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番外編「とある少年の物語」

これは平成最後に起きた、とある少年の物語。

少年は、当時22歳、中学受験を経て、中高大一貫校に入学、部活動で弓術部のキャプテンを担っていた。この物語は、少年にはあまりにも酷な体験であったが、この苦しい経験がその後の少年の考え方、そして未来を大きく変えることになった。当時の少年には、その経験が今後に活きていくとは知る由もなかったが。。。

少年は、大学3年次の11月に弓道のリーグ戦が終わり次第、就職活動に尽力しようと決めていた。理由は2つあり、人生を決める一大イベントであること、そしてここまで自由に育ててくれた両親へ恩返しの想いを込めて、懸命に就職活動へ取り組むつもりであった。

少年はリーグ戦が終わってすぐに、就職活動を始めた。数々の OB〜訪問して、右も左もわからない中で、活動の方向性を模索した。模索には多分の時間を要し、弓道へ時間を掛けることが非常に困難な状況下となった。当時少年は、それは当然のことで致し方ないと割り切っていた。しかし、周囲の理解は得られなかった。周囲の人へ自身の想いを説明しようにも周囲からは「なぜ弓を練習しないんだ、お前は何を考えているんだ」の一点張り。少年には、自分は他の人より努力できるという自負もあり、他者に説明して理解してもらうことを諦め、自分の人生なのだから自分で決めると強固な姿勢を取るようになった。少年の就職活動は極めて順調なスタートダッシュを切った。大手の会社から多数のインターン合格をいただけ、波に乗った活動となっていた。少年の強固な姿勢は、波に乗っていたこともあり、益々加速していた。そんな中、少年は大学4年次の2月に監督に呼び出された。少年は、また怒られるのか適当にやり過ごそうといった意識で、監督の元へ向かった。監督に会うと、監督から「最近はどうだ?順調か?」といった温かい質問から会話は始まった。少年は、いつもと違うな、もしかしたら自分を理解してくれたのではないかと期待してしまった。温かい質問の次は、「お前も大変だろうから、部でバックアップするよ、もっと副キャプテンなども頼って頑張っていこうよ」と続いた。少年は非常に嬉しい気持ちとなり、「もちろんです、ぜひ頼らせていただきたいです。」と前向きに返答した。少年は、部での不安が解消された、今まで以上に弓道も就職活動も頑張ろうという前向きな決意を胸の中でして、その日を終えた。

後日、部のOBへ訪問している際に1通のLINEが少年の下へ届いた。「お前、主将辞めるらしいな、皆の前で、自分で説明して」という副キャプテンからの連絡だった。少年は連絡を見た瞬間、何のことかもわからず、非常に戸惑った。しっかりと内容を確認すると、それはこの前の監督との面談で自分が主将交代を進言したといった内容だった。少年は衝撃を受けた。自分をより前向きな気持ちにしてくれたあの面談は、実は自分を陥れるためのものだったのだと知ることになった。少年は OB 訪問中ながら今後どうすればよいのかわからず、号泣した。OBとその場で談義して、誠意を伝えて、またキャブテンをやらせてもらうしかないという結論に至った。自宅で両親に相談した際も、同様の結論であった。少年はそこからひたすら謝った。「申し訳ございません、もう一度チャンスをください」とひたすら繰り返した。毎日、弓を練習するという約束もした。ここから少年は地獄のような日々を送ることとなる。自宅からの始発列車に乗車して、早朝に弓道をして、面接やインターンへ向かうといった過酷スケジュールが続いた。それでも、周囲からの冷ややかな反応は続いた。正直、少年はこの時点では自分の何がいけないのか理解できていなかった。ましてや自分に厳しい LINEを送ってきた副キャプテンは遅刻の常習犯、留年もしているそんな人間が正となっている現実が受け入れられていなかった。

過酷なスケジュールを耐え抜き、少年は大学4年次の6月1日に無事就職活動を終えた。少年は、就職活動を終え、晴れやかな気持ちだったが、部からは「やっと終わったか、、、」ぐらいの反応を受けた。それでも少年は主将としての務めを全うしようと自らを奮い立たせ、部活動へ懸命に取り組もうとした。そんな矢先の同年6月8日、少年を悲劇が襲う。少年は左手を骨折した。何気ない道を歩いていたら、突然カラスに襲撃され、逃げている最中に転倒し、骨折してしまったのだ。「あり得ない、なんで自分なんだ、これからなんだぞと」、少年は落ち込んだ。左手が折れている以上、弓道の練習はできない。その中で、少年は何かできることはないかと必死に考えて、雑用や後輩指導などできることをなんでもやった。
普通に練習できる部員より、道場に滞在し、自分ができる範囲のことにとにかく取り組んだ。少年は骨折の状況で取り組んでいるうちに、ある変化を感じていた。それは周囲の人からの反応が温かくなっていっているということだった。練習もできないが雑用等に懸命に取り組む少年の姿を見て、周囲の少年に対する見方が変わっていったのである。少年はこの経験を基に、なぜ就職活動機にあそこまで怒られ、信頼を失ってしまったのか過去の自分を振り返った。少年は、それは相手に寄り添う姿勢がなかったから人の信頼を極度に失ったのだと確信した。対人である以上、相手には考えや感情があり、その相手を尊重する姿勢がなければならないのだと明確に認識した。少年は、自分の人生なのだから勝手にしてもいいだろという完全自分中心の行動、骨折をして相手を尊重して取り組むしかない状況で懸命に取り組んだ完全相手中心の行動、双方を経験したことで相手を思いやることの大切さを学ぶことができた。就職活動の時も、カラスに襲われて骨折した時も、「なんで自分なんだ」と少年は思ったが、間違いなく双方の経験をすることが少年の人生にとっては重要だったのだ。

少年は現在、株式会社に入社して、同期や後輩に恵まれ、素晴らしい関係を築きながら生活をしている。少年は、大学時代の一見いじめに近い就職活動時やカラスによる骨折がなかったら、周囲とここまで素敵な関係は築くことはできなかったと静かに語った。

この平成最後に起きた物語が少年を大きく成長させ、少年のその先の人生を明るくしたことはもう言うまでもないだろう。少年の人生には、この先も多くの困難が訪れることかと思う。しかし、この少年ならどんな荒波をも超え、成長していってくれることだと確信している。少年の今後の成長を祈念して、ここに筆を置くこととする。

2022年3月29日 記

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