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ダウン症者の認知能力改善に緑茶サプリ --- 「 ダウン症があるとかないとかどうでもいい、誇りがあればいい。」

ダウン症のひとの認知能力改善にほげほげの成分がよいという話は色々あるみたいで、有名なところでは糖鎖(二糖類)サプリが効果ありというものである。
あれ?単糖類だったかな?
僕の認識はそんなもの。
いや、もちろんこのサプリについては最初に調べたりして、効果の仕組みもはあなるほどと納得はしたんだけど、所詮サプリでしかないので、治験通るくらいの有意な差異は見出せないってことなのかね、と思った。
ついでにこのサプリ、月に2、3万円かかる。
商売の匂いがプンプンするわけでして。

それはさておき、先日ダウン症者の認知能力改善に緑茶が効果ありという論文が発表されたというニュース記事が出た。
http://www.afpbb.com/articles/-/3089614

この記事を読んだ時点での僕の所感は以下のようなものであった。

・緑茶が色々と身体にいいのは常識だろ
・とはいえ、この研究のポイントは、人間を被験者として、対照群も作り、有意な差があることを示したことにある
・予算があったんだね、よかったね
・それと同時に脳検査もしたところ、以下が分かったのね。
「脳の神経細胞の接続方法に改変が起きたことが明らかになった。」
・その検査から、緑茶に含まれている化合物「没食子酸塩エピガロカテキン」が有効成分であることをどうやって導いたのだろう。
・神経細胞の接続方法の改変と、「認知テストの結果」の相関について明言していないな。
・緑茶によって変化があった項目が、「記憶パターンや言語想起、適応行動など幾つかの項目」で、これらはダウン症の人が健常者と比べて弱い能力だと思う。とするとだ、健常者も対照群として置くべきなのではないか。それとも、もともと健常者においても、これら一部の認知能力に緑茶が特に効果を示すという既存研究があって(知らんけど)、それがダウン症の人にも適用できる、ということなのだろうか。

記事だけを読んだ、つまり論文の原著を読んでいない状態だと、こんな感じの理解だった。理解というか、いまいちこれだけでは分からないという状態だ。

えてして「記事」というのは、こんな感じである。
難解な科学知識を、専門分野の素養がベースとなる知識のない人間にもわかりやすく、かつ正確に伝えることが、メディアはちがえど「記事」というものの役割なはずだ。
しかし、多くの「科学記事」というものは、科学的に考えて筋が通っていなかったり疑問が生まれる構成であったりする。専門外で内容の正誤が分からなくても、研究の考え方としてこの表現はおかしいということは、科学技術を学んだ人間であれば分かる。
それじゃあ、一次情報を調べようと思っても、肝心の論文のリファレンスが記事に記載されていない。参考文献へのポインタを明記しなかったら、学術論文なら一発で落とされる。限られた紙面で詳細な説明ができないとしても、せめて元の論文の情報(いわゆるbibというやつ)は記載して欲しいものだ。

さて、この記事が話題になった数日後に、元論文を読んで詳しく解説してくれた人が現れた。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishikawashinichi/20160613-00058778/

NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事 の 西川伸一 氏による記事だ。

この解説を読むと、少なくとも研究、実験の方法論の部分の疑問はある程度解消できる。もちろん、今後の課題としての追加実験は必要だが、正しい作法に則った実験結果の論文であるといえる。

さてさて、本稿で緑茶サプリを取り上げたのは、緑茶を飲んでいる日本人はすばらしい的な話をするためではない。

どちらかというと、水素水、的な。

突然ぶっ飛んだ話をはじめたい。

3.11やSTAP細胞問題を通じて、僕等は報道や風説に振り回されてきた。

その結果学んだのは、科学的な道筋で考えることとエビデンスに基づいて議論することの大切さだ。お婆ちゃんの知恵は、わりと科学的根拠があったりするが、それでも精査してから飲み込んだほうがいい。育児に関しては、20年前、30年前の常識がまったくひっくりかえっていたりするので、親の言うことすら盲目的には従えない。

ところが、僕等がいくら真面目に考えようとしても、参考文献へのリンクすらない情報がメディアからは流れてくる。一方でそれをゲラゲラ笑い飛ばせるメディアも存在しているのはありがたいことだが、さらに古くからある口頭伝承の類だと、やはり古くからある噂話レベルの情報が流れてくる。

近親者からですら「ちょいと、お前さん、これダウン症にいいらしいじゃないかい?知っているかい?」と言った情報が流れてきて、いや待てもう少し精査してから流してくれないかということがある。

それは、水素水なんじゃないのかい?

しかし多くの障害児の親からすれば、水素水がただの水であろうが、試しに飲ませてみようかくらいのことは思ってしまう。ただの水でも、もしかしたらちょっとくらい気の利いた水かもしれないと、かすかな期待をこめて。

期待してしまうのだ。

「期待値って知ってる?」「もちろん、知ってる知ってる」と答えながら、宝くじを買うのをやめられない僕も、似たようなものであるのかもしれないが。

あ、ちなみに、何度か息子に宝くじを選ばせてみているけれど、今のところまったく当たっていないので、ダウン症の子供が特別な力を持っているというのは嘘だと思う。

(2016年7月13日)


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