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「天城山からの手紙 39話」

天城の森は思っているよりもずっと暗い。我先にと頭上へ手を伸ばし、その手の先に付けた沢山の葉を、空一杯に広げ太陽の光を皆が貪るからだ。長い年月、その競争をした森の天空は、パズルが完成したかのように隙間が無い。特に馬酔木の森は、晴天でも薄暗く、所せましと千の手が行く手をふさぐ。容姿形も似ていて、一度足を踏み入れると、まるで迷宮に迷い込んだように方向を失ってしまうのだ。もう何回も天城の森へ通っているが、知らない馬酔木の森へは、足を踏み入れたくない。実際は、3mも進めば次の開けた場所へ行けるような場所でも、いざ目の前にすると、永遠と続く迷宮の入口だろ勘違いしてしまう。最近は特に馬酔木の成長が激しく、年々、森の形相が大きく変わってきている。もう数年もすると、いたるところで馬酔木の壁が立ちはだかり、どこもかしこも迷宮になってしまうだろう。しかし、命は永遠ではないという事を森は教えてくれる。どんなに大きく強い者も、いつか終わりが来るのだ。そんな日は突如と訪れ、倒れた者のパズルのピースは欠け、森の空へと穴を空ける。ここぞとばかりに陽は差し込み、一時の輝きを森に放ち、地を温める。そして、倒れた者は、初めて光を体に浴び、ゆっくりと永い時の疲れを癒すのだろう。でも、そんな時間も直ぐに終わってしまうのかもしれない。なぜなら、温められたその場所では次の戦いが始まっている。いつかまた、この空いた穴は、戦いに勝ったものが手に入れ、また陽を貪り、森の命は繋がっていくのだ。

掲載写真 題名:「一時の安らぎ」
撮影地:手引頭付近
カメラ:Canon EOS 5DS R EF16-35mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離19mm F14 SS 1/50sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2016年5月20日AM5:32


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