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ヨーロッパ旅行記6〜路面電車に轢かれかける〜


アパートメントの鍵を受け取った僕は、ホステルを出発してさっき歩いてきた道をそのままもどって行く。もうとにかく早く休みたい。鍵も受け取ってチェックインの手続きも済んだので、あとはアパートメントに着けばようやく休める。僕は観光客とは思えないほど下を見ながら町を歩いていた。何も考えないようにしてただひたすら歩く。雨が降りそうだ。北ヨーロッパは8月末から一気に冷え込んでいた。

考えてみると朝ごはんを食べてから何も食べずに電車に数時間揺られ、知らない街を数時間歩いていた。もうすっかり夜である。食料を買う気にすらならなかった。ご存知の通りこの旅は貧乏旅であり、さらに僕はチェコの通貨を持っていない。そもそもチェコの通貨がなんなのかも知らない。アパートメントに着いたら、バックパックに入っているあまりのパンとサラミでも食べよう。今までドイツで毎日3食食べていたのだから1日くらい大丈夫だ。

プラハでは路面電車が走っていた。これもプラハに行って初めて知ったことだった。広島市も路面電車が走っている。2つの都市の意外な共通点を見つけた。路面電車用の線路が道路にある。
ドイツやプラハでは道路を斜め横断する人が少なからずいた。日本以上はいたと思う。ヨーロッパ全体として斜め横断は当たり前のもののように感じた。
若い男性2人組が斜め横断を始める。僕も左右を確認して2人組のあとを続いて斜め横断を始める。彼らが現地の人なのか観光客なのか分からないが2人で楽しそうに話しながら歩いている。僕はその2人を早足で抜き去る。下を見ながら。すると後ろから声がする。何やらさっきの2人組が僕に大声をあげているようだ。どうせろくなことを言ってない。ドイツでも向こうから声をかけてくる人間はいたがろくなことがなかった。無視する。だがまだ彼らは叫んでいる。異変を感じ、顔を上げた僕は右を向く。数メートル先に路面電車がいる。僕に向かって走ってきている。僕は路面電車の線路を横断している途中だった。路面電車が近づいてくる。クラクションの大きな音が響く。

間一髪、僕は衝突を免れた。本当に危険を感じた時に人間はあんな動きをするのだと初めて知った。なんとか前のめりになりながら体が前へ動いてくれた。久しぶりに死の危険を感じる経験をした。くたくたの体だったが人間の体はすごいものだ。ちゃんと信号を渡ろう。そう心に決めた。

疲れている上にこのようなことも経験してさらにドッと疲れたが、渡り終えたあとすぐに気持ちを切り替えまたすぐに歩みを進めた。とりあえず休みたい。その一心でアパートメントに向かう。

7へ続く。


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