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天城山からの手紙

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伊豆新聞で2018年10月より連載スタートした、天城山からの手紙-自然が教えてくれたことのアーカイブ記事になります。加筆訂正をし、紙面では正確に見れなかった写真も掲載。
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2020年11月の記事一覧

「天城山からの手紙」32話

「天城山からの手紙」32話



何年も天城に通っていると、感情が慣れてくるのだろうか、純粋なトキメキも少なくなっていく。日常の中でも、人間の”慣れ”とは誠に恐ろしいもので、喉元すぎればなんとやらという様に、どんどん忘れ去っていってしまう。私は、そんな時、なるべく自分をリセットし、初心を思い出すようにしている。撮り始めた頃の写真を見ては考え、自分が天城を撮影する意味を想い直す。もう歩くのが嫌で、暗い中も行きたくなくて、寒いのも

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「天城山からの手紙」31話

「天城山からの手紙」31話



5月のGWも過ぎる頃に、万次郎万三郎付近では石楠花(しゃくなげ)が咲き誇る。このシーズンだけは、登山者が押しよせ道も大変混雑する。登山道に列をなして歩く様子は、普段ほとんど人のいない天城ではとても新鮮た。今回の写真は、知る人は知る1本で、天城の石楠花の中でも特にすばらしい存在となる。しかも、5-7年周期でしか花芽が多く着かず、春先に芽を確認しては、その年の予想を立てるのだ。この年は、5年ぶりく

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「天城山からの手紙」30話

「天城山からの手紙」30話



この日は、森に風が霧のベールを繰り返し運んで来た。目の前にスーッと現れる魔法の衣は森の住人に次々と命を与えて行く。衣を纏うと、そこかしこから話し声が聞こえ、特別な瞬間を喜び勇む姿に、目を奪られた。そして、直ぐにまた風が衣を剥いで何事もなかった様に日常の光景へと変わる。本当に、こんな日は滅多にはなく、それに出会えた事への感謝が溢れ出していく。天城はこの霧に包まれた光景が、素晴らしく、光との共演が

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「天城山からの手紙」29話

「天城山からの手紙」29話



地を照らす真っ赤な光の道が森に差した時、体に走った興奮はまだはっきりと覚えている。遠く万三郎から顔を出した太陽が、一瞬の情景を作り出す。蒼い時間を撮影していた私は、急に訪れた光景に頭をフル回転させ、急いでシャッターを押すが、あまりの速さに打つ手がない。そして、3分ほどだろうか?この光の道はなくなってしまったのだ。急に現れる自然が作る光景は、何時もこんな感じで、何回来たら、納得のいく写真を撮らせ

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