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店をオープンするまで / (13)造り込み(内装造作のプランニング)

内装造作の完成図は、物件を見てから具体的なイメージが湧いてきました。水道蛇口の位置が決まっていて、変更すると工事費が高くつく水回りに手を入れるつもりはありませんでしたから、半自動的に現況で蛇口のある一角を厨房に決めました。そこから厨房を基点にお客様の導線を考えて座席を決めていきました。

お客様が椅子を引いて着席して、くつろいで、また椅子を引いてお帰りになるという一連の動作を行うのに必要な実質の空間を確保したら、テーブル席は3席6脚が適切に思えました。標準規格の車いすとベビーカーは店内に入れるようにしたかったので、そのためのスペースを考えても3席が上限に思えました。

壁側はベンチシートがいいなと思っていました。これも物件を見てから湧いたイメージでしたが、お買い物袋や荷物をどかどか置けると使い勝手がいいかなと。サイドテーブルを置いて柔軟に動かせるようにしたらベンチシートをより広く使えますので、テーブルのイメージも一緒に固まりました。営業開始後、実際に荷物を置くのにもご利用いただいていますし、赤ちゃんを寝かせてちょっとお世話するママさんもいらっしゃいます。

奥の壁にはハイカウンターを。当初はここにハイスツールを置いて座席にするもよし、立ち飲みスタイルのお客様にもマッチしているかなと思っていたのですが、これはまったく的を外しまして、いまは物販棚にしています。椅子があったらそちらに腰をかけますよね(笑)。

トイレについては、現況から作り替えなければならないことが分かっていました。当時2か月前の2017年6月5日に区の生活衛生課へ行って営業許可をもらうための必要設備について話を聞いたときにトイレも指示を受けていました。お客様用の手洗い場はいつでも誰でも使える状態が必須で、物件の現況では便器の奥に手洗い場があって要件から外れていましたのでこれを改造することに。

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エントランスはスチール製の扉が残置物でついていましたが、店のイメージではなかったのでまるごと取り払って新しいものを作ってもらうことにしました。エントランスドアは外から店内がよく見えるようにガラス面を大きく取りたい思っていて、これは物件を見る前から考えていたことでした。知らないお店に入ろうとしたときにお客様が感じるこころのハードルはなかなか高いと想定していましたから、できるだけ店内がよく見えるエントランスにしようと決めていました(実は、オープンしてからお客様に「店内が丸見えだから入りにくい」とうかがったことも。いろんな観点がありますね。)。

もう一つ、物件を見る前からイメージしていたのがテーブル天板を白色にしたいという点でした。話が飛ぶようですが、コーヒーショップで使われるコーヒーカップの内側は白い色の物が基本です。これはコーヒーの黒とのコントラストを強調しておいしそうに見てもらうための視覚的な工夫なのですが、ぼくは2016年のころからカップは透明なグラスが楽しいなと思っていました。浅煎りのコーヒーはブラックでもグラスの脇から陽光が差し込むと本当にワインのような赤い色に見えることがあって、こうした色もコーヒーの楽しみの一つとしてご紹介したいと思っていましたので、グラスカップで透けるコーヒーの黒とテーブル天板の白い色とでコントラストを作ろうと思っていました。そも、店内は明るくお客様が入りやすい雰囲気にしたいと思っていたところ物件の壁には白いクロスが貼られていましたから、テーブルの天板を白くするのはこの観点でも親和性がありました。

この、白いテーブル天板を基点に、コーヒーなどドリンクを作るバーカウンターと客席にするメインカウンターの床からの立ち上がりイメージも決めました。色味は、ボトムのほうが暗い色だとどっしり落ち着いた雰囲気がでるというアドバイスをいただいてそのように。材料もいい風合いのものをご提案いただきました。そして立ち上がり部分の板目はヨコにしようとイメージしていました。板をタテに貼るあるいはナナメに貼るパターンもありましたが、ヨコに貼ったほうが落ち着いた、ゆっくりとした、そんな雰囲気を醸せそうだとイメージしていましたので、そのようにしました。

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これで内装造作はあらかた完成図を決められました。内装を考えるにあたって芯に据えていたテーマは、お客様の興味関心が自然とコーヒーに誘われていくようにする、ということでした。

コーヒーに誘われるこころの邪魔をする環境にはしない方針でしたから、シンプルなイメージですね。入店した瞬間に誰が店員か分からないとお客様が戸惑いますので、この理由からもぼくはエプロンをつけていますし、商品やインテリアのための雑貨などを山のように置いたりして、結果オーダーカウンターがどこなのか分かりにくくなるとやはりお客様が戸惑うので物品は少なくしました。

お客様の意識が自然とコーヒーに誘われて、自然とコーヒーに収斂していくといいな、それでコーヒーを楽しんでもらいたいなと考えていました。エントランスも、内装も、導線も、厨房も、お手洗いも、具現化することのすべてはお客様にコーヒーを楽しんでいただくことに帰結する、そんなテーマです。

一方で逆説ですが、お客様はそこまでコーヒーにのめり込まず、まさしく日常のお供にコーヒーを飲んでいる方が多いだろうという仮説ももっていました。とくに、店を構えることにしたこの場所は住宅街です。どこかにお出かけしたときに出会うよそ行きの店ではなく、日常の生活の中で出会う場所にある店です。

ぼくは、これは邪道あれは禁じ手といった自分の楽しみ方に手枷足枷アタマ枷(?)をつけられるのは嫌いです。翻ってそういうことを自分が誰かにするのも嫌ですから、自分の好きな楽しみ方をお客様に押し付けるつもりはありませんでした。お客様にはコーヒーに夢中になっていただきたいのですが、コーヒーに対していろんな温度感の人がいて、いろんな距離感の人がいて、皆さんそれぞれに楽しみ方がありますから、お客様の興味関心が自然とコーヒーに誘われていくような内装にしたいなと思っていました。楽しみ方はお客様のものですから。

誘いにこころ踊らせてくださる方、逆に一切反応なさらない方(でもコーヒーは好き)、その中間くらいの方。いろいろさまざまいらっしゃるはずだと考えていました。もちろん店主としてのご提案はするつもりでしたし、お望みでしたらコーヒー選びのエスコートをするつもりもありましたが、まずは、まずはお客様がどのようにお楽しみになりたいのか、それをコミュニケーションの中から知って、それに合わせてぼくが店主としてできることをやろう、そう思っていました。

こんなことを考えてそれを具現化するために、物理的な造作を造り込んでもらいました。

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