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店をオープンするまで / (12)造り込み(厨房と水回りのプランニング)

物件の賃貸借契約をして、鍵の引き渡しが済んで、いよいよ店舗の造り込みです。2017年8月に入っていました。

全体のスケジュールは6月の時点で一度引いていましたが、物件の契約を済ませたということは家賃が発生し始めたということです。いままで浪費していたのは自分の時間コストだけでしたが、これからは現実にキャッシュアウトが始まりますのであらためて開店日までのスケジュールをキッチリ引いてシビアに進めます。

店舗の造り込みから開店日まで待ったなしのスケジュールです。内装造作を誰にお願いするか、ドリンク作成関係の厨房設備やマシン、器具類などの選定、調達、それ以外の機械類、備品関係の選定、購入などやるべきことは多岐に渡りました。

2017年はそれなりに暑い夏だったと記憶していますが、店を造り込んでいくイメージを具体的にもつため、できるだけ物件に通って作業しました。それに、物件にずっと滞在していると時間帯ごとの人の流れを掴めますし、物件の前を通る街の方々とご挨拶ができればかるく宣伝にもなりますし、いままで閉まっていたシャッターが開いていることに気がついてもらえるだけでも意味がありますから、その時エアコンはなかったものの、できるだけ物件で作業を進めました。

まず、この段階での土台は内装造作です。内装、といっても床は理想的な残置物があって手配不要でしたし、壁にはきれいなクロスが貼ってありましたからそのまま。必要なのはうわものであるカウンターやテーブル、水回りの配管とトイレ関係などの造作でした。

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エントランスのドア、トイレの改造・造作、水回りの配管と、壁のある一面だけ天然しっくいを塗ってもらうことになったので、その部分の施工と造作材料の調達はこのときにご縁を得た住宅設計施工会社のライブハウス社さんにお願いしました。

カウンターやテーブルなど厨房と客席フロアの造作物は、ぼくの20年来の友人で家具職人・木工作家の宇野剛さんにお願いして、ぼくと宇野剛さんとライブハウス社さんでスクラムを組んで施工内容を固めました。

ぼくは同時並行で大型の機械類を選び決めていきました。これが決まっていないと造作の寸法出しができませんから造作が進みません。エスプレッソマシンはシングルのLA MARZOCCO LINEA-MINIを購入済みでしたから、これ以外の機械類・・・カウンター下に収めるコールドテーブル(冷蔵庫)、製氷機と、カウンター上に置く給湯器、グラインダー(コーヒーミル)を決めました。写真のラフ図は2017年6月17日の時点で描いていたものですが、この配置は2020年現在も変わっていません。コーヒーしかやらない店ですので厨房もシンプルで考えやすかったということですね。

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Excel方眼紙の図面は、施工に関係する皆さんに共有して施工の仕様書にしてもらうための正式なものです。

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機械類を決めたらつぎは電源容量です。機械ごとに使用する電力を調べて、現在の分電盤にきている電源容量で足りるのかを確認して、どこにコンセントを出すか、コンセントの形状はどうかなど・・・。電源容量の見積もりを誤ると営業中に停電しますから、それは事故になります。まったく幸いなことに、かつては会社の情報システム部門でハードウェア、ネットワークなどのインフラ系を担当していた時期もありましたし、会社の事務所が移転した際には引っ越し隊長を任されたことも手伝って、電源系は基本的な知識と経験がありました。

同時に浄軟水器の設置場所と、浄軟水器からコーヒーを作る機械類への配管。ただ、単純に水道の蛇口を付けてもらう話とはわけが違いますので、水道屋さんにまるっとお願いはせず配管は自分で考えました。電源と同じく水道配管もインフラですから、一度決めてしまうと致命的な誤りがあった場合においそれと取り返しがつきません。営業を始めたあとにインフラをどのように使うか一番分かっているのは自分ですから自分で考えました。

水回りについては過去に特別な経験はありませんでしたが、先輩のコーヒー屋の皆さんにどうしているかを教えていただいて、それと浄軟水器の説明資料を読み込んで、契約した物件の現況ではどうしたらいいかを考えました。外から引き込まれている水道の吐水口は位置が決まっていましたので、考えるのはそこからどう配管させるかです。

遡って2か月前には区の生活衛生課へ行って営業許可をもらうための必要設備について話を聞いていて、横浜市は軽飲食であれば洗い場のシンクは1槽でOKということと、厨房内にスタッフ専用の手洗い器が必要ということは分かっていました。

シンクは、物件に1槽型の残置物があってこれをそのまま使うことにしていましたので、シンクに出ている蛇口もそのまま使いました。シンクの脇にもう一つ別の蛇口がついていましたので、ここの水道吐水口をスタッフ専用の手洗い器と浄軟水器へ分配するプランにしました。

浄軟水器はエバーピュア社のハイフローCSRトリプル。販売できるであろうコーヒーの杯数から考えるとこのフィルター3本型のトリプルがオーバースペックであることは分かっていましたが、ここは見た目を重視して選定。

元々、このハイフローシステムはお客様から見えにくい位置に取り付けようと考えていました。科学の実験室を思い出させてしまう風体でもありますし、店内に醸し出したかった雰囲気にアンマッチだと思っていましたので。しかし、コーヒーなどドリンク作成のオペレーション効率をよくすることを最重要課題として厨房内に配置する機器類の位置を考えていくと、結果としてこのハイフローシステムは水道吐水口の直上にしか設置場所がありませんでした。

むしろお客様に観覧していただくかのような場所になりましたが、そうならそうで次善策として見た目のことを考えました。エバーピュア社のハイフローシステムはフィルター1本型、2本型、そして4本型もありましたが、ぼくの美的感覚では3本型のトリプルがしっくりときました。それに、店の営業を始めた当初はオーバースペックでも、トリプルの性能にマッチしたコーヒーの販売杯数をいつかは出せるようになろう・・・と自分に発破をかける意味ももたせました。

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さて配管ですが、壁に付いている銀色の丸い化粧パーツの位置が、外から水道が引き込まれている基点です。ここからスタッフ用手洗い器への経路とハイフローシステムへの経路を分岐させました。水道水をハイフローシステムに給水して浄水フィルターなどを経て浄水を吐水させます。そのあとはお客様にご提供する飲用水として浄水の蛇口を設けて、つぎに配管をバーカウンターへ回して浄水供給が必要なエスプレッソマシン、ホットウォーターディスペンサー(HWD=給湯器)、製氷機への供給口をつくることにしました。

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ちなみに、ハイフローシステムの下に黒い管が左右に一文字で渡っているのは水道水をバイパスさせるための経路です。普段は栓を閉めてあってこの経路には水を通さないのですが、万が一ハイフローシステムに障害があった場合にハイフローシステムへの給水経路を閉める一方、こちらのバイパス経路を開けてエスプレッソマシンなどに給水するためのものです。水道水には塩素などコーヒーからは除外したいものがありますので普段はそれらを浄軟水器で取り除いているわけですが、普通の水道水でもコーヒーは作れますので万が一の時にはこのバイパス経路を使って営業を継続します。

さて、浄水供給を受ける機器類の配置は、ハイフローシステムから近い順にHWD、エスプレッソマシン、製氷機ですが、浄水の供給順序は①エスプレッソマシン、②HWD、③製氷機としました。エスプレッソマシンが最優先です。

エスプレッソマシンは圧力を利用してコーヒーを抽出する機械で、その圧力を生んでいるのは水道圧です。ぼくが購入していたLINEA-MINIの場合、コーヒーを抽出するためのコーヒーボイラーはディフューザー(コーヒーの粉にお湯をかけるための吐水口)からお湯を出しながら同時にポンプから給水もして抽出圧力を一定に保っているため、給水圧力(水道圧)が下がると抽出圧も影響を受ける仕様です。

抽出圧が影響を受けるということは、抽出圧を利用して抽出するエスプレッソの味も影響を受けます。この圧力は基本9気圧(9bar)で設定しますが、これが10barになったり8barになったりするとエスプレッソの味が違うわけです。9barが「正解」というわけではありませんが、9barでおいしいと思ってお客様にこれをご提供したいと思ったエスプレッソの味が、水道圧が不安定という理由でブレてしまうのは絶対に避けたかったのでハイフローシステムから最初に浄水を供給する機械はエスプレッソマシンに決めていました。作業としても給水ホースをクロスして配するだけですのでなんらの障壁はありませんでした。

そして排水です。エスプレッソマシンはコーヒーの抽出時にもマシンの清掃時にも排水を伴います。そして製氷機からも排水がありますので、しっかりした排水経路が必要でした。とくに心配だったのはエスプレッソマシンから排水する熱湯による排水管(塩ビ管)の劣化でしたので、この排水経路には耐熱のHT管を使ってもらいました。金額は割高でしたが何年も使う物として考えたら造り込みの時にやるしかないと思い、水道屋さんにお願いしました。

この配管のプランを水道屋さんと浄軟水器のエバーピュア社の担当の人に説明して、過不足のないこと、不明点がないことを確認してもらいました。「このプランご自身で書かれたんですか、すごいですね、大丈夫です」とエバーピュア社の人に言ってもらったことで、営業を開始したあとも安定運用できそうだなと自信をもてました(配管プランについては・・・)。

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