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【感想】FXドラマ『アトランタ』シーズン3

2016年からFX(外国為替ではなくてディズニー傘下の米テレビ局)で放送されているドラマシリーズ『アトランタ』
僕が改めて紹介するまでもなくエミー賞はじめ絶賛されている作品。

コメディなんだけど黒人差別に対する鋭利な批評眼もある。
笑える回もあれば後味悪い回もある。
何なら不条理劇みたいな奇妙奇天烈な回もある。
そんな不思議な魅力を持つドラマ。

主演のドナルド・グローヴァーは制作総指揮・原案・監督・脚本も兼任(ほぼ全てw)
さらに『This Is America』のMVでグラミー賞を獲った盟友のヒロ・ムライが半分以上のエピソードで監督を務めている。

コロナ禍での撮影中断も影響して、シーズン2から実に4年もの月日を経てアメリカでは3/24(木)から放送がスタート。

しかし日本では同日には動きなし。

その後も全く音沙汰が無かったが、少なくともDisney+で配信されることが先月ひっそり発表。

配信の2日前には偶然にも佐久間Pのラジオ『東京ドリエン』での東野パートでヒロ・ムライの話題が。

上半期に観た作品で印象に残ったものにU-NEXTで配信中の『バリー』を挙げる東野。

第5話と第6話をヒロ・ムライが監督しているという話から『アトランタ』や『This Is America』といった固有名詞も!

そんなわけで(?)Disney+で全10話を鑑賞。
いやはや今シーズンもぶっ飛んでたw

第1話『3つの衝撃』

いきなり意表を突くホラーで幕開け。
いつものメンツは一切出てこない。
「あれ?新シーズンが始まったんだよね?」と戸惑っている内にどんどん恐怖が進んでいく。

「黒人差別×ホラーといえばジョーダン・ピールよな」と高を括ってたら、なんとこれ実話に基づいているらしい。

こ、怖すぎないか…

第2話『シンタクラースが町にやって来る』

ようやくいつものメンツが登場。
今シーズンの舞台はヨーロッパのようだ。

なんでもオランダにはズワルトピートという顔面を黒塗りにしたサンタの助手なる伝統的キャラクターがいるらしい。

僕は今回初めて知った。
昨今まさに賛否両論になっていると。
「黒人差別はアメリカだけで起きていることではない」という作り手の気概を感じる。

全くの別人を顔が黒いからというだけでアーンだと思い込んで殴るあの白人男性というオチもエグい。
あと、まさか冒頭のアーンがトイレで用を足すシーンが最終話への伏線だったとはw

第3話『老人と木』

舞台はロンドンへ移動。
語り口はどんどんシニカルでシリアスに。
「自分たちは黒人を差別しない。差別には絶対反対だ!」と当事者のダリウスそっちのけで盛り上がる意識高い系の白人という地獄絵図。
発言の意味が歪曲され、パーティーに参加してる人全員が半ば暴徒と化して糾弾する描写はSNS上のキャンセルカルチャーを想起せずにはいられない。

イギリスにおける黒人差別といえば、スター・チャンネルで配信中のスティーヴ・マックイーン監督・脚本の『スモール・アックス』も素晴らしい作品だった。

「素晴らしい作品」と消費してる時点であの白人たちと変わらないのかもしれないな…

第4話『ザ・ビッグ・ペイバック』

またアーンたちが一切出てこないエピソード。
テーマは「奴隷だった黒人の子孫への賠償金」

これも現実にある話らしい。
本作のように個人に対して裁判を起こして賠償金を請求できるのかは記事には明言が無いが、そこはやはり市など行政が支払うのかな?

第3話では愚かな存在として描かれていた白人が今度は「いや、それはそれで可哀想かも…」と感情移入の対象になる振り幅が凄い。

幸せに暮らしていた我が家がある日突然乗っ取られるというプロットや某楽曲の使い方などジョーダン・ピールの『アス』へのオマージュが炸裂する1本。

あのレストランのラストカット…!

あと、途中ホテルの1階で話しかけてきて何やら不穏な演説をかます白人男性キャラクターの顔はよく覚えておきましょう。

第5話『キャンサー・アタック』

スマホがどこかに消えた。ライブ中の楽屋から盗まれたのでは?というエピソードだけで30分w
個人的には前シーズンまでのテイストっぽいと感じた。
「てかこれ何の話だっけ?」ぐらいの話題を延々とやるユルいコメディというか。
ただ、あの取り調べシーンは何やら不穏な感じもあったよな…

あと、シーズン3のヒロ・ムライ演出回では珍しく基本屋内だったからかカメラが移動しながらのワンカット長回しや部屋を引きの画で撮ったりと映像面も面白かった。

第6話『ホワイト・ファッション』

再び真正面から黒人差別がテーマ。
All Lives Matterが出てきたけど、脚本執筆時期は2020年のBLM運動よりも前のはず。
さらに居住区還元キャンペーンや店の買い取りはジェントリフィケーションの話でもある。
そもそもファッション業界という舞台設定で文化の盗用にも言及しているし、終盤には黒人vs.白人の構図も脱して黒人同士の衝突からビジネスと慈善というテーマに到達。
これだけのイシューを30分に詰め込んで破綻しないとは。
圧巻。

ところで"Do the right thing."という台詞はスパイク・リーの引用なんだろうか?

第7話『骨までトリニダード人』

またまたアーンたちが出てこないエピソード。
何だろう?正直あまり印象に残らなかった。

第8話『ニュー・ジャズ』

最高!w
個人的シーズン3ベスト回。

アルフレッド自身も時間の流れるスピードがおかしいと言及していた通り全編に渡って変な空気が流れる。
世にも奇妙な物語。

そして本人役ゲストでリーアム・ニーソン!
2019年に実際にあった人種差別発言に真正面から言及する形で出演している。
凄い。
きちんと真摯に謝罪していたが、去り際に

アルフレッド「あの発言はダメと気付いたよな?」
リーアム・ニーソン「ああ、他にも学びがあった。白人であることで最高で最悪なのは学ばずとも生きられることだ」

酷すぎるwwwww

そして序盤に出てきたあの人の正体は…w
ちょっと『TENET テネット』を思い出したw

第9話『リッチ・ウィガ、プア・ウィガ』

またしてもアーンたち不在エピソード。
貧困層の白人の視点から「黒人だったら様々な支援が受けられるのに」という物語。
個人的には第4話の寓話的な切れ味に比べるとハマらなかった。

第10話『タラーレ』

最終話もアーンたち不在w
完全にイカれたシリーズ構成である。

4人目の主要キャラクターであるヴァネッサがパリで暮らしているというお話。
これは今シーズンあまり出番の少なかったヴァネッサが実は裏でこんな生活を送っていたというストーリーなのだろか?
でもその割には不条理コメディw

ちょっと第8話に通じる味わい。
俳優のアレクサンダー・スカルスガルドも本人役で出てくるしw

総括(?)

今シーズンを観て思ったのは2点。

  1. 既存2シーズンのフォーマットを敢えて壊そうとした?

  2. 黒人差別というテーマはより前傾化

1点目は何と半分のエピソードで主人公3人組が出てこないというw
スピンオフですらない初登場キャラが主人公の回が半数を占める独特すぎる構成。
実は事前にRotten Tomamoesを見たらオーディエンス・スコアが過去2シーズンより大幅に下がっていて不安だったのだけど、ファンの中には満足できなかった人もいたのだろう。

2点目は過去シーズンより明らかに振り切ってる。
でも元々あるシニカルな語り口が加速している感じだからそこまで違和感は無い。
ホラー的というか怖い印象の回が増えた気はする。
やっぱりジョーダン・ピール作品の影響とかってあるのかな?

最後に個人的に好きだったエピソードを挙げて締めます。

  • 第4話『ザ・ビッグ・ペイバック』

  • 第6話『ホワイト・ファッション』

  • 第8話『ニュー・ジャズ』

寓話性、社会批評性、コメディ性を強く感じた3話を選びました。

ファイナル・シーズンはアメリカでは今秋放送。
日本は年内に間に合うかな?

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