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【感想】FXドラマ『DEVS/デヴス』

アメリカでの放送・配信は2020年3〜4月だから2年越しでの日本上陸。
12月公開のアレックス・ガーランドの新作映画『MEN 同じ顔の男たち』には何とか間に合った。

やはりこの人の代表作は『エクス・マキナ』

近未来を舞台にしたリアル路線のハードSFを美しいビジュアルで映像化できる作家である。

本作のストーリーは主人公リリーの恋人が巨大IT企業アマヤのDevsプロジェクトに異動を命じられた所から始まる。
Devsとはdevelop、すなわち開発を意味するので直訳すると「開発プロジェクト」
そりゃIT企業ならプロジェクトはほぼ確実に何かを開発するのだから実質これは何も言ってないのと同じであるw
社外はもちろん社内向けにも超極秘の謎プロジェクト。

ミステリー部分の弱さ

先に本作の弱点というか人によっては「面白くない」と感じるかもしれないポイントを。
本作は前述のDevsプロジェクトに異動した恋人の謎の死をきっかけに大きく動き出す(第1話)
つまり2つのミステリーが軸。

  1. 恋人はなぜ死んだのか?

  2. Devsプロジェクトの目的とは何なのか?

ただ、実は1つ目の謎の答えは第1話で視聴者には全て明かされる。
よってそこのミステリー的な推進力は無い。
かといって『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のような犯人と探偵が対決する倒叙ミステリーというわけでもない。
さらに2つ目の謎も全8話中の第4話くらいにはもう大枠が判明してくる。
答えが分かってもそこにSF的な科学的理論付けが乗ってくるので(後述)決して面白くないわけではないのだが、ミステリーに惹かれて見始めた人は早々に興味を失うこともあるかも。
海外のレビューを軽く見た感じ「展開が遅い」という批判は確かにあるみたいだ。
こっちはミステリーの答えが分かってるのにそれを解こうと悪戦苦闘する人たちを延々見せられても…って感じなのかな?

さて、弱点から入ってしまったが、本作の見どころはやはり何と言ってもSF要素、それもビジュアルと理論の両輪。

SFのビジュアル面

本作は撮影から美術からビジュアルが最高である。
画面の隅々まで行き渡るアレックス・ガーランドのセンス。

まず森の中にあるアマヤ社のオフィス(キャンパス)に建てられた女の子の巨大な像…!
この記事のサムネ画像に使った本作のメインビジュアルにも登場している。
劇中の映像だとこんな感じ。

(C) FX on Hulu

自分も出張でシリコンバレーにあるIT企業のオフィスをいくつか見学させてもらったことあって、確かに超広くて日本企業では考えられない色んなオブジェ的な物が置いてあったけど、それでもこれは凄まじいw
ちょっと不気味で怖いしw

まぁあの像は出オチ気味だけど映像面は最終話までずっと惚れ惚れ。

  • Devsラボのシンプルに削ぎ落とされた外観と黄金の内装

  • Devsラボに設置された量子コンピューターのデザイン

  • その量子コンピューターが画面に映し出す粒子(第5話ではそれが“編集点”に化ける)

  • 空撮で捉えた夜の都市

  • 色彩や光が美しいショットの数々

2020年度のエミー賞の撮影部門にノミネートされたのも納得。
SF好きならきっとビジュアル面にワクワクできるはず。

あと、本作は音響もエグい。
電子音とはまた違うのだけど、SF的で温度の低いノイズ含みの不思議な音。
特に第7話のアバンタイトル…!
あれは圧巻。

SFの理論面

本作のテーマは決定論と自由意志。
まさに2019〜2020年頃に様々な作品で同時多発的に扱われていた題材。

日本だと2021年放送の『ゴジラ S.P』が決定打か。

『東京リベンジャーズ』はじめタイムリープ設定の流行もそれと関連付けて考えられるかもしれない。

決定論とはざっくり言えば「物事がどうなるかが先に決まっていて、我々はそれに向かって動いているに過ぎない」というもの。
「自らの意志で行動を選択し、その結果が未来である」という自由意志とは因果関係について正反対の立場。
結果は予め決まっていて我々の行動はあくまでその原因・理由。
SFで何度も扱われてきてはいるが、科学だけでなく哲学的な側面も持つ話である。

ミステリーの作劇である「結果が出た事象(近年では殺人事件が多い)の原因を探る」とも一致している。
(ただ、前述の通りそれでミステリー要素が面白くなるかというとそれはまた別の話)

劇中でそれに対抗する概念として登場するのが多元宇宙論。
いわゆるマルチバース。
行動の選択の結果、我々は無限に様々な宇宙(ユニバース)に分岐・分裂していくという考え方。

2022年に入ってからはMCUの影響で半ば流行語と化しているw
そういうSFのトレンド捕捉的な意味では願わくば本作をリアルタイムで2020年に観たかったなぁと思わずにはいられない。
もちろん今こうして2022年にこの2年間を知った上で評価するのも良いのですが。

本作が秀逸なのはテレビドラマというフォーマットを活かして第5・6話をこうしたSF設定の説明回に充てていること。
実は自分は第2話ぐらいの時点で前述の通り本作はミステリーとしては弱いなと思っていたので「このまま最終話まで行くのかな?SFビジュアルは確かに良いけどそれだけで残り6話を観続けるのは…うーん?」と半信半疑なテンションだったのだが、この全体構成は確かにドラマでしか出来ない。
2時間の映画であれをやってしまうと説明台詞が延々と続いて時間も足りない上にダレる。

第5話の大学講義のシーンで出てきた「観測が対象に変化を及ぼす」というのは佐藤究の小説『爆発物処理班の遭遇したスピン』でも描かれていた量子エンタングルメント。

コインを箱Aと箱Bのどちらかに入れたとする。
箱Aも箱Bも外から中身は見えない。
箱Aを開けて中が空であれば箱Bにコインが入っているということになる。
しかし箱Aしか観察されていないのに箱Bの中身はどうやって確定したのか?

こういうゴリゴリのハードSFを支える理論的な話が第5・6話では延々と続く。
いや〜たまらないw
もちろんこういったSF話に耐性の無い人にとっては拷問になる可能性あるのでご注意を。

ビジュアルも設定・理論も、極上のSF作品。
A24製作で12/9(金)公開予定のアレックス・ガーランド新作映画『MEN 同じ顔の男たち』の鑑賞前に是非。

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