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「天城山からの手紙 44話」

猫越から続く林道を、2時間弱ほど歩くだろうか?冬になると、全面凍結する伊豆では珍しい、芭蕉の滝と呼ばれているところがある。冬に訪れると、圧倒される氷瀑に心を躍らせるのだが、聞き伝えによると、滝の上部へと動物を追い込み、最後はそのまま滝の下へと落として狩りをしていたらしい。下から上を眺めては、そんな様子を想像すると、ブルっと体が震えてくる。しかも、近くで柱状節理の切り立った肌をまじまじと見ると、こんなところに落ちたらひとたまりもないなぁと、直ぐにわかった。そして今、自分の立つこの場所で、生きる為に行われていた命のやり取りに敬意を払い撮影にかかったのだ。時間もお昼を過ぎる頃で、太陽も滝の上部に丁度差し掛かるころだった。流れ落ちる水の筋に、段々と太陽の斜光が交わり、渓谷のハーモニーを奏でている。無数の筋は、それぞれが規則正しく曲線を描き地上へと着地する。そして一粒の水滴が、着地と同時に最後の音を飛び跳ねて鳴らすのだ。そんな光景を楽しんでいると、ある存在に心を奪われた。それは、険しく切り立った柱状節理の陰に、しがみ付くように生きている小さな草。どうしてそんなところに?どうやってたどり着いたの?そんな思いが木霊した。確かに、その存在は小さな命なのかもしれない。たけど、生きる力はその場所の誰よりもあった。何時もながら、また、”生きている”というありがたさを痛感したのだった。そして、心の音に逆らうことなくシャッターを押した。   

掲載写真 題名:「自分の住処」
撮影地:芭蕉の滝
カメラ:Canon EOS 5D Mark III EF70-200mm f/2.8L IS II USM
撮影データ:焦点距離200mm F16 SS 0.8sec ISO100 WB太陽光 モードAV
日付:2014年5月24日 AM12:11


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