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周りは困っているけど本人は困っていない、こんな時、通級担当の先生はどうする?

通常学級ではトラブルメーカーとされているけど、本人に困り感のようなものがない上に、通級という個別の学び環境ではトラブルはおきないということもあるでしょう。しかも担任の先生からは「通級でしっかり見てやってください」と言われてしまうことも。表題のような通級担当の先生の研修会で出た実際の質問について少し考えてみたいと思います。

行動上の問題は個人に内在するのではなく環境との相互作用にある

このことは行動分析学でも、チャレンジング行動(challenging behavior)の考え方でも常識といえます。

最悪でしかもよくあるパタンは、通級の先生にしっかりと「自己理解教育」をしてもらって、その子どもに自分のよくないところに気づかせて反省させてほしいというもの。これではせっかくの通級教室が反省教室になってしまいます。

まず、通常学級の中でなぜ行動上の問題が生じているのかを担任の先生から情報収集し、授業にはいらせてもらい、その行動の生じる環境要因について仮説立てをする必要があるとおもいます。

例えば授業中の"頻繁な質問行動゛であれば、それはどんな時に生じやすいのでしょうか。また生じにくい環境はないか、先行条件を探ることから始まります。

それ以前に、その行動が質問してよい時であれば望ましい行動であることにも注目する必要があるでしょう。ちなみに大学院(私の授業ですが)では教師に食いついてくる質問は歓迎されます。頻繁な質問行動はやめさせるべき行動ではなく、適切なタイミングで生じるように教えることが大事になるでしょう。

行動が生じてからそのことを注意しても、その行動が繰り返し生じてしまう、ということであれば”注意される”という刺激は本人の行動の抑制には寄与しておらず、むしろ質問行動を強化しているかもしれません。また質問行動を強化している他の要因を探っていった場合にも、自分の質問に自分で答えて納得!など、強化機能が行動に内在化されていたりして、行動の後の環境操作だけでは制御しにくい場合もあるでしょう。

行動の前の先行条件としての環境を変える手段としては、例えば先生の机にマイクのアイテムが出ているときは質問OK、静かに聴くべきときは耳のアイテムを出しておくとか。それでも質問したいときはカードに書いて先生に渡す行動にするとか、そもそも先生の説明が長くてわかりにくいので短く切るとか、素朴に通常学級の学びの環境を変えるアイデアはいろいろあると思います(書いてて思ったのですが、ネットの方がこういった環境調整はやりやすい場合もあることに気づきました)。

通級教室の担任から通常学級の担任の先生に”環境設定の変更の必要性について提案する"

この記事の表題になっていることを質問された研修会で私が申し上げたのは、通級教室の担任から通常学級の担任の先生に環境設定変更を提案しては、ということでした。

もちろん日本の学校文化ではやりにくいのかもしれません。実際にやるとしたら通常学級の担任の先生との関係性に気を使いつつ話し合いをするか(正しい連携)、外部の専門家や巡回相談の先生から言ってもらうということが多くなるのかもしれません。

通級による指導の担任教員の役割の一つとして連携が大事とは書いてあっても、ストレートに通常教室の環境設定の変更提案が重要ですよ、とはあまり手引書には書かれていないように思います。どっちかというと子どもをアセスメントすることばかりが強調させていて(もちろんそれも重要ですが)環境をアセスメントしろとはあまり強調されていません。

通級による指導が、通常学級のスタンダードからはずれた子ともを立て直す場としてのみの機能だけに留まるならば、”特別支援学級へのつなぎ”としての消極的な場となってしまうだろうと思います。

通級指導の先生たちが果たすインクルーシブな学校づくりへの役割

研修会に参加した先生たちは教職5年以上のベテランの先生たちでした。通常学級の環境設定の変更提案は、これらの先生たちならできるんじゃないかと思いますし、インクルーシブな学校を目指す重要なカギとなると思います。

これは通級担当の先生にとどまらず特別支援教育に携わる先生たち全体の役割と言えるのだと思いますが、通常学級の環境改善こそインクルーシブな学校に変わっていくための作業の根幹であり、これを提案することが大きな役割と言えるのではないでしょうか。

みんな一緒に学ぶ、という場の共有だけのインクルーシブではそれぞれの教子どもたちの教育ニーズに応えることは困難であり、多様な価値や学び方を実現することにはつながりません。通常学級は”受け入れる”ではなく"変わる”ことが今求められているのではないでしょうか。

週当たりの限られた通級の指導の時間の中だけで、多くの困難は解決しません。通級の先生からの提案の重視を浸透させていくのは、学校管理職や教育委員会の役割ではないかと思います。







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