5年間かけて開発し、実際に年間数億円の歯科技工物の受発注が行われているレベルにまで高めていたことも、私のビジョンを面白がって二言返事でそのシステムを譲渡してくれたことも幸いしました。臨床現場から生まれたUI/UXに勝るものはありません。トライアルで、個人歯科医院様にもご利用いただきましたが、利便性の高さをお褒めいただき、ご納得いただけました。

また、歯科技工問題を日本社会全体の問題として認識いただき、「技工くん」をそのためのソリューションの一つとしてご理解いただけた結果、日本経済新聞・日本歯科新聞に記事にしていただくこともできました。

Why WHITE CROSS

現在のWHITE CROSSは、歯科医師の3人に1人以上にご登録・ご利用いただいています。そして、数千人の歯科技工士さんにもご登録・ご利用いただいています。

第三者の調査会社により「歯科医師がよく見ている歯科総合情報ウェブサイト No.1」であることが示された「WHITE CROSS」そのものが他社には持ち得ない強烈なリソースになっています。

調査方法:インターネット調査 調査期間:2023年3月17日〜同年3月20日 調査概要:「歯科医師の認知・購買に関する調査」 調査対象:男女、全国、歯科医師 調査実施:株式会社IDEATECH よく見ている歯科の総合情報Webサイト(Q4)

歯科医療従事者の皆様に日常的にご利用いただいている「ウェブメディア」上にクラウドサービスの「技工くん」を垂直的に立ち上げて連動させた先に生まれる価値は計り知れません。それにより、歯科技工問題に向き合う切り口の数を増やしていくことができます。

今後、短期的に「技工くん」を、WHITE CROSSの代名詞へと育てていきます。

「技工くん」に興味お持ちの歯科医院様・歯科技工所様へ

8月1日に「技工くん」はサービスインしました。十分機能しているとは言え、まだ若いサービスであるため、開発部が日進月歩で新しい機能を追加し、ブラッシュアップし続けていきます。

すでに、複数のスモールコミュニティが生まれ、歯科医院・歯科技工所の双方に、少しづつですがその価値を提供し始めています。

"歯科技工を包み、高める"をキャッチコピーとして掲げる「技工くん」のこれからに、是非ご期待ください。

興味をお持ちの歯科医院様・歯科技工所様は、ぜひお問い合わせくださいませ。大切に対応をさせていただきます。

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WHITE CROSSにご興味をお持ちの方へ

WHITE CROSSでは、ビジョンの実現に向け、歯科業界のデジタル・プラットフォーム構築実現に向け、共に走れる人材を求めています。

また、今回書かせていただいた「技工くん」の営業マネージャー候補も応募しています。

その他にも幅広いポジションで仲間を集めています。未来視点に立って大樹を育てていこうとするWHITE CROSSのあり方に共感してくださる方からのご応募を、心よりお待ちしております。カジュアル面談も大歓迎です。気になられた方は、ぜひ採用ページを覗いてみてください。

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WHITE CROSS 執行役員・管理部 部長 永畑のnoteはこちら

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