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iPhoneの名付け親。アップルのThink Differentキャンペーンを生み出した広告業界のスーパースターに話を聞いてみた

アップルが爆発的に人気になった背景にはThink Differentという広告キャンペーンがありました。このキャンペーンで「Macを使うことは人と違った考え方をするクリエイティブな人間だ」というメッセージを人々に伝え、爆発的な人気を生みました。そのキャンペーンを仕掛けた広告業界のスーパースターで、iPhoneやiPodの"i"シリーズの名付け親でもあるケン・シーガルから直接話を聞く機会がありました!

雅彬:まず初めに、広告業界を志したきっかけを教えてください。 

ケン:大学時代に受けた適性検査では広告業界が合ってるって結果が出たんだが、大学では広告を学ばなかったんだよ。大学卒業後はミュージシャンになる夢を追っていた。それから7年経ってようやく広告業界に入ったんだ。広告業界に入ったのは、当時広告業界で働いていた古い友人が助言してくれたからなんだ。そこで、ロスアンゼルスにあったChiat/Dayというアップルの広告を行っていた広告代理店のプロダクション部門での職を得た。その時になって初めて、クリエイティブ部門なんていう部署があることを知ったよ。夜間学校でコピーライティングの基礎を学び始めたのもその頃だ。そしばらくしてニューヨークに移りライターとして働き始めた。当時はSmirnoff Vodkaを担当していた。それからいくつかの広告代理店を経て、最終的にロスアンゼルスに戻ってアップルの広告を担当することになったんだ。

雅彬:当時、一番大変だったことはなんでしょうか? 
 
ケン:ライティングに関して自信だけはあったが、働き始めた当初は「コンセプト」が何かをきちんと理解していなかった。 広告キャンペーン全体のベースとなるコアのアイディアを練るのが非常に苦手だったよ。当時の上司に相談したら、「心配するな。引き続き書いてくれ。いつの日か唐突に分かる時が来る」って言われた。それから数年して、その意味が分かったよ。この経験から、時間を要する物事もあるってことを学んだ。本気で取り組んで没頭して初めて分かることがあるってね。

雅彬:ケンさんは広告業界での経験が豊富ですが、広告業におけるエッセンスってなんでしょうか? 

ケン:そうだな、人それぞれ違うだろうが、私にとって広告とは人々に売るべき物やサービスを認知させることだ。NPOであれば団体の活動を認知させることになるだろう。だから、広告にとって「メッセージを伝える」ということが非常に重要になる。そして、この部分こそが最も難しい部分でもある。なぜなら、メッセージはシンプルで明確かつ、人を引き付け記憶に残るものでなければならないからだ。多くの人がそんなことは簡単だと考え、勉強を怠りがちだ。しかし、実際には創造性と論理力の両方を必要とするんだよ。
 
 雅彬:本やカンファレンスなど色んな場所でシンプリシティ(簡潔さ)の重要さを強調しています。なぜシンプリシティが大事なのでしょうか? 

ケン:それは人間がシンプルな事柄を選択する傾向にあるからだよ。例えば同じことをするのに二つの選択肢があった場合、多くの人がよりシンプルな方を選ぶ傾向にある。シンプルであるというだけで魅力になるんだ。そして、より簡潔なメッセージほど、素早く理解してもらえ、評価もされる。シンプリシティ(簡潔さ)は製品、サービス、広告メッセージ、オフィススペースなど様々な場面で重要だ。

雅彬:多くの人が複雑なものはシンプルで簡潔なものより優れていると考えがちですね。現実にはシンプルなモノを創ることは、複雑なモノを創るよりはるかに難しいと思います。なぜなら、自分が創っているモノに対する深い知識がなければ出来ないからです。

ケン:組織の中いると私たちは自分たちの考えや能力を過大評価してしまうことがよくある。そして、自分たちが良いと思うことを人々に押し付けてしまいがちだ。だからシンプリシティを本当に理解したいのであれば、まずはシンプリシティが何なのかをきちんと理解し、素晴らしいアイディアを複雑にしてしまわないようにする必要があるだろうな。 物事をシンプルに保つためには、複雑にしないようにアイディアを守る必要がある。簡潔さを保つことは煩雑にするより遥かに難しい。

雅彬:人々にメッセージをきちんと伝えるためにはどういったことが重要でしょうか?

ケン:誰かに決断をしてもらうには、いかに簡潔かが鍵になる。シンプルに伝えることは何よりも大事だ。より少なく記憶に残る言葉を探すんだ。何かのメッセージを作るとしたら、余分な言葉は何か、絶対に切り落とせない部分はどこかを見極めることが大切だ。原則として、より多くのことを伝えれば、人々にとってより覚えることが難しくなる。

雅彬:これまでの人生で一番大きな学びは何でしたか?

ケン:そうだな、それは広告業界に入るずっと前に学んだ事だ。まだ私がロックバンドのドラマーをしていた時のことだよ。 ある時、有名なバンドだけが演奏出来るクラブで二日間にわたってライブをするチャンスを得た。だからリハーサルでは、観客が最も聞きたいであろう曲をしっかり準備していた。ところが1日目の結果は酷い有様だった。演奏の途中で人々は退場し、演奏が終わる頃にはすっかり誰もいなくなっていた。とても落ち込んだよ。そこで2日目は私たちが最も好きな曲を演奏することにした。その中には誰も聞いたことのない私たちのオリジナルソングも入っていた。結果は素晴らしいものだった。観客は熱狂し一晩中盛り上がった。この経験で学んだのは、もしもクリエイティブな世界で生きるのなら、まずは自分自身を幸せにしなければならないということだ。自分自身のやってることを好きじゃなきゃ、他人を熱狂させることなんて到底できない。

雅彬:シンプリシティのアイディアを人生に応用するためのアドバイスはありますか?

ケン: そうだな、大事なのは質問に優先順位を付けることだ。コミュニケーションにおいてより少ない言葉で明確に伝えることが鍵になるように、私たちの人生も限られた時間をどう使うかが鍵になる。全てを同時にやろうとすれば、どれもが中途半端になってしまう。だからこそ選択と集中が必要になる。ビジネスにおいて選択と集中が利益に繋がるように、私たちの人生においても集中は手助けとなる。例えば、家族や友人関係なんかも含めてね。
 
雅彬:20歳のケン・シーガルに電話をかけることが出来たら、どんなアドバイスをしますか? 
 
ケン:それはトリッキーな質問だね。アドバイスではないが、こんなエピソードがある。僕が初めて広告業界に入る際に作ったポートフォリオは、一つの製品に対して二十個も広告案を出したものだった。僕は誰よりもハードに働くし、良いアイディアが出るまで諦めないぞっていうメッセージを伝えたかったんだ。今振り返れば、それほどの強い思いが、なんとなく仕事している人達と自分を分ける明確なポイントになったって思えるよ。

これはスティーブ・ジョブスがスタンフォードでのスピーチで言ったことだが、「物事の意味は過去を振り返った時に分かる」んだ。ミュージシャンから広告マンに転身し、スティーブ・ジョブスと共に働くなんてキャリアは決して前もって予定して出来ることではなかった。今になって過去を振り返った時に初めて、全ての意味が分かる。私が人生でしてきたことは、自分の情熱に従うということだ。人生の選択においてお金を優先したことはなかった。情熱に従うことで、自分にとって本当に価値のあることが付いてくる。必ずしもすぐにとは限らないが、経験を重ねることで自分が本当に行きたい場所に導いてくれる。そうやって初めて自分がやっていることを心から好きになれるものだよ。

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