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つまりは女って、だんだん生きやすくなるよねって話。

恥ずかしながら言おう。いや、たいして恥じてはいないが、あえて言おう。
私はワキ毛がない。
生まれてこのかた、ワキ毛が生えたことがない。
したがって当然剃ったこともない。
世の女たちが寄り目になりつつ日々ワキ毛と格闘していることすら知らなかった、あれはそう、学生時代の夏の日。
待ち合わせた女友達に、白いノースリーブで手を振る笑顔の私。制汗スプレーのCMのような颯爽たるワンシーン。しかし女友達はいきなり、
「ねぇッ!ワキの処理何やってんの?!」
とすごい形相で詰め寄って来た。
「…ワ、ワキの処理って?」
警戒心からか、思わずワキをパコッと締める。
「だから剃ってんの?抜いてんの?それともあれか、エステか。永久脱毛?何でそんなにツルツルなの?!」
鼻息の荒い畳み掛けに恐縮しつつ、
「……やってません。」
濡れ衣を着せられた取調室の被告人のような自白。
刑事さん…自分マジで知らないんっすよ。
しかしその場は、女優が美の秘訣を聞かれて「何もやってないんですぅ〜。」って言った時のヒリついた空気感になった。
それで初めて、ワキは処理するものだと知った。
実はワキだけでなく、私のボディは不毛地帯。
そもそも毛を処理するという概念を持ち合わせていなかったのだ。
体毛においては無垢だった私。
そうこうし、体毛無垢なままで女盛りを迎えたある日。
当時の彼氏と真夏の夜の夢。
寝そべる私の背中を見た彼が、ぽつりと言った。
「うずまきがある…。」
え?なに?なんつった?
なんか巻いてんの?なにが巻いてんの?ねぇッ?
突然の謎の囁きに、よよよと揺れる心。
どうやら不育不毛の地と思われた私の身体だが、背中にふああ〜と産毛が生えているらしい。つむじ状に。しかも密度高め。今なら言うね、密です!って。知らなかったよ。だって見えないもんね!
天は二物を与えず。ワキではなく背中に試練を与えなさった。
しかし彼女の背中が出走馬でも、嬉々とした表情を浮かべる彼に違和感を覚えるサラブレッド早野。
「ナルトだ!」
要するに、背中にうずまきなアニメの主人公がいて、そこにすごい力が封印されてるってばよ!って話。
「なぁ、実は不思議な力とか持ってないの?」
夢物語か?そうなのか?
これ九尾のチャクラちゃうで。ただのらせん状のムダ毛だってば。
それから、私とせな毛の熱い戦いが始まった。
せな毛の処理はともかくやっかいだ。
だって見えないもんね!
暗闇でエイッ!ヤアッ!と刀を振りかざすようなもの。さらに背骨の微妙な出っぱりにカミソリが引っかかる。生傷が絶えない。
神よ…。こんな事ならワキ毛を授けてくれた方がよかったぜ。
低レベルでも、隣の芝はやはり青い。
水着を着たり、背中の開いたホルダーネックを着たり、まだアデていた頃。
私はついぞ「背中を丸め、そのカーブに沿い、下から上へカミソリを流す」という妙技をあみだした。逆転の発想!
これであやかしの毛を封印していた。
しかし、背中は痒い時にしか存在を感じない今、戦いは終わりを迎えている。
女剣士はT字の刀を置いたのだ。
あのうずまきがどうなっているのか、もはや知るよしもない。
つはものどもが夢の跡。


















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