ある長くて短い夢の話(23/01/31)

全くもって、やはり夢というのは不思議だ。物語はどこまでも仔細で、それに鮮やかな色彩を帯びている。さらには、とうの昔に忘れてしまっていたはずの人やものが、あたかもさっきまで握りしめていたかの如く登場したりする。

僕はいつもと同様に、その夢を現実まで手繰っておきたいと思った。架空の物語から抜け出て現実へと至る覚醒の過程で、その物語のできる限り多くを、覚えておくように試みた。しかしやはり、そのほとんどを道中に置き去りにしてしまったような気がする。現実に至った今、もはや首尾一貫のストーリーは存在せず、ただ感動や恐怖を伴った、映像の断片ばかりが残るのみである。
しかしなお、僕がこうして書き留めておきたいと願うのは、そこで起きた素っ頓狂な顛末への感動と、それから実際に今この世界のどこかに存在するであろう旧友との再会のためである。現実にある今、その長くて短い夢は、もう何度も見たもののようにも、そして同時に、空前のものであるようにも思う。全くもって、やはり夢というのは不思議だ。

物語は、どこかの高校のグランドから始まる。おそらく新入生であろう僕は、列をなして順に、バスケットボールをシュートしていた。体育の授業か、または部活の新入生体験のようなものだろうか。
おおよそ列の人は顔見知りであったが、何周かしたのち、後ろに見覚えのない男が並んでいることに気がついた。声をかけると、転校生という。(今考えると新入生に転校生があるはずはない)
その男は、色白で華奢な印象であるが、身長は僕より高く170センチくらいだろうか。陽気というわけではないが、落ち着いていて明るく話すタイプである。

(映像が切り替わる、または記憶の断裂)
大きな商業施設の立体駐車場にいる。外からは満々と太陽光が降り注いていて、照明も明るい。僕は誰か知らぬ友人と思しき男と小走りであるフロアを回りながら、談笑している。その男はバスケットボールをついている。部活の練習だろうか。僕らはまるで数年を共にした友人のように、仲良く何かを話している。
その時、ポケットに入れた携帯電話が鳴る。光沢のあるスカイブルーの折りたたみ式。僕はそれが、(実際に存在する古い、今はもう連絡を取らなくなった)ある友人に借りていたものであることを思い出す。借りた理由はわからない。(しかし何故か、青い携帯電話は実際にその旧友が身につけていた物であるように思われる。というか、夢から覚めた時、その事実にだけは、なぜか確信めいたものがあった)
電話には出ない。それは僕のものではないから。つまりそれは僕宛ての連絡ではないから。

(再びの暗転、もしくは断裂)
転校生に頼まれて、どこか知らない街へと行くことになった。彼の強い希望である。他に何人か、随行していた気がするが、もう思い出せない。僕はやはり、青い携帯電話を握っている。
それは長い旅であった。どうしてかわからぬが誰かに追われていたし、それに長距離を快適に移動するだけの金銭も持ち合わせていなかった。移動の過程で身なりはボロボロになった。
しかしその転校生は決して、長袖のズボンと靴、それに長い靴下(いつか流行ったルーズソックスのようなもの)を脱ごうとはしなかった。暑い車内でも、雨で濡れても。僕はその事実を訝しく思いながらも、強くは言えないでいた。
(長く街を彷徨ったような気がするが、その細かい描写はもうない)
やがて僕らは一軒の民家にたどり着く。転校生はずんずんと入っていく。それが目的地だと、僕は直感する。僕は彼の後を追う。一軒家は広い。僕は彼を見失う。2階へとあがる。順に部屋を確認して行き、最後に残された部屋に入った時、そこに棺桶があることに気がつく。
もう僕はわかっている。その中にさっきまで行動を共にしたその男が入っていることを。蓋を開ける。開けずにはいられない。するとやはり、彼はそこにすっぽりと入っている。
そこでようやく、僕は気がつく。彼が色白で華奢に見えた理由を。さらに、どうしても足元を隠した理由を。彼はもうこの世界には存在しないものなのだ。所謂、幽霊というやつなのだ。だから幾分際立って白く、また足のないことをバレるわけにはいかなかったのだ。

(三度の暗転、断裂)
僕は生家にいた。固定電話のボタンを押している。携帯電話を返そうと、持ち主、すなわち旧友の母親に連絡を取ろうと試みている。
しかし繋がらない。僕は直接に持っていくことにした。自宅から数分の距離に彼の家はある。(そういえば、あそこは今どうなっているのだろう。まだ建物はあるのだろうか)
ここからはどうしても映像として思い出すことができない。まるで真っ暗な画面に情報を含んだ電波が流れてくるだけのような、つまり、映像なしに何かを語られていたような気がする。
僕はその友人が亡くなったことを告げられた。告げられたという情報が真っ暗闇を伝って僕へ届いた。無論、現実にその人は生きているだろうし、その場合、このストーリーは失礼にあたるかもしれない。
僕はその時、ああ、あの転校生は彼そのものだったんだなと悟る。身なりも語りも全く異なるがしかし、両者が同一の人であることを直感する。
ここで僕は醒めた、ように思う。

書き綴ると、どこに感動したのか恐怖したのか、わからなくなってくる。陳腐な物語のように思えてくる。それは何か大事な要素を取りこぼしたからかもしれないし、またはそもそもがそういうレベルの話だったのかもしれない。
しかしともかく、夢の中で感じていた情動の起伏はまだ収まっていないし、それには何らかの意味さえあるような感じる。
全くもって、やはり夢というのは不思議だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?