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趣味って、何ですか?|2024,Week27.

あなたは趣味というものを持っていますか? 人に聞いておいてなんだけど、僕にはこれが趣味だ!と言えるようなものはもってはいない。

こうしてエッセイのような、よく分からない文章を毎週公開しているけれどこれを「趣味」と言われると違うと思ってしまう。読書や映画鑑賞もそうだ。仕事や何か勉強するための情報収集が中心なので、ゆっくりと豊かな時間を過ごすもの….というより、お腹を空かせた子どもが食事を貪るような読み方・観方をしている。内容が思っていたのと違えばすぐに読み飛ばすし、別の本や映画に移行する。倍速も当たり前。むしろ僕は積極的に使用している。

趣味という言葉が自分の心を落ち着け、純粋な楽しみとして行われるもの…という意味で使われるのであれば、読書や映画鑑賞はとてもじゃないが、趣味とは言えない。だからか僕は、趣味に対する憧れが人一倍、強いと思う。これまで、いろんなことをやってみようと思った。絵を描いたり、楽器を弾いたり、釣りをしたりとかプラモデルを作ったりとか。でも、どれも続かなかった。ここ数年「推し」という言葉が使われているのに乗じて、推し活を考えようとしたこともあったけど、結果的に推しなんてものは見つからなかった。推しよりも先に、「自分自身を推してあげたい」と思ってしまうから。

例外的に散歩をするとかコーヒーを飲むとかは日常的にやっているが、これはリフレッシュのための行為であって趣味とはいえない。旅行は唯一、趣味と言えそうな気もするけれど、別にそんなに頻繁に行くわけではないから、これも趣味とは言えないと思う。結局、今に至るまで「僕の趣味はこれ」と言えるものが全く無いまま。うーん。ここまで自分で文章を書いていてなんだが、面白みに欠ける人間ですね。


『無趣味のすすめ』村上龍

そんな折、一冊の本を見つけた。その名も『無趣味のすすめ』。著者は『限りなく透明なブルー』や『コインロッカー・ベイビーズ』でおなじみの村上龍。この本が僕を慰めてくれた。そのうちのいくつか、引用したいと思う。

子どものころから文章を書くことは得意だったが、好きではなかった。もし自分が小説を書くことが好きだったらどうなっていただろう、と考えることがある。もし好きだったら、たぶん日常的な行為になっていただろう。つまり小説を書くことが自分にとって特別なことではなくなっていただろう。もしかしたら小説を書くことそのものに満足を覚えるようになったかも知れない。執筆が日常的行為と化すこと、書くことそのものに満足すること、いずれも予定調和に向かう要因となる。わたしにとっては忌避すべきことだ。

『無趣味のすすめ』(P.15)

庭を眺めながら、盆栽とか家庭菜園とか蘭の温室とか、心を無にして植物に接することができたらどんなにいいだろうと思った。(中略)
でもいつか盆栽を始めるときが来るのかなと、今でもときどき考える。そのときわたしは小説を書くのを止めているだろう。その想像は決して悪いものではない。盆栽は案外すごい世界で、きっと奥が深く面白いだろう。でも、そうなったら、おそらくわたしは盆栽の小説を書き始めるのではないだろうか。そして盆栽の小説を書き始めたら、たぶん盆栽は止めてしまうのだろう。

『無趣味のすすめ』(P.118)

特に後半の内容は、ハッとさせられた。村上龍に言わせれば小説を書くことは「好きという言葉の枠外にある。(P,14)」。好きとか嫌いとか、そういう主観的なエモーショナルな次元に留まらず、自分のアイデンティティや存在意義として「小説を書くこと」を捉えている。言葉少なにまとめられているものの、そのような仕事に対する矜持が、これらの言葉から感じ取れる。

もちろん、趣味の有無と仕事への向き合い方は人それぞれだろう。趣味があるから仕事を頑張れるという人も多くいる。むしろここ数年のトレンドは趣味の多様化で、生活の質向上といった従来の仕事観に対抗するような「ワークライフバランス」が主流になっていると思う。僕自身も意識的にか無意識的にか、そのような生活を求めていたのかもしれない。

あくまで、自分を取り巻くモノ・コトをどのように解釈し、取捨選択していくかどうか。ワーク・ライフ・バランスも良いし、ワークアズライフでもいい。もっと先を見据えれば「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方だってある。


ビバ!無趣味

その意味で言えば、僕は「これが趣味だ!」と言えるようなものは持っていないけれど、全てがつながっているようにも思える。このエッセイだってそう。文章を書くことは今の本職の仕事に通じるものがあるし、テーマを決めるために普段から本や映画を観ている。案外、そうやって気楽に構えているほうが、何かと融通がきくのかもしれない。

でも、やっぱり自分の趣味みたいなものには憧れてしまうな。これ!という趣味があるほうがなんとなく、面白そうに見えるでしょう? 



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