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「調整文化」と「挑戦文化」

別々に起こる個々の現象を、同じ価値観という根から生じる「文化」として捉えることで解決の道は開く

急を要する事態が私たちの周りに生じているにもかかわらず、それに対応する行政の初動が信じられないくらい遅い、という困った現象に私たちは付き合わされています。
こうした現象のそれぞれに問題を感じながら個別に対応を繰り返す、というのが今までのやり方です。

しかし、よく考えてみれば、さまざまな現象は、別々に起こってはいますが、その根は共有しているのです。起こっている諸現象は、「価値観の集合体」である「文化」がもたらした結果です。したがって、さまざまな現象を本当の意味で変えようと思えば、個別対応ではなく、根に潜む価値観そのものを転換させることから始めなくてはなりません。

日本の社会が伝統的に引き継いできている人と人が互いに空気を読み合う関係性の正体は、多くの日本人が当たり前に身に着けている「共感力」にあります。この共感力は両極端の特異な作用を私たちにもたらしています。

そもそも、日本人が互いに「甘え」の関係性を持つ、ということは以前からよく言われてきたことです。確かに私たち日本人は、互いに相手の中に自分と同じ何かを見つけようとする傾向が、明らかに他国の人よりも強いと感じます。こうした性向を「共感力」と定義しています。

この「共感力」は、油断するとマイナスに働き、同調圧力を呼び起こします。忖度もまたしかりです。ところが、プラスに働いて互いの強固な連携を生み出すのもまた「共感力」です。個々人の100m走のタイムでは劣っていても、4人のチームで走る400mリレーだと抜群の強さを見せるのが日本人なのです。

しかし、この「共感力」は、油断していると単なる同調圧力にとどまらず、定常運航と守りに抜群に強い思考を生み出していきます。それは、組織の中での立場と役割を全うすることによって、組織の安定性を生み出そうという組織文化につながります。この安定を重視する組織文化が「調整文化」です。

調整をお家芸とする日本独自の「文化」であり、予定調和で調整を押し進める、守りの強さが特徴の日本古来の伝統に根付いた「文化」がそれです。この「調整文化」が持つ安定力が日本の経済成長を支え、大きな影響を及ぼしてきたことは間違いがありません。
とは言え、それだけで戦後日本が発展してきたわけではありません。守りを強める一方で攻めることが必要になります。そこに作用するのが、共感力がもたらす「連携する力」なのです。

日本を先進国へと導いてきた原動力は、プロフェッショナルな挑戦力と強いチームワークが売り物の攻めの体質です。この体質はリスクを取って困難に挑むことから、「挑戦文化」と呼んでいます。

こうした同じ「共感力」という根から発した、性格と価値観をまったく異にする二つの「文化」がせめぎ合うことで急速に発展してきたのが戦後の日本なのです。

そして今、私たちが抱えている問題は、合理化の波が押し寄せた平成の時代を通じて、挑戦文化の力が弱まり、調整文化が世の中の趨勢になっている、という事態が起こってきたことなのです。

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