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【感想】Disney+ドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』

連続ドラマ・テレビシリーズを見る上での醍醐味は何か?

  • 何シーズンも続く長編ストーリーを数年かけてじっくり楽しめる

  • 映画の尺では難しい一人ひとりを丁寧に描き込む群像劇

  • 巨大スクリーンでやると場合によっては退屈になりかねない濃密な会話劇

などなど色々あるが、

エピソードごとに語り口が変わる

というのもあると思う。
これは「各話で演出家が交代する」という制作上の大人の事情もその背景にはあるのだが(近年では主に映画出身の監督が全話の演出・脚本を全てやるという作品も出てきている)なんだかんだ個人的には楽しんでいる。
もちろん作品によっては残念ながら何かチグハグという結果にもなるのだけど…

本作『ボバ・フェット』もまさにそんな全7話だった。
まぁそれが完璧にハマったかというと…なのですがw
その辺は後述。

そもそもボバ・フェットというのは『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』で初登場し、脇役かつ悪役ながら人気を博したキャラクターである。
僕は世代的に旧三部作は中学生の頃にテレビ放送で見たのだが、スカイウォーカー家の物語にも銀河の命運にも関わらないながら孤高な感じの佇まいとガジェット満載の戦い方で虜になった。
だからこそ『ジェダイの帰還』は残念だったなぁ…w
視力を失った状態のハン・ソロが適当にぶん回した棒が背中に当たる→ジェットパックが暴発→情けない悲鳴を上げながら怪物に喰われる。
あの時の幻滅は今でも覚えてるw
あんなにカッコいいと思ってたボバ・フェットの最期があんなにカッコ悪いなんて…

新三部作世代の自分が当時も今も一番好きなシーンは『クローンの攻撃』でのオビ=ワン・ケノービvs.ジャンゴ・フェット in 惑星カミーノかもしれない。
予告編の時点からめちゃくちゃ楽しみにしていて実際に鑑賞しても期待に違わずアガりまくりだった記憶がある。

そんなわけで(?)続三部作も深夜最速上映に駆け付けたりして楽しんだものの、世間の「勝手に広げた風呂敷を畳むことに追われてるだけの辻褄合わせの2時間」という酷評にも頷けるなぁと悶々としていた2020年の初め。
『マンダロリアン』というスピンオフドラマが配信で始まったと聞き、全話が出揃ってからイッキ見した。

2020年初頭(世界がコロナ禍に突入する直前)はまだDisney+じゃなくてディズニーデラックスだったのか…
それはさておき、この作品がむちゃくちゃ面白かった!

シーズン2はさらにその上を行く面白さ。
失いかけていたスター・ウォーズへの熱をここで取り戻したという人も多いのでは?
最終話のポストクレジットシーンでボバ・フェットを主人公にした新作が発表。

そして昨年末に毎週1話ずつ配信がスタート。
第1話の監督は本作の製作総指揮でもあり『マンダロリアン』ではボバ・フェットが登場した回を演出したロバート・ロドリゲス。

いわゆるオタク監督で、ケレン味たっぷりのアクションが持ち味の人。

本作は彼の意向がどこまで反映されているのかは分からないが印象的なアクションが手を替え品を替え並んでいる。

  • 屋根上を跳んでのチェイス

  • 列車上でのバトル

  • スピーダーによるカーチェイス

  • 宮殿への潜入

  • 西部劇の速撃ち

特に第2話の列車のシークエンスはそこに至るまでのタスケン・レイダーとの関係性構築のドラマも含めて素晴らしかった。

撮影監督が巨匠ディーン・カンディだったと聞いて納得。

眼のガジェットとか第4話の治療シーンの無駄にノリノリの音楽とかも良かったなぁ。
逆に第3話のカーチェイスは何かもっさりしてたというかスピード感不足な気がした。
まぁこんな風に各話で差があるのも連続ドラマ・テレビシリーズの広義の“楽しみ方”か。
(そりゃもちろん全話どれも面白いのが一番いいんですけどねw)

第4話までは脚本の構成も独特。
ボバ・フェットが見ている夢という設定で半分ぐらいを回想シーンが占めている。
『ジェダイの帰還』で死んだかに思えた彼は『マンダロリアン』で我々の前に再び姿を現すまでにどんな人生を歩んできたのか?
前述のアクションで毎話見せ場はあるが正直ストーリーはあまり進んでいない。
こんな風に人物の過去をじっくり掘り下げられるのもテレビドラマならでは。
ただ、同時に『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』『クローンの攻撃』を振り返る事はしない。
そこの知識は前提になっている。
スター・ウォーズという人気シリーズだからこそ出来る不思議なバランス。

ところが第5話と第6話では路線が大きく転換。
サプライズというべきか『マンダロリアン』や正史との合流展開になっている。
特に第6話では若き日のルークが登場してエピソード6.5のようなテイストに。
最終回の手前で主人公のはずのボバ・フェットの影が急激に薄くなる異常事態。
面白いからいいけど正直ぶっ飛んでいる。

そこからロバート・ロドリゲスが演出に復帰した最終話は再びアクション大作のノリに。
クライマックスはほぼ怪獣とロボットの大迫力プロレス肉弾戦。
ちょっと大味になって尻すぼみだった感は否めないw
昨年は全体構成が見事なドラマが何本もあっただけに、やりたいこと全部やった感との歪さ(ツイートでは「ごった煮」と表現)が際立っていたなぁと。

この辺の作品は本当に見事だった。

最後にストーリーから自分が感じ取ったテーマについて。
本作のボバ・フェットは銀河最強の賞金稼ぎとしてハン・ソロをカーボン凍結したのと同一人物とは思えないほど改心している。
ジャバ・ザ・ハットのやり方を「恐怖による支配」と否定した上で自分は「尊敬による統治」を目指すと明言。
ここには

  1. 暴力や戦争への反対

  2. セカンドチャンス

というメッセージが込められていると思う。
特に「過去に良くない行いをしてしまった人にも更生や再挑戦の機会は与えられるべき」というセカンドチャンスの考え方は過去作の悪役が復活した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも見られた。

どちらも広義のディズニー傘下作品。
そんな中で『マンダロリアン』のデューン役のジーナ・カラーノがキャンセルされたというのは何とも皮肉で心苦しいけど…
(現場の作り手や俳優の気持ちと企業の判断が必ずしもイコールにならないことは多々あるわけで矛盾とまでは思いませんが)

ちょうど先日の『ゴシップ #彼女が知りたい本当の〇〇』第6話でもキャンセル・カルチャーを扱っていましたね。

世界のエンタメを良くも悪くもリードするディズニー帝国からキャンセル・カルチャーに対して特効薬とは言わないまでも何か道標が示される日は来るのだろうか?

そんなことを考えながら早ければ今年中に配信と噂される『マンダロリアン』シーズン3に想いを馳せるのであります。

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