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【感想】FXドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』シーズン2

本作の原題は『The Bear』
シンプルにバシッと決めたタイトルに対してパッとしない邦題への不満をどうしても言いたくなるところだが、それは一旦横に置いておいて超面白い傑作。
シーズン1はゴールデングローブ賞やエミー賞など賞レースでも多数ノミネート。

シーズン1の時点ではレストラン立て直しのお話=三谷幸喜の『王様のレストラン』みたいな感じか?と思ったが、まぁ当たらずとも遠からず。

語り口が近いのは映画『ボイリング・ポイント/沸騰』か。

忙しい厨房内での人間関係の温度がじわじわと不穏に上昇していき、沸点に到達したとき物語が動き出す。
特にシーズン1の第7話は非常に近い演出アプローチ。

レストランが舞台の映画といえば近年では『サクセッション』のマーク・マイロッドが監督した『ザ・メニュー』が思い浮かぶ。

Netflix映画『ハンガー:飽くなき食への道』なんかも。

どっちかというと『ハンガー』の方が本作に近いかも。

是枝裕和監督が手がけたNetflixドラマ『舞妓さんちのまかないさん』も広義なら当てはまるか。

テイストは真逆だけどw

とはいえ本作が全世界でこれだけ支持されている理由はレストランや飯ドラマの射程に閉じない、もっと普遍的な物語になっているからだと思う。

  1. お仕事ドラマ×チーム群像劇としての面白さ

  2. 音楽と編集をはじめとする演出

まず、本作が面白いのはよくある「慣習や既存のルールを無視する型破りな異分子がやってきて腐敗した組織を立て直す」というプロットではないこと。
主人公はニューヨークの一流レストランからシカゴの大衆食堂(サンドイッチ屋)に兄の死をきっかけに移ってくるわけだが、料理の腕はともかく大衆食堂の運営・経営に関してはずぶの素人。
完璧スーパー異分子とはほど遠く、何なら危うい点すらある。
従業員と衝突し、時に相手を傷つけてしまいながらも「大切なのはお互いへのリスペクト」に帰着して店を立て直していくのがシーズン1。

同時代の作品であるApple TV+の『テッド・ラッソ』と共鳴するメッセージ。

テッドは周囲に好影響を与えるナイスガイだけど、カーミーは決して人格者ではないのが本作のミソ。
でも『テッド・ラッソ』と同様にシーズン1を見終える頃には登場人物みんなのことが大好きになっているはず。
シーズン2はここをより掘り下げた作劇になっている(後述)

演出面はシーズン1時点でほぼ完成されている感すらあるが、音楽・劇伴とそれに合わせた編集のテンポがとにかく素晴らしい。
過去にnoteでも何度か書いてきた気がするが、自分はエドガー・ライトのような音楽に乗せたリズミカルでスピーディーで細かいカット割りが大好きなので、本作の編集には完全に心を射抜かれてしまったw
シカゴの街の風景の挟み方も抜群だし、厨房が忙しなる場面でのテンポの上げ方もたまらない。

かと思えばシーズン1の第7話みたいな約17分間のワンカット撮影もやっちゃうわけで。
(ただ、あれもカメラが厨房内を忙しなく動き回るからじっくり長回しとは全然違う印象でめちゃくちゃテンポよく感じた)

さて、そんなわけでレストランのThe Beefを閉店してThe Bearにリニューアルオープンすることが決まった所で幕を閉じたシーズン1。
シーズン2ではいよいよ新しい店がオープンだ!と思ったら、なんと最終話までずっと開店準備の話。
しかしそれでもイッキ見必至なほど抜群に面白いんだから凄い。

シーズン2は開店準備をエピソード全話を貫く縦軸にしながらも、各キャラクターが外に“武者修行”に出て成長していく姿を描く構成になっている。
そうして成長した面々が再び集結した9・10話でいよいよリニューアルオープンという文句なしにアガるストーリー展開。

個人的にはマーカスがデンマークにパティシエ修行に出る第4話と、リッチーが三つ星レストランで研修を受けて“覚醒”する第7話が単体エピソードとしても連作短編としても面白かった。
特にトキシックで攻撃的な振る舞いしか出来なかったリッチーが変化していく第7話はシリーズ屈指の傑作回。
また、マーカスとリッチーがそれぞれ修行先で出会ったシェフと料理の手を動かしながら会話するシーンもまたシリーズ屈指の名場面。
第4話で話されていたことが第7話に一瞬だけ画面に映る写真で「あっ!」となったり、このシリーズで繰り返し出てくるある言葉のルーツが明らかになったりと脚本の全体構成の妙にも唸らされる。
第6話から第7話にかけてのフォークというモチーフの使い方とかも。

全体構成といえばシリーズを貫くマイケルの死、ひいてはベルザット家の闇を描いた第6話も異色ながら出色。
シリーズ最長の66分(他のエピソードは30〜40分)で息もつかせぬ緊張感溢れる怒涛の会話劇。
まさか『サクセッション』に匹敵するものを年内にまた目に出来るとは。

敢えてタイミングを被って複数の人物が同時に喋る演出でドキュメンタリーのようにすら見えてくる。

そうそう、第6話にはなんとボブ・オデンカークがゲスト出演していたが、第4話にウィル・ポールター、第7話にはオリヴィア・コールマンがゲスト出演。
さらに単話ゲストではない母親役でジェイミー・リー・カーティス。
びっくり。
シーズン1のヒットで名実ともに人気ドラマになった感ある。

もちろん先に述べた音楽と編集によるテンポの良い演出も健在。
とにかくテンポが良い。
あの音楽が流れてコンロに火がつく瞬間は問答無用にアガる。
料理シーンも工程を丁寧に見せるよりはテンポ重視の速いカット割り。
第7話や最終話で注文を一気にさばくシーンの編集は心底ワクワクした。
特に最終話は冒頭の長回しワンカット撮影からの緩急がエグい。
しかも伝統的なコメディシリーズのフォーマットを守って原則1話30分だから体感速度はマジであっという間。

その編集で挿入されるシカゴやコペンハーゲンの街の撮り方も本当に素晴らしいんだよな。
あのインサートだけで惚れ惚れ。

やはり原題準拠で「ザ・ベアー」と呼びたいところだが、『The Bear』a.k.a.『一流シェフのファミリーレストラン』は夏ドラマ暫定1位にして早くも下半期ベスト候補!

あ、そういえば本作は製作総指揮にあのヒロ・ムライが名を連ねている。

別に「ヒロ・ムライの携わってる作品は必ずnoteに感想を書こう!」と思っているわけではないのだが、やっぱり目が離せない重要人物。

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